編集長が行く ー下ー《暴かれた財務省トップ官僚の不正》文、写真 Lapiz編集長 井上脩身

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―森友事件で自殺した役人の怨念の手記―

ワナにはまった籠池前理事長

近畿財務局が入っているビル(ウィキペディより)

赤木氏の手記を報じた「週刊文春」の記事 森友問題にかかわる公文書改ざんが、「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と安倍首相が答弁したことから始まったことは繰り返しふれた。なぜ安倍首相は大見えを切ったのだろうか。その理由がわかれば森友事件のナゾが解けるように思われる。本項ではそのナゾに迫りたい。
『国策不捜査――「森友事件の全貌」』によると、2014年3月4日、籠池前理事長とその妻が昭恵夫人とホテルオークラ東京の割烹料理店で会ったとき、夜の10時になったので、安倍首相から昭恵夫人に携帯電話が入った。元々、この会合には安倍首相も加わることになっていたが、急用ができてドタキャンされていた。首相自身、塚本幼稚園での講演ができなくなってお詫びのはがきを送っていることも併せて考えると、少なくとも昭恵夫人が小学校建設に何らかの形で関わったことは知っていたに違いない。安倍首相に昭恵夫人のかかわりを隠せるという確信がなければ、大見え発言はできなかったはずである。
関わりを隠すためには二つの要件を満たさねばならない。一つは関わっている証拠を隠滅すること、もう一つは「昭恵夫人が関わっている」との証言をウソと言い切ることである。
手記による2017年2月26日に本省の指示で第1回の文書改ざん作業が行われている。その改ざんをいつだれが指示したか。
2月18日、籠池前理事長はS弁護士から「しばらく身を隠せ」といわれた。その指示をしたのは佐川理財長とS弁護士だった。「身を隠せ」というのは、籠池前理事長がマスコミの取材に本当のことを言わせないためだ。おそらく前理事長が知らないうちに、佐川局長とS弁護士の間でなんらかの話し合いが行われていたのであろう。前理事長の口封じだけでは証拠隠滅はおぼつかない。近畿財務局と森友学園の間の交渉記録など、昭恵夫人がかかわったことを示す明白な証拠があるからだ。
公文書の改ざんについて、当初は「応じるな」と言っていた近畿財務局の管財部長が、「応じることはやむを得ない」と苦汁をのまされたほどに改ざんの指示は徹底していた。その指示者に、どんなことがあっても隠しきらねばならないとの強固な意志があったと思われる。指示者が佐川局長であることは紛れもないが、佐川局長にそうした決意をもたせるに至るさらに強い力が官邸側から働いていたに相異ない。官邸官僚の忖度という弱い力ではなく、上からの積極的な力が働いたとみるべきであろう。
文書改ざんをするのは、ほかならぬ絶対に不正が許されないはずの官僚である。その不正を組織的に行おうといのだから、組織上の上下の力の働きを示す証拠を残してはならない。それゆえ隠蔽工作が徹底していたのだ。証拠隠滅に強い自信があればこそ、安倍首相は大見えをきれたのである。
もう一つの「昭恵夫人が関わっている」との証言をウソとすることについて。この証言をできるのは籠池前理事長とその妻である。したがって、この二人をウソつきにしなければならない。ウソつきの言うことだからウソである、という論理だてにしようというわけだ。前理事長を人格的に否定するには、犯罪者に仕立てあげるのが最も手っ取り早い。

赤木氏の手記を報じた「週刊文春」の記事

ここまで書いて、西山事件を思いだした。1971年の沖縄返還協定に際し、アメリカが地権者に支払う土地原状回復費400万ドルを日本が肩代わりするとの密約を暴いた毎日新聞記者、西山太吉氏による「外務省機密漏洩事件」である。佐藤政権下の政府は「機密はない」と否定する一方、西山氏が情報を得るために外務省の女性事務官と性交渉をしたことを暴露。東京地検特捜部は西山氏を国家公務員法の機密漏洩罪の教唆容疑で逮捕した。毎日新聞は世論の非難を浴び、政府の密約そのものへの疑惑の目をそらせることに成功した。西山氏には二審の東京高裁で懲役4月、執行猶予1年の判決が下された。
この事件は、密約という隠された真実を国民の目からそらすためには、政府権力者は当事者の人格を否定し、刑務所に放り込むことを示している。
籠池前理事長もそのワナにはまってしまった。
森友学園の小学校は2015年1月27日の大阪府の私学審議会で、条件付きながら「認可適正」とされた。ところが、安倍首相発言5日後の2017年2月22日の私学審で設置許可は保留に。同24日には、安倍首相が衆院予算委員会で「(籠池前理事長は)非常にしつこい中において、非常に何回も何回も熱心に言ってこられる中にあって……」と発言。質問者の福島伸亨議員が「先週、総理は『私の考え方に非常に共鳴している方』と、同志愛を示されていたのに」と驚いたほどに、180度評価を変えた。
同じ日、業者が「学校用地にゴミを埋め戻した」と証言したとの報道が流れたのを受け、松井大阪府知事(当時)は3月2日、「ゴミが埋まっているようでは……」と認可に消極的な姿勢を示す。3月16日、籠池前理事長が、昭恵夫人が100万円を持ってきたことを公にすると、17日、松井知事は補助金不正受給で刑事告訴を検討していると明言した。
大阪府が大阪地検特捜部に告発状を送ったのは同年5月19日。7月31日、籠池前理事長夫妻は逮捕された。総選挙公示翌日の10月11日、安倍首相は民放での党首討論で「こういう詐欺を働く人物の作った学校で、妻が名誉校長を引き受けたのは、こういう人だから騙されてしまった」と述べた。翌年2月5日の国会では「籠池さん、まっ赤なウソ、ウソ八百」と言い放った。

潜む憲法改変の思惑

前項でみたように、籠池前理事長をウソつきにするため、松井大阪府知事と連携していたことがうかがえる。ここに、森友問題の本質を考えるうえでの重要なヒントがありそうだ。
私の知り合いの女性があるとき、「籠池さんてウソつき。あの人のいうことは何もかもウソ」と言ったことがある。その場には4、5人がいて安倍首相の「桜を見る会」が話題になっていた。首相の言うことを信用できるか、ということに話しが及んだとき、突然、女性は「ウソつき」と、ほとんど脈絡なく言いだしたのだ。この女性は天皇の継承について、「男系男子が皇位につくのが日本の伝統。伝統は守られるべきだ」と考える人だ。
この女性が日本会議のメンバーとは思えないが、思想的に近いことに少し驚いた。今、『国策不捜査――「森友事件の全貌」』を読んでいて、彼女のつぶやきを思いだしたのである。
籠池前理事長が2017年3月16日、昭恵夫人から100万円を受け取ったことを暴露したことはすでに触れた。同年4月6日、日本会議大阪の代理人弁護士名で、籠池前理事長の弁護士宛てに、「日本会議大阪の運営委員の辞任を」といった内容の文書が送られた。籠池前理事長は「自分は日本会議大阪の発起人」といっている。その日本会議から離縁を申し渡されたのだ。
なぜ日本会議は前理事長に三行半を突き付けたのだろうか。
そのころ、塚本幼稚園で園児に教育勅語を暗唱している様子がテレビで放映され、その異様さに多くの人々が驚いた。
教育勅語は、①皇室の尊崇②憲法の改正③国防の充実④愛国教育の推進――などを基本運動方針とする日本会議の精神的支柱といってよいであろう。日本会議をバックアップする「日本会議国会議員懇談会」の有力メンバーである稲田朋美元防衛相が国会で「教育勅語の精神、その核の部分はとり戻すべきだ」と述べたこともある。弁護士である稲田氏を衆院選に出馬するよう指導したのは安倍氏である。こうしたことを総合すると、塚本幼稚園は日本会議の唱える愛国教育の実践園といっても過言ではない。
これは想像だが、教育勅語暗唱への非難が茫々となったことに日本会議が慌てたのではないか。非難の矛先が日本会議に向かう前に籠池前理事長と縁を切ってしまおうとした、と考えれば辻褄が合う。
籠池前理事長は京都・洛北高校の校長も務めた稲田氏の父とは親交があり、弁護士である稲田氏の夫と顧問契約をしたこともある。その稲田氏は2017年3月14日、つまり安倍首相が籠池前理事長を「しつこい人」と言った日、会見で「あの人(籠池前理事長)とは関係を絶っている」と、明白に「縁切り」を表明した。なぜか。籠池前理事長に対する国民のマイナス評価が日本会議のマイナス評価へと進めば、日本会議の一番の目的である「憲法改正」にマイナスとなるからであろう。
安倍首相にとって「憲法改正」は政治的悲願である。「憲法9条に自衛隊を明記する」と、憲法擁護義務(99条)がある首相が国会でも公言している。その悲願にマイナスとなるものは除去しなければならない。そのために、首相とその強固な支持者らは策を弄してきた。前理事長への離縁はその一環とみるべきである。
佐藤政権にとって最大の悲願は沖縄返還であった。密約を暴露した西山氏は邪魔者以外のなにものでもない。女性事務官と「情を通じた」と下劣な言葉を使って西山氏を人格否定したうえ、犯罪者にしたてた。憲法改正を悲願とする安倍首相(あるいはその周辺)は佐藤政権と同じ手を使ったのである。やはり教育無償化を柱に「憲法改正」を訴えている日本維新の会の松井一郎氏が大阪府知事であることを幸いに、補助金を余計にもらうための虚偽記載に目をつけ、籠池前理事長を「ウソつき」呼ばわりして犯罪者にした。
以上は私の推理である。残念ながら首相と松井氏の間でこの件について謀議をしたと断言できる証拠はない。
沖縄返還における密約が存在したことはその後明らかになった。『国策不捜査――「森友事件の全貌」』での、たとえば昭恵夫人が100万円を持ってきたときの、具体的な記述をみれば、籠池前理事長の証言は虚偽でないことは明らかであろう。籠池前理事長は補助金受け取り不正について、「申し訳ないことをした」と正直に認めている。国有財産払い下げについてもウソをついていたら、やはり前理事長は認めただろう。だが、森友事件の本件である不当な価格引き下げについては、国も詐欺罪で問えなかったのである。問えば、逆に国の不正が浮き彫りになるからでる。
本当のウソつきは誰なのか。もはや明らかであろう。

放置されたままの森友校舎

校舎のフェンスに取り付けられた「国有地」の看板

放置されたままの森友学園の校舎(向こうは大阪音大の校舎) 新型コロナウイルスの急速な感染拡大にともなう緊急事態宣言が出された前日の3月7日、森友学園が建設した小学校を訪ねた。ほぼ3年ぶりである。前回訪ねたのは2017年3月下旬だ。当時、籠池前理事長の「100万円もらった」という暴露発言や補助金の不正受給疑惑など、連日、森友問題がテレビや新聞をにぎわせていた。
そのころ、学校の建物はほぼ完成、グラウンドを含め外まわりの整備が残っていた。グラウンドには土砂が山をなし、裏庭には木材などの資材が積み上げられていた。その状態は基本的には今も変わらない。違いといえば、学校を囲うネットに「国有地」の表示板が数カ所で張られていること、そして隣接する空き地が公園として整備されたことくらいだろうか。
校舎は木造平屋建て。窓はすべて出窓になっている。前理事長はどのような理想を抱いていたのだろう。小学校の校舎としては「大金持ち子弟の学校か」と思うほど豪華である。「教育勅語を暗唱する学校」というだけでは説明がつかない。採算度外視で「大阪の学習院」にしようとしたのだろうか。ネットでみると学習院初等科の校舎は白亜のコンクリート造り。似ても似つかないが、前理事長にしては、木造こそ皇室崇拝の教育の場にふさわしい、と考えたのかもしれない。
校舎の壁には相変わらず「瑞穂の國記念小学院」の文字と、五七桐の紋をあしらった校章がかかっている。この紋は安倍首相が記者会見をする際の演台に取り付けられている紋と同じなので、安倍首相信奉の印として校章とした、と私は思った。昭恵夫人が「いい田んぼができそうですね」と言ったことから学校名をつけた、と前理事長は『国策不捜査――「森友事件の全貌」』に書いている。紋所については全くの門外漢の私の感想だが、瑞穂の国を表したいのなら稲紋を使うべきではないのだろうか。実際、「稲穂の紋章は瑞祥的意義を持つ」という学者もいる。しかし、前理事長はあえて桐紋を使ったのだ。校名と校章を使い分けたのではないか。学校名は昭恵夫人への思い、校章は安倍首相への思いが込められていた、と言えそうだ。
その思いは無残に切り刻まれた。グラウンドにソフトボールくらいの大きさの石が積み上げられている。庭石には小さく砂利石には大きい。どうにも使いようのないこれらの石が放置されたままであることが、森友の現状を象徴しているように思えた。
校舎の上空を伊丹空港に着陸する旅客機がかすめた。ふと40年前の航空公害訴訟を思いだした。
森友学園がある豊中市南部の庄内地区は航空機の着陸コース直下にあり、騒音に悩まされていた。空港周辺住民が夜間の空港使用のさし止め、過去の損害賠償、将来の損害賠償を求めて訴訟を提起。1981年12月、最高裁は過去の損害賠償のみを認め、住民が最も望んでいた空港使用さし止めは却下した。
私は当時新聞社の豊中担当だった。判決を前に原告一人ひとりに騒音の程度とその被害について聞いて回った。その取材中も、飛行機のキーンという音が耳をつんざいた。なかでもDC8という細長いジェット旅客機はひどかった。「ここは人間が住むとこやない」と皆が口々に言った。

放置されたままの森友学園の校舎(向こうは大阪音大の校舎)

10年後、学生音楽コンクールにかかわった。会場は大阪音楽大学のザ・カレッジ・オペラハウスである。オペラハウスはできたばかりで、音楽の殿堂にしたい、という意気込みが感じられる荘厳な建物である。その高い屋根の上で飛行機の音がした。騒音を絶対に避けねばならない音楽大学のホールが、着陸コース直下に建てられたことが信じられなかった。航空機がエアバスに切り替えられたことなど騒音対策が進んだことで、大阪音大がオペラハウスの建設に踏み切ったのであろう。
森友学園の学校用地は、元の住宅が騒音対策の一環として移転して空き地になったものだ。大阪音大はキャンパスを拡大し、森友学園の用地の隣にも校舎を新築。さらに拡張しようと、問題の国有地を7億円で買い取る意向を示していたことはすでに触れた。
森友学園の小学校の校舎を放置されたままであることに、誰もが「もったいない」という。だからといって、前理事長が企図した教育勅語小学校は、憲法の根本精神に反しており、断じて認めるわけにはいかない。一方、音に神経を使いながら高度な教育をする大阪音大にとって、小学校にするはずの森友の校舎を使えるとは思えない。しかし、庄内地区が、かつての航空機騒音の町から大阪音大の町に変わったこともまぎれもない。ならば、市民が音楽を楽しめる場として活用できないのだろうか。民家の移転によって生まれた広大な用地について、地域に根づいた町づくりに役立てようとの発想が、国や自治体に小指の先ほどにもあれば、森友事件は起きなかったのである。(完)

井上脩身 (いのうえ おさみ)1944 年、大阪府生まれ。70 年、毎日新聞社入社、鳥取支局、奈良支局、大阪本社社会部。徳島支局長、文化事業部長を経て、財団法人毎日書道会関西支部長。2010年、同会退職。現LAPIZ編集長

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