編集長が行く ー上ー《暴かれた財務省トップ官僚の不正》文、写真 Lapiz編集長 井上脩身

―森友事件で自殺した役人の怨念の手記―


 森友学園への国有地売却を巡る財務省の決済文書改ざん問題で、2018年3月に自殺した近畿財務局上席国有財産管理官、赤木俊夫氏の妻が3月18日、国と佐川宣寿・元国税庁長官に計1億1000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。併せて妻は、「財務省が国会で真実に反する虚偽の答弁を貫いている」などと詳細につづった夫の手記を公表。この中で森友事件について赤木氏は、「(財務省が)ウソにウソを塗り重ねた」と鋭く指弾している。この提訴が報道されたとき、私は、森友事件の中心人物である籠池泰典・元森友学園理事長が今年2月に著した『国策不捜査――「森友事件の全貌」』(文藝春秋)を読み始めたところだった。籠池前理事長は同学園の小学校建設に関する補助金を不正に受給したとして2017年7月、大阪地検に詐欺容疑で逮捕され、20年2月19日、大阪地裁で懲役5年の実刑判決をうけた。一方、この小学校の用地にかかわって国が不当に安く払い下げたことを隠蔽するために文書改ざんを指示した疑いのある佐川元局長について、大阪地検は2018年5月31日に不起訴処分にしている。赤木氏の手記をみるならば、不起訴が不当であることは明かだ。文書改ざんは、森友問題について、安倍晋三首相が国会で「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と答弁したことから始まっている。赤木氏の命を賭しての怨念の叫びに耳を貸す姿勢すらみせない安倍首相には、人間としての最低限の道義心すらない、というほかない。

「刑事罰を受けるべき理財局長」

手記を残した赤木俊夫氏(毎日新聞の記事より)

赤木氏の手記は、自殺1カ月前の2018年2月に書かれた。A4判で7ページ、新聞紙面にしてほぼ1ページ分もの長文である。3分に1に縮めて掲載する。

はじめに

昨年(2017年)2月から7月までの半年間、これまで経験したことのない異例な事案を担当し、連日の深夜作業や休日出勤を余儀なくされた。この「森友学園への国有地売却問題」事案が長期化、複雑化しているのは財務省が国会などで真実に反する虚偽の答弁を貫いていることが最大の原因。この手記は、本件事案に関する真実を記しておく必要があると考え、作成した。

1、森友学園問題
近畿財務局が豊中市の国有地を森友学園に売却したのは2016年6月20日。この時点では、本件事案を担当していないので、金額の交渉などに関して、どのような経緯があったのか承知していない。
2、全ては本省主導
財務局が現場として対応中の個別の事案は、動きがあった都度、本省に報告するのが通常のルール。本件は通常のルールに加えて、強烈な個性を持ち、国会議員や有力者と思われる人物に接触するなどの特異な方法(もとられた)前代未聞の事案。近畿財務局が本省の了解なしに勝手に学園と交渉することはあり得ない。本省は詳細な事実関係を十分に承知している。

国会で答弁する佐川宣寿・元財務相理財局長(ウィキペディより)

(1) 国会対応
佐川(前)理財局長の「面談交渉記録(の文書)は廃棄した」などの答弁が国民に違和感を与えている。一般的に応接記録の文書の保存期間は1年未満だが、実際には執務参考記録として保管されている。「廃棄した」と説明(答弁)した理由は、応接記録に細かい内容が記されているので、財務省が学園に特別の厚遇を図ったと思われることを避けるため、佐川局長が判断したと思われる。
(2)国会議員への説明
野党議員からのさまざまな追及を避けるため原則として資料をできるだけ開示しないこと、開示するタイミングもできるだけ後送りする(ようとの)佐川局長の指示があったと聞いている。
(3)会計検査院への対応
会計検査院の特別検査(2017年4月、6月)の際の基本姿勢。
決議書などの関係書類は示さず、本省持参の一部資料の範囲内のみで説明する。
応接記録、法律相談の記録などの内部検討資料は一切示さない(検査院へは「文書として保存していない」と説明するよう本省から指示)。2018年2月の衆院予算委員会における「資料に気付く状態に至らなかった」という理財局長答弁は全くの虚偽。
(4)財務省の虚偽答弁
資料は最小限、できるだけ資料を示さない。検査院には法律相談関係の検討資料は「ない」と説明。こうした対応は、連日国会で取り上げられた佐川理財局長の国会答弁と整合を図るよう、本省幹部(理財局次長、総務課長ら)の基本姿勢。
3、財務省は前代未聞の「虚偽」を貫く
2018年1月から始まった国会では、太田(現)理財局長が前任の佐川局長の答弁を踏襲することに終始し、国民の誰もが納得できないような詭弁を通り越した虚偽答弁が続けられた。しかし近畿財務局の誰一人として事実に反すると反論できない。それが本省と地方の関係であり、キャリア制度を中心とした組織の実態。
4、 決裁文書の修正(差し替え)
野党に資料を示した際、学園に厚遇したと取られる疑いの箇所は全て修正するよう、佐川局長の指示があったと聞いた。
佐川局長の指示を受けた本省理財局のA補佐は過剰に修正箇所を決め、A氏が修正した文書を近畿局で差し替えた。
第1回は2017年2月26日。出勤していた統括官から、本省の指示の作業が多いので手伝ってほしいと連絡を受けて出勤。
3月7日ごろにも修正作業の指示が数回あり、現場として私は相当抵抗。管財部長からは、当初は応じるなとの指示だったが、本省理財局総務課長らから管財部長に直接電話があり、応じることはやむを得ないと近畿財務局長に報告したと承知している。この事実は、管財部次長ら幹部も知っている。
本省から出向組の別の次長は「元の調書が書き過ぎている」と、調書の修正が悪いこととも思わず、本省の補佐の指示に従い、あっけらかんと修正作業を行い、差し替えた(大阪地検はこの事実を全て知っている)。
佐川局長が、修正箇所を事細かく指示したかはわからないが、補佐が修正箇所をどんどん拡大、修正した回数は3回から4回程度と認識している。
森友事案は、すべて本省の指示。本省が処理方針を決め、国会対応、検査院対応すべて本省の指示(無責任体質の組織)。本省による対応が社会問題を引き起こし、嘘に嘘を重ねるという、通常ではあり得ない対応を本省(佐川)は引き起こした。
この事案は、本省が当初から鴻池議員などの陳情を受け止めることから端を発し、本省主導で課長クラスの幹部レベルで議員らの要望に応じたことが問題の発端。
〇刑事罰、懲戒処分を受けるべき者
佐川理財局長、当時の理財局次長、総務課長、企画課長、国有財産審理室長ほか幹部。担当窓口の補佐(悪い事をぬけぬけとやることができる役人失格の職員)。

公文書から昭恵夫人の名前削除

赤木氏の手記全文が掲載された新聞(毎日新聞の記事より)

報道によると、赤木氏は国有地の売買を担当する部署に所属。大阪府豊中市の土地を大幅に値引きして森友学園に売却した問題が発覚した2017年2月以降、指示を受けて3~4回、改ざん作業をさせられた。同年7月にうつ病と診断されて休職。改ざんが報道されて表面化した直後の2018年3月7日、自宅で命を絶った。遺書には「手がふるえる 恐い 命 大切な命」などと記されていた。(2020年3月19日付毎日新聞)
改ざん問題に関して財務省は2018年6月、佐川理財局長(その後、国税庁長官。発覚後辞任)が主導したとの調査報告書を公表。それによると、2017年2月から4月にかけて文書14件が改ざんされ、安倍首相の妻昭恵氏の名前が削除された。大阪地検特捜部は告発を受けて有印公文書変造容疑で捜査したが、佐川元局長ら改ざんに関与した財務省の職員38人全員を不起訴処分にした。
赤木さんの妻は「夫は改ざん作業をさせられた苦痛と苦労からうつ病を発症した」として提訴したもので、「自殺に追い込まれた原因を明らかにしえほしい」と訴えている。麻生太郎財務相が「新たな事実は見つかっていない」として再調査をしない方針を示したことに対し、赤木さんの妻は「安倍首相や麻生財務相らは調査される側」と反発。第三者委員会による調査の実施を求めるための電子署名運動を始めた(3月28日付同紙)。
以上が新聞報道に見られた赤木氏の手記の内容と、その補足データである。繰り返すが赤木氏が自殺したのは2018年3月である。2年がたった今、なぜ公にされるに至ったのだろう。不思議に思っていると、3月27日の毎日新聞夕刊に相澤冬樹元NHK記者に対するインタビュー記事が掲載され、疑問が解けた。相澤氏は、赤木さんの妻から手記や遺書を託され、「週刊文春」の誌上で報じたのである。相澤氏は、現在は大阪日日新聞の記者。著書に『安倍官邸vsNHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋)がある。
このインタビュー記事によると、相澤氏はNHK大阪放送局で森友問題を取材してスクープ放送したところ、報道部門から外された。取材を続けるためにNHKをやめたことを知った赤木氏の妻から、赤木氏が亡くなって8カ月後に連絡があった。赤木氏の妻は手記を初めて読んだとき、夫がその内容を世の中に伝えてほしいと望んでいることが分かった。財務省やマスコミの取材攻勢が怖かったが、このままでは闇に葬られてしまう、と相澤氏に託したという。
「なぜ改ざんが行われたと思うか」とのインタビュアーの質問に、相澤氏は「あの土地取引はいかにもまずいと財務省の官僚も思っていた」と答えたうえで次のように述べた。
土地取引を実質的に行ったのは、赤木氏の直属の上司の統括官だとされている。財務省はずっと「地中にはごみがある。その撤去費用」と言い続けていたが、この上司は「8億円値引きの根拠は薄弱」と発言をしていたという。
では、なぜ8億円も値引きされるに至ったのか。相澤氏は以下のようにみる。
森友学園の籠池前理事長が、建設する小学校の名誉会長だった安倍首相の妻、昭恵氏の名前を使ったことが大きく響いた。保守団体「日本会議」の関係者からも賛美されていた籠池前理事長が理想の教育を行うためのパイロット校だから、何とか建設させようと応援した。官僚の忖度とは別の力が働いたと思う。森友問題の本来の入り口は「8億円の値引きは正しいのか」ということ。改ざんについては佐川氏、土地取引については赤木氏の直属の上司がすべての真相を知っているはず。この二人が国会に証人喚問されて事実を包み隠さず話せば、問題は終わる。
以上のようにインタビューに答えた相澤氏は自民党と公明党のホームページに、証人喚問するよう意見を寄せてほしいと呼び掛けた。「命を落とした赤木さんのために、真相を解明したいというふつうの人間としての思いは共通するはず」との思いからだという。

国有地8億円値引きの裏

赤木氏は手記のなかで、国有地の森友学園への売却額の交渉については「承知していない」としている。森本事案の担当前のことだから当然だ。この売却額について実質8億円も値引きされ、しかもそのきっかけになったのが安倍首相夫人の昭恵氏の存在であることを隠すために文書を改ざんした、との疑いは濃厚である。その疑惑が渦巻く中、赤木氏が自分の命と引き換えに内部告発として手記をしたためた。
手記と相澤氏の推論から以上のように考えられるが、事件の当事者である森友学園の籠池前理事長はどうみているのであろう。私は『国策不捜査――「森友事件の全貌」』を、いっきに読んだ。同書は480ページの分厚い本である。森友事件を取材しているノンフィクション作家、赤澤竜也氏との共著の形をとっており、籠池前理事長の執筆(または供述)は明朝体で、赤澤氏の原稿はゴチック体で表すというユニークな編集である。
同書のなかでとりわけぐいぐい引きこまれたのは、逮捕された籠池前理事長と大阪地検特捜部検事とのやりとりだ。黙秘する籠池前理事長に、「黙秘するのは左翼。右翼は何でも正直に話す」などと供述を迫る検事。その息詰まるやりとりは、事件を扱ったノンフィクションもののなかでも白眉といえるだろう。本稿のテーマは8億円の値引きと昭恵夫人のかかわり、そして公文書の改ざんなので、あえて深入りはしない。

以下は『国策不捜査』の中身である。

8億円値引き問題
2016年3月30日、近畿財務局から2人、大阪航空局から2人、S弁護士、F工業(施工業者)1人が同学園経営の塚本幼稚園に来て協議した。
近畿財務局の統括国有財産管理官が「(学校用地の地下のゴミの)撤去費を行政判断で、(国有地の)評価額から差し引くのか、鑑定評価の中に含めて引くのかという方法はある。評価額から撤去費相当額を鑑定とは別に引くという考え方が正しい」と発言。国側の職員が「(地下)3メートルより下にあるゴミは、国は知らなかったというストーリーでイメージしている」と踏み込んだ。F工業が「3メートルより下から(ゴミが)出てきたという情報は伝えてない」と反論。「9メートルまでガラ(ゴミ)が入っている可能性は否定できないだろう」と管理官。結局、「3メートルから9メートルの範囲で(ゴミが)混在している」ことにし、土地の鑑定額9億5600万円から新しいゴミの撤去費分を差し引くことになった。
同日夕、統括国有財産管理官らがS弁護士事務所を訪れ、国費で払っている有益費、1億3200万円を下回る値段はつけられない、と切り出した。これに対しS弁護士は「(森友)学園の財務状況を考えると、1億6000万円が限度」と応えた。この交渉に籠池前理事長は立ち会っておらず、後に電話で聞いたという。
こうした経過があって、統括国有財産管理官は
「1億3000万円以下への値下げは厳しいが、10年分割の支払いは可能」と提案。森友側は受け入れ、1億3400万円で売却されることになった。新たなゴミ撤去・処分費としての8億2200万円の値引きに、籠池前理事長は「大変ありがたい話。資金繰りがかなり楽になる。まさに至れり尽くせりだった」と述懐している。

神風第一弾のスリーショット写真

森友夫妻とともに安倍昭恵氏が写っている写真(『国策不捜査――「森友事件の全貌」』の裏表紙より)

『国策不捜査』の引用をつづける。
安倍首相と昭恵夫人
籠池前理事長は教育を携わるなか、日本会議と関わるようになった。日本会議は憲法改正のために安倍首相を支援してきたが、籠池前理事長はその一助にと、自分がつくろうとしている学校に「安倍晋三記念小学校」と名づけた。
2011年10月ごろ、幼稚園のPTAの紹介で昭恵夫人と知り合った。当初は安倍事務所の秘書を通して連絡を取り合っていたが、昭恵夫人がそれを嫌がるようになり、直接やりとりするようになった。12年、昭恵夫人を通して、「安倍晋三記念小学校」という名前をつけることの承諾を得た。
同年9月、安倍首相が塚本幼稚園で講演することになっていた。急きょ、自民党の総裁選に立つことが決まり、籠池前理事長に直接、丁寧なお詫びの電話が入った。9月11日付の幼稚園保護者に宛てた「衆議院議員安倍晋三」名の「後日、必ず貴園を訪問し、皆様に挨拶させていただきます」と記されたはがきも届いた。
14年3月14日、「ホテルオークラ東京」の割烹料理店で籠池前理事長が昭恵夫人に会った。「安倍晋三記念小学校」という名前について「現役の首相になったのでまずいのではないか」と昭恵夫人が切り出し、前理事長は即座に承諾。同月25日、昭恵氏が夫人付職員の谷査恵子氏をともない、塚本幼稚園と小学校建設予定地を視察に訪れた。昭恵夫人が「いい田んぼができそうですね」と言ったことから、「瑞穂の國記念小学院」のネーミングが浮かんだ。建設予定地で谷氏が籠池前理事長、同夫人、昭恵氏の3人の写真を撮影した。(同書の裏表紙に使用されている)
4月28日、籠池前理事長が近畿財務局を訪ねて、昭恵夫人が幼稚園を来訪、小学校用地も視察したことを伝えると、統括官の顔色が変わった。「写真とかあるんですか」と聞くので、昭恵夫人、前理事長、その妻のスリーショットの写真をみせると、「局長にも見せておかなければ」とコピーをとった。同財務局には「安倍晋三記念小学校」という名前で進めることは何度も伝えていた。鴻池議員らの力添えもあって、同財務局の職員が何度も大阪府に足を運んでいたが、この写真を見せてから、ギアが3段階進んだ。「神風」が吹くきっかけの第一弾だった。
12月17日、近畿財務局の担当者から売買契約締結までの「手順書」をもらった。そこに「要望書案」があり、籠池前理事長が「特例」をお願いする形に作られているなど、手取り足取り面倒をみてくれた。この10日ほど前の12月6日、昭恵夫人は総選挙中にもかかわらず塚本幼稚園で「ファーストレディーとして」の題で講演。「主人に『前からお約束していたので、選挙区をぬけさせてください』とお願いして、皆さんにお目にかかりに来た」と述べた。
15年9月5日、昭恵夫人が幼稚園訪問した。3回目だ。昭恵夫人から名誉校長就任の承諾を得た。園長室で籠池前理事長と二人で話していると、昭恵夫人はカバンの中から封筒を取り出した。「どうぞ」というので中を見ると金子が入っている。「いいんでしょうか」と聞くと、夫人は「安倍晋三からです」という。100万円であることを確認。後で昭恵夫人から電話が入り「100万円の件は内密に」といわれた。
その後、学園の資金繰りについて昭恵夫人に助けてもらおうと携帯に留守電をしたところ、谷査恵子氏から「昭恵夫人から『籠池さんがお急ぎのようなので連絡してほしい』と頼まれたので代わりにかけた」と電話があり、用件を伝えると「大切なことなので文書に」という。慌てて「10年の国有地賃借契約を50年に延ばしてほしい」などの要望を文書にし、10月26日に送った。11月17日付で谷氏から籠池前理事長に「財務相本省に問い合わせた。希望に沿うことはできない、との回答だった。昭恵夫人にも報告した」とのファクスが届いた。
安倍首相は国会で問いただされ、「ゼロ回答。何ら影響はなかった」と答えたが、ゼロ回答どころか、結果は「8億円値引きという格安の買い取りが成功した。こちらの依頼をはるかに上回る実りをもたらしてくれた」(籠池前理事長)という超満額回答だった。

首相発言を機に記録廃棄

引き続き『国策不捜査』の引用。
文書改ざんと赤木氏
2017年2月9日、朝日新聞が森友学園への国有地売却をめぐって「金額非公表、近隣の1割か」と特報。近畿財務局の統括国有財産管理官から籠池前理事長に「『記事は事実誤認。森友学園は国に対し非開示を求めている』と答えるように」と電話してきた。国の機嫌を損ねて小学校設立に支障をきたしては一大事なので、事実と異なるが応諾する。
2016年秋、国有地の売買契約を終えたのち、籠池前理事長が近畿財務局で打ち合わせをした際、統括国有財産管理官の横に赤木氏がすわっていた。「今後ともよろしくお願いします」と上席国有財産管理官の名刺を差し出す赤木氏に前理事長は、実直そうな人との印象をもった。
「私や妻が関わっていたら総理大臣も国会議員もやめる」という安倍首相の発言があった17年2月17日、S弁護士事務所で籠池前理事長が統括国有財産管理官と赤木氏と面会。余りにも異様な雰囲気、と前理事長は感じた。
「平成28年3月に新たに発見された地下埋設物については、小学校の建設に必要となる処理を適切に実施済み。地下埋設物の処理に際しては、掘削、埋め戻し、運搬、処分等の様々な経費を相当程度要しているが、建設工事費との明確な区分が困難であるため、地下埋設物の処理費のみを取り出してお示しすることはできない」と記した書類に強引にサインするよう求められた。サインを拒んだものの、彼らの言うとおりにマスコミ対応をすることにはその場で承知した。籠池前理事長が赤木氏に会ったのはこれが最後だった。
翌18日、S弁護士から「しばらく身を隠せ」といわれた。佐川局長の指示と聞かされたので従った。隠れているとき、財務省からS弁護士に8億円分にあたる残土約1万2000立法メートルについて、電話で「トラック何千分でゴミ搬出したと言ってほしい」と言ってきた。
その数日後の2月24日か25日。籠池前理事長が近畿財務局に電話すると赤木氏が電話口に出た。「ちょっと教えてもらいことがあるんだけど」というと、口ごもって、「直接お話できないことになりました」。そして「窓口を一本化することになった」と統括国有財産管理官に代わった。管理官は「近畿財務局と森友学園とのやり取りはS弁護士に一本化するよう本省から指示された」と答えた。
3月になるとS弁護士は大阪府への設置認可申請について「取り下げた方がいい」といい、籠池前理事長とS弁護士の足並みが乱れだした。ほどなくS弁護士は辞任した。
籠池前理事長は調査報告書の改ざんについて、交渉記録の廃棄が17年2月17日の首相発言がきっかけであることがわかった、といい、「ゴミの撤去費用がはっきりしない」という趣旨の書類にサインを求められたことから、この日から事態が大きく変わった、とみる。
この報告書に赤木氏についての記載がないことについて「死人に口なし。汚い仕事を押し付けられ、抗議の意味を込めて命を絶った同僚のことを、まるで最初からいなかったように扱っている。財務省は、自分たちが行ってきたことの悲しい結末について、正面から向き合うことをハナから拒否している」と痛烈だ。
赤木氏がどのように森友事案に当たっていたかは、赤澤氏がまとめている。
赤木氏は森友学園と国との土地取引が終わった後、瑞穂の國記念小学院の担当になり、売却後のトラブル処理に深く関わった。2016年9月2日、統括国有財産管理官とともに、この国有地の疑惑の端緒となる調査を行った豊中市議と面談。りそな銀行と森友学園の交渉の仲介もしている。事件が新聞報道されたとき、塚本幼稚園を訪ね、問題の国有地を7億円で購入しようとしていた大阪音楽大学とも電話でやり取りしている。朝日新聞の記事の中にある「法人(大阪音大)が7億円で購入しようとした」という箇所を訂正させるためのお先棒を担がされた可能性がある。さらに、財務省内での昭恵夫人関連の交渉記録(応接録)の廃棄にも関わっていたと推察される。
17年2月、赤木氏を含む近畿財務局の職員は本省理財局の指示で決裁文書の改ざんを実施。その後、必死に抵抗し3月半ば以降の改ざん行為には関与していない。
1年後の18年3月2日、国有地払い下げ疑惑について朝日新聞が報道。その5日後、赤木氏は神戸市内の自宅で自殺した。
籠池前理事長は「何度もお会いしているだけに断腸の思いに堪えない。死を賭してまで彼が訴えたかったことは何なのか」とつづっている。(明日に続く)

井上脩身 (いのうえ おさみ)1944 年、大阪府生まれ。70 年、毎日新聞社入社、鳥取支局、奈良支局、大阪本社社会部。徳島支局長、文化事業部長を経て、財団法人毎日書道会関西支部長。2010年、同会退職。現LAPIZ編集長