読切連載 アカンタレ勘太 7《しらゆき雪ひめ》文・挿画 いの しゅうじ

しらゆき雪ひめ

 イッ子せんせいは、いつもの顔にもどっている。
「クラタせんせいはただのお友だちよ」
二人は若い教師でつくる「新しい教育を考える会」のメンバーだという。
がっこうがおわって、テッちゃんと勘太が帰ろうとすると、タミちゃんがかけよってきた。
「イッ子せんせいの言うこと、マにうけたんか」
タミちゃんは教室にのこっていたヒロ子をよんだ。
リブレバレイ教室にかよっているヒロ子は「あのことやね」と目くばせした。
「らいげつ、バレエきょうしつのはっぴょうかいがある。イッ子せんせいに招待券を二枚わたすねん」
タミちゃんはにやっとした。
「イッ子せんせいがクラタせんせいと見にきたら、友だちいじょうということがはっきりするやん」
つぎの日、
ヒロ子はイッ子せんせいにバレイの券を手わたした。券にかかれているプログラムは、
「しらゆき雪ひめ」
「まちがいじゃないの」
ヒロ子はフフフとわらった。
「見たらわかります。したしい人ときてください」
イッ子せんせいから「見に行く」の答えがかえってきたので、武史を中心にさくせんをねった。
一番前のまんなかの二つのせきを「予約席」にしてかくほ。そのりょうがわにユキちゃんとタミちゃん、男子はうしろのせきにじんどる。
「二人のようすがわかるはずや」
と武史。
はっぴょう会は市のホールでひらかれた。
「予約席」のはりがみをするのは勘太のやくめ。勘太はまっさきにホールにきて、せきに紙をおいた。
はりがみが何かのひょうしにおち、だれかが一つよこのせきにのせた。
とは勘太は知らない。
まくがあく少し前に、イッ子せんせいがやってきた。クラタせんせいといっしょだ。
イッ子せんせいはタミちゃんを見て、
「こんたん見え見え。だったらいっそのことと、クラタせんせいをさそったの」
二人が一番前のせきに行くと、二つの「予約席」がとなりあっていず、その間に一つのせきがある。
イッ子せんせいが「あら?」と小さくおどろいた。勘太が予約席のところにいくと、クラタせんせいが、
「勘太くんやね、たしか。ここにすわればいい」
と、間のせきに座らせた。
勘太がイッ子せんせいとクラタせんせいの間にわりこむかたちだ。
「こんなん、あきません」
と、せきを立としたとき、
「しらゆき雪ひめ」
がはじまった。
王女においだされて、森のなかで七人の小人とくらす白雪姫は、毒リンゴを食べてたおれる。そこに王子さまがとおりかかり、二人はむすばれる。
というおはなし。
リブレバレイきょうしつでは、白雪姫と王子さまは高校生くらいの子がえんじるのがならわし。ところが、ヒロ子がぐーんとじょうたつしたので、「小学生にも姫をやらせてみよう」ということになった。お姉さんは「白雪姫」、ヒロ子は「しらゆきひめ」だ。
一つのぶたいで「白雪姫」と「しらゆきひめ」が同時におどるのは、教室はじめって以来のこと。
(新しい時代になったんだわ)
イッ子せんせいの胸はきゅんとなっている。
ヒロ子のしらゆきひめがクルクルまいだした。
はなやかさでは、お姉さんの白雪姫にはとてもおよばないが、体いっぱいにつやつやとはねる。
いよいよ、おひめさんが王子さまとおどるクライマックス。というのに、テッちゃんは前にいる勘太の頭をこずいている。
「なんでせんせいの間にすわったんや」
イッ子せんせいはクスクスわらっている。