スサノオ追跡《そして渡来人たちの宴が始まった 上 》片山通夫

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 スサノオ追跡から始まって渡来人たちの宴まで、長いだけで脈絡も歴史的証拠もない話もいよいよ終わりになった。
イザナミとイザナギの間に生まれたスサノオはよく知られているように三男坊だった。筆者の偏見でいわせてもらえれば、三男坊は一言でいえばわがままである。甘やかされて育ったせいなのかもしれない。またスサノオのように末っ子の場合猫かわいがりされて育った可能性がある。
特にスサノオは乱暴であったようだ。亡くなったイザナミ、つまり「かーちゃん」に会いたいとわがまま三昧で、高天原で大暴れしたことは日本神話に詳しい。
特に天の斑馬(ふちこま)の皮を「逆剥ぎ(さかはぎ)」に剥がして、服屋(はたや)の屋根に穴をあけてそこから投げ入れたという話で服屋にいた服織女は驚き亡くなったと古事記にある。とんでもない男だ。思うにスサノオは理知的な姉・アマテラスとはかけ離れた存在だった。ガキ大将と学級委員長という役柄がぴったり。***********************

「そうだ。やっぱりあいづ又三郎だぞ。あいづ何かするときっと風吹いてくるぞ。」
「うん。」一郎はどうだかわからないと思いながらもだまってそっちを見ていました。三郎はそんなことにはかまわず土手のほうへやはりすたすた歩いて行きます。(中略)

青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう
どっどど どどうど どどうど どどう

先ごろ、三郎から聞いたばかりのあの歌を一郎は夢の中でまたきいたのです。
びっくりしてはね起きて見ると、外ではほんとうにひどく風が吹いて、林はまるでほえるよう、あけがた近くの青ぐろいうすあかりが、障子や棚たなの上のちょうちん箱や、家じゅういっぱいでした。一郎はすばやく帯をして、そして下駄げたをはいて土間をおり、馬屋の前を通ってくぐりをあけましたら、風がつめたい雨の粒といっしょにどっとはいって来ました。
馬屋のうしろのほうで何か戸がばたっと倒れ、馬はぶるっと鼻を鳴らしました。
一郎は風が胸の底までしみ込んだように思って、はあと息を強く吐きました。そして外へかけだしました。
外はもうよほど明るく、土はぬれておりました。家の前の栗くりの木の列は変に青く白く見えて、それがまるで風と雨とで今洗濯せんたくをするとでもいうように激しくもまれていました。
青い葉も幾枚も吹き飛ばされ、ちぎられた青い栗のいがは黒い地面にたくさん落ちていました。空では雲がけわしい灰色に光り、どんどんどんどん北のほうへ吹きとばされていました。
遠くのほうの林はまるで海が荒れているように、ごとんごとんと鳴ったりざっと聞こえたりするのでした。一郎は顔いっぱいに冷たい雨の粒を投げつけられ、風に着物をもって行かれそうになりながら、だまってその音をききすまし、じっと空を見上げました。
すると胸がさらさらと波をたてるように思いました。けれどもまたじっとその鳴ってほえてうなって、かけて行く風をみていますと、今度は胸がどかどかとなってくるのでした。
きのうまで丘や野原の空の底に澄みきってしんとしていた風が、けさ夜あけ方にわかにいっせいにこう動き出して、どんどんどんどんタスカロラ海溝かいこうの北のはじをめがけて行くことを考えますと、もう一郎は顔がほてり、息もはあはあとなって、自分までがいっしょに空を翔かけて行くような気持ちになって、大急ぎでうちの中へはいると胸を一ぱいはって、息をふっと吹きました。
「ああひで風だ。きょうは煙草たばこも栗くりもすっかりやらえる。」と一郎のおじいさんがくぐりのところに立って、ぐっと空を見ています。一郎は急いで井戸からバケツに水を一ぱいくんで台所をぐんぐんふきました。(宮沢賢治 風の又三郎 より)

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このほかにも馬を逃がすエピソードもある。そして極めつけはまさに風のごとく又三郎は同級生たちの前から消える。もちろん現実には転校しただけだったが。

続く

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