読切連載《アカンタレ勘太》5-2 作・画 いのしゅうじ

夏の思いで

夏の思い出

夏やすみもあと五日。
勘太はしゅくだいの「夏やすみのおもいで」の絵をまだいかいていない。あわてだした
画用紙とクレヨンをとりだし、頭にうかんだ順にまとまりもなくかきだした。
さいしょにながれ星。画用紙のいちばん上にかいた。その下にアラカンの白馬。保津峡でのキャンプをおもいだし、じょうき機関車をグレー色であらわす。川をえがこうとして、川なら天の川をにしようと考えなおす。いちばん白にカヤをかきいれた。
二学期がはじまり、みんながそれぞれの「夏やすみのおもいで」の絵をだした。海や山、花火、おばあちゃんの里。どれもこれも元気があふれている。
そんななか、勘太の絵がイッ子せんせいの目をひときわひいた。おせじにもうまいとは言えない。だけど大きなひろがりをかんじさせる。
せんせいは勘太をしょくいん室によんだ。
なにかしかられることがあったか、とおどおどしている勘太。イッ子せんせいはにがわらいしている。
「どろぼうとまちがわれて大変だったわねえ」
勘太はしょくいん室がにが手。おどおどしている。
「メンコのこと、ここではベッタンっていうのね。おもしろい?」
「ぼくは下手やから……。アラカンの古いベッタンを持ってるだけ」
「嵐寛十郎のファンなのね」
「白馬でパカパカかけるとこが好きです」
せんせいは勘太の絵を指さして、
「アラカンの馬ね」
「アラカン、ながれ星をおいかけてるねん」
「じょうき機関車が川のそばをはしってるんだ」
「ちがう、天の川の上をとんでる」
「下のあみ、これ何?」
「カヤ」
せんせいは保津峡でのキャンプのことをきいて、
「勘太くん、カヤでお昼ねしていて夢をみたのね。この絵は夢がかいてあるんだ」
イッ子せんせいはぱっとなにかがひらめいた。
下宿にかえると本だなから『銀河鉄道の夜』をひっぱりだし、パラパラとページをくる。
つぎの日、鞍馬天狗の映画をみた? とみんなにたずねた。ほぼ全員が手をあげた。
「あの夜、空に天の川がかかっていたのに気づいたひと?」
これは半分くらい。
「映画みてたんや。空なんか見てへん」
と裕三。「天の川」めずらしない」と言いだした。
「そうね、めずらしくないわね」とわらって、
「みやざわけんじ(宮沢賢治)という人がかいたの」
と、せんせいは『銀河鉄道の夜』の本をかかげた。
「列車で天の川までいくお話よ」
みんなの顔をみまわしてたずねてみる。
「もし天の川に行けたら何をみたい?」
子どもたちはかってなことを言いだす。ワーワーとさわがしい。
「五つにグループをわけるから、グループごとに考えてみて。つぎのつぎの週には、はっぴょうしてもらう」
といって、
「作文をかいて、それをろうどくするのもいいし、紙芝居でもげきでもいいわよ。持ち時間は五分」
とつけくわえた。
五人のはん長が決められた。それぞれのグループは十人だ。武史のグループに勘太やテッちゃん、隆三、ユキちゃん、タミちゃんがはいった。
つぎの日曜日、武史の家に十人があつまった。
武史は、勘太がイッ子せんせいによばれたことが気になっていた。
「せんせいになにをきかれたんや」
勘太は「夏休みのおもいで」の絵のことをはなした。
「アラカンの白馬がながれ星をおいかけてる、ってこたえた」
武史は「よし」と手をうった。
「ぎんがてつどうが、ながれ星をおいかけてることにしよう」
「それがええ」
みんなが頭をしぼりだした。

ながれ星の国

ながれ星の国

ぎんがてつどうがながれ星をおいかける。そのあとをどうつづけるのか。
武史グループの話しあいに熱がこもる。しゃべるのはおもにテッちゃんと隆三、それにタミちゃん。
「ぎんがてつどうがながれ星駅につく」
「ぎんがてつどうの客は王さまのやかたに行く」
「王さまとおひめさまが待っている」
「ごちそうを食べ、天の川を船でゆうらんする」
ここまで話がすすんだとき、武史が
「ええこと思いついた」と、目をきっとひらいた。
ながれ星は、地球にかんさつにきた。ながれ星人は空から人間のやることをよく見ていて、国にもどると地球そっくりの町をつくる。
「という話にするねん」
「星がながれているように見えるやろ。あれはかんさつがおわり、自分の国にかえっていくとこなんや」
みんな「へえー」とこっくりうなずく。
「そしたら、天の川ぞいの町はちきゅうそっくりの町なんやね」
「ながれ星人はちきゅうを上から見るから、ぜんぶがさかさになる。そやからエンパイアステートビルもエッフェル塔もさかさにつくった」
「王さまのやかたは、さかさの国会ぎじどう」
「ほんなら、ながれ星人はさかだちしとるんちゃう」
「そや。人間をまねたから、さかさ人間になった」
「王さんはンカラア、おひめあまはリバヒ。アラカンとヒバリのさかさや」
つぎつぎに出るとっぴょうしもないおもいつきをまとめて、武史はひとつの物語にした。
ぎんがてつどうがながれ星をおいかけ、ながれ星駅にとうちゃく。じょうきゃくは、けらいにつれられて、さかさの国会ぎじどうのような王さまのやかたへ。さかだちのンカラア王とリバヒひめがむかえてくれる。
ごうかな食事をごちそうになった後、さかさのクリーンエリザベス号にのり、色とりどりのほうせきがながれる天の川をゆうらん。岸べにはエンパイアステートビルやエッフェル塔がさかさにたっている。とおくにさかさの富士山が見える。
「げきにしましょ」
とタミちゃん。
「はいやくを決めんといかん」
武史がにやっとわらってつげた。
「ンカラア王は勘太、リバヒひめはユキちゃん」
「スカートでさかだちなんかでけへん」
というもんくがみとめられ、ユキちゃんはリバヒひめの絵をもつだけでいいことに。
ンカラア王役の勘太はさかだちが下手にきまってる。勘太の足をささえるのはテッちゃん。けらいには隆三。タミちゃんは物語のろうどく。かんとくは武史。あとの四人はぎんがてつどうのおきゃくさん。
ということになった。
さらにつぎの日曜日。みんなで新聞屋さんに行き、大きな紙をわけてもらう。としょしつでかりた本をみて、ぎんがてつどうや王さまのやかた、天の川、エンパイアステートビルなどの絵をかいた。
はっぴょう会をむかえた。
武史のグループはとりだ。
ちきゅうの客が王さまのやかたにつくと、ンカラア王がでむかえる。
というばめん。
「ガウアギャゴアクワゲギャ」
勘太は、カラスがやぶれたのどからはきだしたときみたいなさけび声をはりあげた。
さかだちの手がしびれ、たえられずに頭からゴツンと床におち、たまらずひめいをあげたのだ。
きょうしつのみんなは、王さまがながれ星語で、
「ようこそながれ星国へ」
と言ったとおもった。
ぎゃーっとしかめた顔、きーっとくいしばった歯。ながれ星の国の王さまをみごとにえんじてる。
パチパチパチパチ!
勘太にさかんな拍手がおくられた。

アカンタレ勘太 全

いのしゅうじ
本名、井上脩脩。近鉄文化サロン上本町・文章教室講師