読切連載アカンタレ勘太 6《てつぼう先生》文・挿画 いの しゅうじ

てつぼう先生

テッちゃんは鉄棒に足をかけてぶらさがっている。
勘太から、鉄棒でクルクルまわるたいそう選手のことを聞いて、自分でもかいてんしてみようと思ったのだ。
隆三が「やめとけ」と鉄棒から引きずりおろした。
「教えてもらわんとムリや」
「教えてくれるとこあるんか」
「カブノしょうがっこうの子は、かいてんできるんやで」
カブノしょうがっこうは隆三の家から歩いて二十分くらいの山あいにある。
「もくげきしたんや」
隆三はむずかしい言葉をつかった。
さっそく、ていさつにむかった。隆三、テッちゃんに勘太、武史、裕三。いつものメンバーだ。
カブノしょうがっこうの鉄棒は、通りぞいにたっている。男のせんせいが見まわりにやってきた。ややまる顔、しゃきっとした青年きょうしというかんじ。
「あのう、鉄棒でぐるぐる回ると聞いたんですけど」
武史がせんせいにたずねると、
「きみたちはどこのがっこう?」
「オゼしょうがっこう、二年」
「宮井せんせいのクラス?」
「あ、そうです」
「イッ子せんせいってよんでるやろ」
「なんで知ってるんですか」
「まあな、ええ人やろ」
せんせいはこうていにのこっていた四人をよんだ。
「クラタてつぼうをやってくれ」
四人はさかあがりをして、鉄棒にはいあがる。オランウータンみたいに両手で棒をもつ。そして一番右の子から順に、後ろむきにくるっとまわる。頭をさげてさかさにぶらさがると、かいてんの勢いにのって前方にぴょーんととびはねる。
それは目もとまらぬ早わざだ。
勘太が目をラムネ玉みたいにして、ぼーっと見とれていると、
せんせいが、
「やってみる?」
と、ほほえみかける。
「さ、さかさになるの、ぼ、ぼくいやです」
もぞもぞした言い方がよほどおかしかったらしい。
「ひょっとして、きみが勘太くん?」
顔をのぞきこんで、
「あたり!」
ガハハとわらった。
せんせいは、みんながクラタてつぼうができるまで半年かかったという。
「小野せんしゅみたいなとくべつなせんしゅを育てるのもいいが、みんながやれることのほうがもっとだいじや」
勘太は、おねえさんが「小野せんしゅは金メダルがとれる」と言っていたのを思いだした。
カブノしょうがっこうからの帰り道。
「クラタせんせい、なんでぼくのなまえ知ってるんやろ」
勘太は首をかしげてもたもた歩く。
「イッ子せんせいと呼んでることも知ってはった」
と隆三。
「イッ子せんせいはええ人や、というてたなあ」
テッちゃんが夕やけ空を見あげた。目があかね色にそまっている。
よく日。
きゅうしょくがおわると、テッちゃんがイッ子せんせいのつくえの前にたった。
カブノしょうがっこうの鉄棒のことをはなし、
「クラタせんせいにあいました」
「え!」
「せんせいのこと、いい人と言うてました」
「……」
イッ子せんせいのほっぺが、いっしゅんぽっとあかくなった。