原発を考える《核のごみ最終処分場の行方》文 井上脩身

――手を挙げた北海道2町村の問題点――
 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けての文献調査に関し、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で実施される可能性が浮上した。この調査を受け入れる自治体には国から最大20億円が交付されることになっており、この2町村はカネ欲しさに手を挙げたのだ。核のごみの処分場がないことについて、「トイレのないマンション」と揶揄されて久しい。そのトイレの見通しのないまま原発大国を目指した自民党政府は、原発立地と同様、過疎の貧困自治体に札びらをちらつかせるという、あこぎな手段に打って出たのである。この二つの町村のいずれかが最終処分場になれば、核燃料は10万年先までその地下に埋められる。日本は世界有数の地震大国である。地下が安全と言い切れるはずがない。そのリスクを負わされるのは未来の人たちだ。「トイレから汚染物が漏れ出してもオレたちの知ったことでない」と言っているに等しいではないか。何という無責任で無恥な国であろうか。

「勉強」で20億円の交付金

上空から望む寿都町(ウィキペディアより)

 核のごみの最終処分について、政府は地中300メートルより深い安定した地層に埋設する、としている。事業主体は原子力発電環境整備機構(NUMO)。建設前に①論文やデータを事前に調べる「文献調査」(約2年)②掘削して地質を調査する「概要調査」(約4年)③地下施設をつくる「精密調査」(約14年)――の3段階を経て決まる。

この調査に応じた地方自治体には、その見返りとして、国から文献調査で最大20億円、概要調査で70億円の交付金が支給される。

 この文献調査に寿都町と神恵内村が10月8日、受け入れを表明。寿都町は北海道電力泊原発から南西に約50キロのところの日本海に面した人口約2900人の町。産業の主力は漁業や水産加工業。年間予算は56億円。一方、神恵内村は泊原発がある泊村の北隣に位置し、原発交付金を1984年から受け取っている。しかし漁業以外に基幹産業がないこともあって人口が減少、現在わずか820人。青少年旅行村などの観光だけが頼りの村である。

 こうした先細りからの脱皮のために核のトイレに飛びついたのであろうか。

 寿都町の片岡春雄町長は「寿都町は自治体として全国で最初に風力発電事業を始めた町で、以前からエネルギー政策について経済産業省と議論してきた」という。ならば、脱原発を目指しているように聞こえる。核のごみ受け入れは全くの矛盾ではないのか。以下は記者のインタビューに対する片岡町長の発言要旨である(9月8日付毎日新聞より)。

 2018年に北海道胆振東部地震が起き、「安全・安心な町」とはいえなくなった。国の事業で地盤の調査ができないか、と考えていたところ、地層の文献調査に結び付いた。約2年で最大20億円という交付金は「出し過ぎ」と感じたが、「一石二鳥」とも思った。

 今年に入って新型コロナウイルス感染拡大による自粛で、町の産業は大打撃を受けた。コロナ不況は来年も続くだろう。他人任せでなく、何ができるかと考えると、調査応募はタイミング的にも一番いいと考えた。

「今すぐ核のごみを持ってきましょう」と言っているのではなく、「勉強しましょう」ということだ。みんな、核のごみがどんなものか分かっていないから、「小学校から入学しましょう」ということ。大学卒業まで16年かかるのだから、(第3段階の)精密調査まで行く。町民が判断するのはその段階でいい。

 町の人口が減るなか、20~40代の人に将来を考えてほしい。みんなが最終処分場が「いらない」というのは恥ずかしいことではないか。嫌なのは分かる。私だって一般住民として○×を問われたら、たぶん「×」だ。しかし町の経営者としては「いきなり○×ではなく、まずは勉強しましょう」と言いたい。日本の国際的な立場を考えると、核のごみ問題は一歩前に踏み出す時期だ。

(交付金漬けになり、麻薬のように抜け出せなくなる、との批判について)「貧乏でもいいじゃないか」という人がいるが、無責任だ。町の上下水道は毎年1億円以上、一般財源から持ち出している。水道料金が今の倍になってもいいのか、という問題だ。

科学特性マップによる色分け

全国を核のごみ処理場の適、不適を色分けした特性マップ (ウィキペディアより)

 寿都町の片岡町長が核のごみ処分場選定調査の応募に踏み切った背景に、「科学特性マップ」で、同町がグリーン色に塗られたことがあげられる。片岡町長はこのマップを見て、「わが町は青信号」と、手を挙げる気になったのであろう。

 政府は2015年5月、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針を決定。「現世代の責任で地層処分を前提に取り組みを進める」とし、「地域の科学的特性を国から提示する」とした。これに基づいて経済産業省資源エネルギー庁が2017年7月、深い地下の安定した岩盤に埋設して地層処分を行ううえでの、好ましくない範囲の要件・基準を定めた。(以下はその主なもの)

(火山・火山活動)火山の周囲=火山の中心から半径15キロ以内

(断層活動)活断層の影響の大きい所=主な活断層(断層長10キロ以上)の両側一定距離(断層長×0.01以内)

(隆起・侵食)隆起と海水面低下により将来大きな侵食量が想定される所=10万年間に300メートルを超える隆起の可能性がある沿岸部

(軟弱な地盤)地層が軟弱=約78万年前以降の地層が300メートル以深に分布

(火砕流等の影響)火砕流が及びうる所=約1万年前以降の火砕流が分布

(鉱物資源)鉱物資源が分布する所=石炭、石油、天然ガス、金属鉱物が残存

 一方、好ましい範囲については、「海岸からの陸上輸送が容易な所」を要件とし、その基準を「海岸からの距離が20キロメートル以内が目安」とした。

 以上に基づいて日本列島を以下のように色分けした。

好ましくない特性があると推定される地域=オレンジ▽好ましくない特性があると推定されるものの、将来の掘削可能性地域=シルバー▽好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域=薄いグリーン▽輸送面でも好ましい地域=グリーン

この色分けにしたがって「科学的特性マップ」を作成。沿岸部にある寿都町は輸送面でも好ましい最適地とされた。北海道全体を見ても、沿岸部はおおむねグリーン地帯とされた。

このことと直接関係はないが、北海道北部の日本海沿いの幌延町に、2000年、核のごみの処分技術を研究する地下施設「幌延深地層研究センター」が設置され、その隣の展示施設に実物大の核のごみが展示された。そこに福島原発事故1年後の2012年3月、実際に処分する際に地下現場で使う遠隔操作の実物が設置された。

本来、核のごみに関する研究は日本原子力研究開発機構(原子力機構)が行い、処分場の立地・選定と建設は原子力発電環境整備機構(NUMO=ニューモ)が行う、と役割分担がなされている。その線引きを越えて、研究の現場に建設屋が入り込んできた、とみられてもやむをえまい。福島事故によって、核のごみ対策が避けて通れない問題と政府内で認識されるようになったのであろう。

実際、同センターの設置によって、北海道が処分場の標的と化したことは否めない。オホーツク沿いの興部(おこっぺ)町の住民が2011年10月、同センターを視察し、町議会に処分場誘致の要望書を提出した。同町は酪農とホタテや毛ガニを中心とする漁業が主産業。財政再建が喫緊の課題だが、町議会は要望を取り上げなかった。財政再建団体になった夕張市でも商工会議所が2008年、最終処分場の誘致を市長に提案している。

同センターが設置された2000年10月、北海道は「核のごみ拒否条例」を制定した。正式には「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」といい、「健康で文化的な生活を営むため、現在と将来の世代が共有する限りある環境を将来に引き継ぐ責務を有している。特定放射性廃棄物の持ち込みは慎重に対処すべきであり、受け入れ難いことを宣言する」としている。

道条例の表現からわかる通り、核のごみ拒否の宣言であって、強制力はない。この結果、興部町や夕張市での胎動が起こり、寿都町長の調査応募発言が飛び出したといえるだろう。鈴木直・北海道知事は条例を理由に、「受け入れがたい」との姿勢を示し、文献調査の次の段階に進む際は「反対意見を述べる」と表明。これに対し片岡・寿都町長は「勉強したいと言っているのに、親が止めるようなもの」と応じる気配はない。

こうした中、泊原発がある泊村の隣の神恵内村の商工会が処分場誘致をめざす請願を村議会に提出。村議会は賛成多数で採択し、既に述べたように文献調査を受け入れることとなった。同村は寿都町とは逆に、村内の大半が科学特性マップの上で、「好ましくない地域」。寿都町以上にカネ目あてが見え見えの受け入れである。それでも文献調査による交付金が出るなら、他にも手を挙げる自治体がでてくる可能性がある。国の狙いはそこにあるのかもしれない。

10万年間地下に埋設

オンカロの内部(ウィキペディアより)

前項で、幌延深地層研究センター内に実物大の核のごみが展示されていることに触れたが、核のごみの処分について、掘り下げておきたい。

 高レベル放射性廃棄物は、原発の使用済み核燃料からウランとプラトニウムを回収して再処理した後に残る廃液だ。ガラスに溶かして固め(ガラス固体化)、ステンレス製の容器(キャニスター)に入れて保管する。ガラス固体化は高さ約130センチ、直径約45センチの円柱形で、重さは約500キロ。製造直後の表面の放射線量は1時間当たり約1500シーベルトで、100%死ぬとされる放射線量を20秒出す。放射能が元のウラン鉱石と同程度になるのに1万年、安全なレベルになるのに10万年かかるとされている。

 実際の処分法としては、ガラス固体化を地上で30~50年冷やした後、鋼鉄製の容器(オーバーパック)と特殊な粘土(ベントナイト)にくるんで、地下300メートルより深い地層に埋める。日本国内にはガラス固体化すると2万4000本分以上になる使用済み核燃料があり、政府はガラス固体化4万本分の地下埋設費用として2兆7000億円を見積もっている。

 核のごみ処分について先行しているのは北欧のフィンランドだ。首都ヘルシンキから北西230キロのオルキルオ島に、「オンカロ」と呼ばれる処分場の建設が進められている。

 フィンランド政府は1983年、最終処分場建設方針を示し、1994年、同国内の全ての核廃棄物をフィンランドで処分することとし、地元議会の受け入れ議決を経て2001年、同島での建設を決定。地下処分施設は洞穴を意味する「オンカロ」と名づけられた。

 事業は①地下420メートルまでの螺旋状におりるアクセストンネルの開削②アクセストンネルを520メートルまで延伸するとともに、岩盤特性の研究③貯蔵所の建設④使用済み燃料のカプセル化――という4段階を経て、2020年代初めに地層処分を開始する、としている。

 近くでオルキルオト原発を運転しているTVO社と、別の原発を運転する電力会社が出資して1995年に設立したポシバ社がオンカロを建設中。要するに原発稼働電力会社の責任によって、それぞれが出したごみを処分しようというものだ。運び込まれる使用済み核燃料は原発6基分の約9000トンと見込まれているが、オンカロでは最大1万2000トンまで受け入れ可能という。

 仮に2020年代初めに操業できるとしても、地層処分方針が決定してから40年がたつことになる。搬入を終えるのは100年後になる見込み。この終了とともに総延長が40キロにも及ぶトンネルは埋め戻されてその痕跡をなくす。

建設にかかわる地質学者は「周辺で過去に地震が起きた記憶はないし、活断層もない。もともとウランは地下から掘り出されたもの。オンカロはそれを再び自然に戻すための施設」といい、ポシバ社は「10万年間、安全は確保できる。いつか人びとの記憶から完全に忘れ去られる施設」としている。(北海道新聞社編『原子力 負の遺産――核のごみから放射能汚染まで』北海道新聞社刊)

未来への責任放棄

 オンカロが本当に安全かどうかは異論もあるだろう。仮にポシバ社の言う通り、「みんなに忘れ去られる」ほどに安全な施設であるとして、問題は日本でも安全といえるのか、である。

 オンカロにかかわる科学者や電力会社幹部、政府高官らへのインタビューを中心に2010年に作られたドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』のマイケル・マドセン監督は「(地層処分を)間違ってもやってはいけない国がる。それは日本だ」と述べている(前掲「原子力 負の遺産」)。いうまでもなく、日本は世界有数の地震多発国だからだ。

 フィンランドも全く地震がないというわけではない。「地震リポート」という民間データによると、2020年4月15日時点での「最近の地震」は2017年12月7日に発生したもので、M3・5、震源地は地下10キロ。「家が不快な音をたてたが、損害はなかった」と報告されている。M3・5は「棚の食器類が音を立てる」程度の揺れだ。

 日本では2016年以降2020年6月までの間、M5・1=震度5弱(大半の人が恐怖を感じ、物につかまりたいと思う揺れ)以上の地震が、M7・3の「平成28年熊本地震」など22回発生。震度3以上まで幅を広げると、2020年4月から9月までの半年で95回起きており、フィンランドの人たちが「家が不快な音をたてた」という程度の揺れは、日本人には「少しも怖くない地震」である。

 私は寿都町の町長が処分場調査応募に積極的な姿勢を示していることから、その問題点を探ろうとした。では同町は本当に大丈夫なのか。先に挙げた震度5弱以上の地震リストのなかに、同町がある胆振地方を襲った地震が3回ある。2017年7月1日の胆振地方中東部地震(M5・1=震度5弱)、2018年9月6日の「平成30年北海道胆振東部地震」(M6・7=震度7)、2019年2月21日の胆振地方中東部地震(M5・8=震度6弱)。2018年の地震では家屋の全壊469棟、同半壊1660棟、一部損壊13849棟にのぼり、死者43人、負傷者782人と大きな被害がでた。

 北海道全体でみると震度4以上を観測した地震は2018年が32回発生。2019年は5回だが、3月2日根室半島沖(M6・2)、4月28日十勝地方南部(M5・6)、12月12日宗谷地方北部(M4・2)など、北海道の各地で地震が起きた。

 地層処分が行われた場合、地上への放射能の影響は年間、0・000005ミリシーベルトにとどまる、との専門家の報告を政府はよりどころにしている。これに対し、「原発と同様の安全神話に基づく架空の数字。輸送は搬入時に放射能漏れが起きる危険性がある」との批判の声が、原発問題にかかわるNPO法人からあがっている。

 そもそも10万年も先のことに誰が責任をもつのか。仮に「科学的特性マップ」で「好ましい地域」とされた所の地層が、10万年後も安定していると断言できるのか。核のごみ埋設地に地震が起きるなどで、放射能漏れが起きたら、未来の人たちにどう責任をとるのか。このようにいくつかの問題点を並べてみると、地層処分は現代人の責任逃れ策ではないかとの疑念がふくらむ。

 こうした地層処分への不信から、日本学術会議は2010年9月、「現代の科学技術では万年単位の将来を予測できない」として、暫定保管を提案。「地上付近で数十年から数百年、いつでも取り出せる状態で核のごみを保管。その間に処分法の技術が確立すれば、ごみを取り出して処分し直す」というものだ。この提言にもかわらず、政府が層処分を決定したことはすでに繰り返し述べた通りである。

 全ての原因は、ごみをどうするかを考えないまま、経済を優先させて原発政策を推し進めてきたことにある。政府が行おうとしている地層処分は、平たく言えば「仕方がないから、地震が少なそうなところに穴を掘って埋めよう」ということだ。日本人は地震の怖さを骨の髄まで分かっている。そこで、札びらというエサをちらつかせて、経済的に困っている市町村をおびき寄せよう、という魂胆なのである。

 もし寿都町か神恵内村に処分場がつくられることになると、地震が多発する胆振地方に原発と処分場、つまりマンションとトイレが同居することになる。泊原発から出る核のごみだけを埋めるなら、それなりに論理は通る。しかし、日本中の原発のごみが集められるのでる。カネがもらえるならそれでもよし、と住民たちは思うであろうか。こんなところに住めないと、古里を出る人が増え、一層過疎化が進むのではないのか。

 小出裕章・元京大原子炉実験所助教は「見えない場所へ隠すのでなく、六ケ所村のような貯蔵管理施設を設け、地上で可視化して管理する方がいい。それも東京のような莫大な電気を消費する所で」という(11月2日付毎日新聞)。全く同感である。原発によって最も恩恵を受けている東京のど真ん中にこそトイレは作られるべきなのだ。「いやなら即刻原発の運転を止めよ」と私は言いたい。