百鬼夜行夜話 016「祟りの時代 平安京 02」片山通夫

当然ながら平安時代に蔓延った怨霊、鬼、悪霊などの祟りのもととなるものどもは ,現在のように明るい夜ではなく真っ暗な夜に都大路を跋扈した。つまり魑魅魍魎が跋扈できるほど、京の都は現在のように華やかなところではなく御所とその周辺以外は真っ暗な町だった。 すでに書いたように、六道の辻の子育て幽霊や大江山の酒呑童子など平安京の夜をわがもの顔で歩く者どもほど、当時の天皇をはじめ人々を恐れさせたものはいなかった。そんな人々が頼みにしたのは陰陽師であった。中でも有名なのは、安倍晴明だった。

安倍晴明

1000年以上も昔の話だが、大阪・阿倍野に住んでいた安倍保名という男が和泉の国の信田明神を参拝し帰路についたとき、狩りで追われた白い狐が逃げてきた。男はこの狐をかくまったことがあった。しばらく後に男のもとに一人の女があらわれて男の世話をするようになった。そして二人は結婚したということだった。女の名は葛乃葉という。この二人の間に生まれた子供の名が安倍童子(あべのどうじ・晴明の幼名)だった。狐は古来から、霊力を持った動物として崇められており、白狐であった母親を持つ晴明は天皇家の信頼の厚い、天才陰陽師と尊敬された。