編集長が行く しのびよる地球温暖化~夏山から消える雪渓~ Lapiz編集長 井上脩身

今年8月末、北ア・白馬岳(2932メートル)に約20年ぶりに登った。白馬岳の東の沢は大きな雪渓をなしており、この大雪渓をアイゼンを利かして歩くのが白馬登山の醍醐味。ところがこの雪渓が歴然と以前より小さくなっていた。10年くらい前から「地球温暖化が雪渓にも及んでいる」とうわさされていたが、その現実を目の当たりにしてがく然とした。地球温暖化による縮小であれば、ことは白馬大雪渓だけの問題ではない。北アルプス、いや東日本から北日本の山々の積雪量が減っていることを意味し、それはいずれ水不足という深刻な問題に立ち至る恐れがあることを示しているのだ。 “編集長が行く しのびよる地球温暖化~夏山から消える雪渓~ Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む

原発を考える 牛乳汚染する低線量放射能 ―酪農場近くの原発の恐怖― 文 井上脩身

私は最近、『低線量放射線の脅威』という本を読んだ。原発事故が起きた場合、どのような影響が出るのかを詳細にレポートしたもので、筆者はアメリカの統計学者ジェイ・M・グールド氏と、「放射線と公衆衛生プロジェクト」副責任者ベンジャミン・A・ゴールド氏(肩書はいずれも執筆当時)。同書ではスリーマイル島など11章に分けて、問題点を洗い出しているが、私がとくに注目したのは「乳児死亡率と牛乳」の章。福島原発事故が起きたとき、飯舘村の牧畜農家がもろに放射能汚染されたからだ。牛乳どそのように汚染され、子どもたちにどう影響を及ぼすのかを考えたい。 “原発を考える 牛乳汚染する低線量放射能 ―酪農場近くの原発の恐怖― 文 井上脩身” の続きを読む

びえんと ニューカマー時代の母語教育~善元幸夫先生の授業から~ Lapiz編集長 井上脩身

文部科学省役人の天下りあっせん問題の責任をとって2017年1月に辞任した元文部科学事務次官、前川喜平氏の『前川喜平 教育のなかのマイノリティを語る』が2018年9月、明石書店から刊行された。同書には「高校中退・夜間中学・外国につながる子ども・JGBT・沖縄の歴史教育」の副題があるように、それぞれの専門の6人の教育者との対談をまとめたものだ。私は書店でこの本を手にして、6人のうちの一人が善元幸夫先生であることを知り、強い感動をおぼえた。40年前、私が大阪の新聞社にいたとき、善元先生の授業を取材したからだ。20代の後半だった先生は、残留孤児の子どもを対象とした日本語学級の担任として、児童たちに真剣に向き合っていた。いま前川氏に注目される一人となった善元先生のその後の軌跡を知りたいと、ちゅうちょなく同書を買い求めた。そこに現代の教育の問題点が浮かび上がるのではないか、と思ったからだ。 “びえんと ニューカマー時代の母語教育~善元幸夫先生の授業から~ Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む

Lapiz2018Winter 巻頭言 Lapiz編集長 井上脩身

東京電力福島第一原発事故をめぐって業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣の公判で、武藤栄元副社長は「長期評価は信頼性がない」と述べました。長期評価というのは、2002年に政府の地震調査研究推進本部が福島沖でマグニチュード(M)8・2前後の地震が発生する可能性を公表したことをさします。これに基づいて東電の子会社が08年、同原発への津波が「最大15・7メートルに達する」との計算結果をまとめ、武藤氏に報告しました。この数値通りになるなら(実際、東日本大震災による津波は14メートルを超えた)、早急に対策をたてねばなりませんが、武藤氏はその信頼性を否定したのでした。私が不思議に思うのは、仮に信頼しなかったとしても、こうした予測値があるいじょう、なぜ最低限の措置をとらなかったかという点です。非常用電源を津波がこない高台に移しておけば、メルトダウンはおきなかったでしょう。東電トップという超エリートに最悪の事態だけは避けるという、当たり前の庶民感覚がなかったことに、原発問題の本質があるように思います。 “Lapiz2018Winter 巻頭言 Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む