渡来人たちの宴《卑弥呼とアマテラス 5》片山通夫

古代の鏡

 ここで妄想をたくましくすることとしたい。三種の神器のうちの鏡の話である。おさらいをしておきたい。三種の神器とは日本神話において、天孫降臨の際にアマテラスがニニギ(瓊瓊杵尊、邇邇芸命)に授けた三種類の宝器であるところの鏡・八咫鏡(やたのかがみ)と剣・天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ、別名:草薙剣、読み:くさなぎのつるぎ)と玉(璽)・八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の総称をいう。中でも八咫鏡は記紀神話によれば、天照大御神の岩戸隠れの際に天津麻羅(鍛冶の神)と伊斯許理度売命(作鏡連(かがみづくりのむらじ)らの祖神、天糠戸(あめのぬかど)の子)が作ったとされ、『日本書紀』には天照大神を象って作られたことや、試しに日像鏡や日矛を前もって鋳造したことが伝わる。天宇受売命が踊り狂い、神々が大笑いすることを不審に思った天照大御神が岩戸を細めに開けた時、この鏡で天照大御神自身を映して、興味を持たせ、天手力男神によって外に引き出した。そして再び高天原と葦原中国は明るくなった、という神話は有名だ。

 天孫降臨の際、八咫鏡は天照大御神から邇邇芸命に授けられ、この鏡を天照大御神自身だと思って祀るようにとの神勅(宝鏡奉斎の神勅)が下された、という。

 堅苦し話はこれ位にして、アマテラスは鏡をもって高天原も含めて世の中を治めた。それが証拠にアマテラスが天岩戸に隠れると世の中が真っ暗の闇に包まれたと言われている。闇に包まれた世の中は死の世界である。これから、地上に降りて(天孫降臨)倭の国・日本の国造りをしなければならないのに真っ暗の闇ではどうしようもない。かくして岩戸の前に集まった神々は「アとマテラスがいなくても」明るく楽しい世界を演出した。すなわち天宇受売命が肌もあらわに踊り狂い、神々が大笑いしたという。

 一方卑弥呼だが、鬼道をもって人々、邪馬台国の周囲の国々を治めたと魏志倭人伝にある。

其國本亦以男子為王 住七八十年 倭國亂相攻伐歴年 乃共立一女子為王 名日卑弥呼 事鬼道能惑衆 年已長大 無夫婿 有男弟 佐治國 自為王以来少有見者 以婢千人自侍 唯有男子一人 給飲食傳辭出入居處 宮室樓觀城柵嚴設 常有人持兵守衛

「その国、本は亦、男子を以って王と為す。住むこと七、八十年。倭国は乱れ、相攻伐すること歴年、乃ち一女子を共立して王と為す。名は卑弥呼と曰う。鬼道に事え能く衆を惑わす。年すでに長大。夫婿なく、男弟ありて、佐(たす)けて国を治める。王と為りてより以来、見有る者少なし。婢千人を以(もち)い、おのずから侍る。ただ、男子一人有りて、飲食を給し、辞を伝え、居所に出入りす。宮室、楼観、城柵が厳設され、常に人有りて兵を持ち守衛す。」

 この古代の二人の女性は、太陽をあがめ、太陽を利用して、鏡を太陽神の象徴として人々の上に立っていた。それは神秘的な女性でなくては存在しえなかったはずである。

この項 了