アカンタレ勘太<3> いのしゅうじ作

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げんし人

勘太は校門のところでイッ子せんせいをまっている。隆三のおとうさんから「げんし人がよこ穴にすんでた」と聞いたので、げんし人とよこ穴のことをたずねてみようと考えたのだ。

せんせいが自転車でやってきた。

「あら、勘太くんじゃないの」

いつもおどおどしているのに、きょうはどうしたの? というおどろきの目で勘太をみつめる。

「げんし人ってどんな人ですか」

「げんし?」

「よこ穴にすんでた人です」

「あ、原始人ね。原子爆弾かとびっくりしたわ」

せんせいはククッとわらう。

「じゃあ職員室にいらっしゃい」

イッ子せんせいのつくえは職員室の窓のところ。入り口でもじもじしていると、せんせいが「こっちよ」と手でまねいてくれた。

「どうしてげんし人のこと知りたくなったの」

隆三のおとうさんが教えてくれた、とこたえると、せんせいは書だなから絵本をとりだした。

本のだいは「日本の歴史 旧石器時代」。「狩りをする古代人」のページをひらくと大きな絵。石オノを手にしたターザンみたいな姿の男たちがシカをつかまえている。

「二万年以上も昔よ」

「よこ穴にいたんですか」

「ほら穴にいたんじゃないかしら。スペインに有名な洞くつがあるわ」

勘太には、せんせいの言うことがよくわからない。お宮さんの森であそんだターザンごっこが、げんし人ごっこだったとわかっただけでも、しゅうかくだ。

教室にもどると、隆三がそばによってきた。

「よこ穴できたんや」

隆三のおとうさんがきのう山に行って準備したらしい。

つぎの日曜日。テッちゃんに武史、徹がくわわって隆三の家へ。

おとうさんがドンゴロスという布袋を五枚、作業小屋からとりだしてきた。ナイフで底を二十センチほどあけて、両わきをばさっと切る。

「着てごらん」

子どもたちが頭からかぶる。ゴワゴワして着ごこちがわるい。

「げんし人や。ぜいたく言うたらあかん」

おとうさんはなべ、まないた、アルマイトの食器、みそ入りの袋、キャベツを子どもたちにもたせる。みそ汁をつくるつもりらしい。

「カンテキとマッチは?」

カンテキは七輪のこと。テッちゃんがたずねると、隆三のおとうさんはニヤッとわらった。

「出発や」

隆三のおとうさんの後についてうら山をのぼる。十分もすると頂上。さらに山がつづいている。ササがうっそうとしているだらだら坂を三十分ほどすすむと、せまい空き地にでる。

「着いた」

空き地は草がぼうぼうに生い茂っていたが、隆三のおとうさんがわざわざ刈ってくれていた。

空き地のむこうに巨大な岩がすいちょくにたっている。その岩の下には、何かにえぐられたような大きな穴。はばと高さが二メートル、奥行きは三メートルくらい。

「子どものころ、ここであそんだんや」

げんし人の横あなやった、とおじいさんから聞いたという。

「うそやと思うけど」

わらいながら、おとうさんはほら穴の中から、ノート半分くらいの石を五個もってきて、なわで棒にくくりつけた。

「石オノができた」

勘太らが石オノを手に、

「シカがりだ」

とはしりまわる。そのころあいをみはからって、隆三のおとうさんは大きな声でみんなを呼んだ。

「さあ、火をおこすぞ」

火おこし

隆三のおとうさんが板を布袋からとりだした。長さが二十センチくらいの杉の板だ。

「これで火をおこすんや」

テッちゃんが「マッチは?」ときく。「使わん」という返事。

歴史が好きという武史が自信ありげにたずねる。

「火打ち石を使うんでしょ」

「ちがう」

おとうさんは布袋から三十センチくらいのなわ、五十センチくらいの細い棒をだした。

「火をおこす道具や。どんなふうに火が生まれるか考えとき」

と言って、なわをときほぐし、ふわっと丸くしている。

「何につかうのん」と勘太がたずねると、おとうさんは地面に「火口」とかいた。

「ひぐち?」

「ほくち、と読むんや。これが火だねになる」

「おふろたくとき、はじめに新聞に火をつける。その新聞みたいなもんか」

テッちゃんの質問におとうさんは、

「そや、その新聞や」

と笑顔でこたえ、

「枯れたススキをさがしといで」

とみんなに命じる。

そういえばここに来るとちゅう、ススキが風にゆれていた。

ススキを取ってくると、お父さんはほら穴の入り口に、ススキと木の枝を山形に組みあげる。

「さあ、はじめるぞ」

そばの切り株のうえに板と棒をおく。

棒の先に板をあてがい、両手できりもみにくるくる回しはじめる。

勘太は目をこらす。板が棒でこすられたところに木くずができる。

三分、五分――。木くずが赤くなる。

おとうさんはこの木くずを火口に移しかえる。

フーと息を吹きかける。ボッと小さく炎があがった。

「火や、火がついた」

テッちゃんは、体に火がついたみたいにこおどりした。

「マッチに火がつくのと同じりくつや」

といったのは武史。

「きみは賢いなあ」

隆三のおとうさんは火口を手のひらにのせ、火口でススキに火をつける。しばらくすると木の枝に火がもえうつり、ボーと炎がもえあがる。

「せいこう」

おとうさんはみんなに用をいいつけた。

武史と徹はキャベツを切る石をさがす役、テッちゃんはおたまの代わりの枝を見つける役、勘太はなべに水を入れる役。隆三は火のまわりを石でかこってかまどをつくる役。

勘太は鉄なべを手に岩のうら側にむかう。岩の間から水がわいている、とおとうさんが教えてくれたのだ。

すぐに見つかった。だが草のうえをチョロチョロと流れているだけだ。

ニ十分たっても勘太は帰ってこない。

とがった石でキャベツを切りおえた。みそをなべに入れるおたまの準備もできている。

なべはまだかとみんなイライラしている。

ようやく勘太の姿がみえた。

「勘太、はしれ」

テッっちゃんが大声をあげた。

勘太は水がいっぱいのなべをかかえながら走る。

煙がぱっと目にはいる。ほら穴の手前の小さな段差にけつまずいた。

体がぽーんと宙にはねる。

「あっ」

と勘太がさけんだとき、なべが手をはなれた。水が滝になってどっとかまどに流れおちる。

ジュー。

たちまち火は消えてしまった。

 

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