連載コラム・日本の島できごと事典 その29《大島郡独立経済(分断財政)》渡辺幸重

大島郡地図

国の税制は、財源が不足する地方自治体に対して国税の中から地方交付税を交付し、税収が少ない自治体が運営できるようになっています。いわば、金持ちの自治体住民・企業から取った税金を貧乏な自治体に回しているということです。2020年度に国からお金をもらわなかった自治体(不交付団体)は都道府県では東京都のみ、市町村では75ありました。東京都民のなかには「自分たちのお金を地方に取られる」という人もいますが、そうではありません。地方で子どもを育て、都会の大学に通わせて一人前にした費用は地方に還元されていません。地方出身の東京都民は自分たちの税金の一部が故郷に還元されることを希望しているはずです。実際、第二次世界大戦直後までは都会で働く多くの地方出身者は故郷に仕送りをしていました。
さて、地方交付税がなくなれば地方はどうなるでしょうか。1888年(明治21年)から1940年(昭和15年)まで似たような状態にされたのが鹿児島県大島郡です。奄美大島など奄美群島が対象になりますが、1897年(明治30年)から1973年(昭和48年)までトカラ列島(旧十島村)も大島郡に所属したので(その後鹿児島郡)、10年目以降は奄美群島とトカラ列島が対象でした。この財政制度を「大島郡独立経済(分断財政)」といいます。これにより、鹿児島県と大島郡の財政が分離され、大島郡は自給自足的な小規模な財政運営を強いられました。この分断経済は鹿児島県がやったことですが、明治政府は1901年(明治34年)に砂糖消費税法を制定し、沖縄・奄美の砂糖に課税しました。日清戦争(1894~95)後の財政需要の増加を満たすのが目的です。これらの差別的・棄民的政策がとられたため、奄美群島・トカラ列島の産業基盤は整備されず、人々の生活は“蘇鉄地獄”と呼ばれるほど疲弊する状態に陥りました。やっと大島郡産業助成計画・大島郡振興計画による振興事業が始まったのは1927年(昭和2年)のことで、天皇の大島行幸で注目が集まってからです。“島差別”を“天皇の恵み”にすり替えるとはなんとひどいことでしょう。太平洋戦争もそうですが、日本という国は過去の過ちを一度も総括していないのではないでしょうか。
大島郡独立経済を実施するときの鹿児島県議会での討論では、「大島郡の島々は絶海に点在して内地から二百里離れて交通が不便で、さらに風土・人情・生業等が内地と異なるから経済を分別する」とされました。ある研究者は「それなら“大島県”にして明治政府の補助を受ければよかった」といいます。そして、本当の理由は「内地の産業基盤整備事業に莫大な資金が必要になり、大島の産業基盤整備にまで手が回らなくなった」と指摘しています。薩摩藩による“黒糖地獄”時代の奄美搾取に続き、またもや“中央のための犠牲”を押しつけられたのです。

 

夏の千夜一夜物語《子育て幽霊》構成・片山通夫片山通夫

六道の辻で

死んだはずの女が、自分の墓の前に捨てられていた赤ん坊を育てるというお話。
ある夏の夜、村のアメ屋に女がアメを買いにやってきます。入れ物に入った水アメを受け取ると、女は消えるように帰っていきました。 来る日も来る日も女はアメを買いにやってきます。雨の夜、隣村のアメ屋が訪ねてきたとき、ちょうどその女がアメを買いにきました。隣村のアメ屋は「1か月前に死んだ松吉の女房だ」といい、2人は真相を探るべく、女の後をつけていきます。女の向かった先は隣村の墓場。そこで、すーっと音もなく消えてしまったのです。

恐ろしくなった2人は、近くの寺に駆け込み、和尚さんと一緒に墓を見に行くことにしました。
すると、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。赤ん坊 は松吉の女房の墓の前に捨てられていたのでした。
添えられた手紙から、赤子が数日前に捨てられたことがわかり、泣いている赤子を見かねた松吉の女房が、アメを買って育てていたのでした。

夏の千夜一夜物語《太助とお化け》構成・片山通夫片山通夫

 夏です。夏定番の怖い話をご紹介。すでにご存じの方も多いと思いますが‥‥。
最初は

お化けが出るお寺に悩んでいた村人に、薬売りの太助が度胸と知恵で立ち向かうというお話。
村人の悩みを見かねた太助が古ぼけたお寺で構えていると、はたして、一つ目の大きな化け物が。「お前の怖いものは?」という問いに、「銭が怖い」と答えると、化け物は「オラはナス汁が怖い」というではありませんか。翌日、太助は鍋いっぱいにナス汁を作ってお化けを待ちます。現れたお化けは、逃げる太助に向かって小判を投げつけます。

一方の太助は、ナス汁を化け物にふりかけ、追い詰めました。悲鳴を上げる化け物に鍋ごとナス汁をかけると、化け物は大きなキノコに、小判は小さなキノコに変わってしまいました。
このことから、キノコ汁にナスを入れると中毒にならないと言われるようになったそうです。

夏の千夜一夜物語《梅雨さなか、それでも今日は七夕》片山通夫

インターネットから拝借

子供の頃から「雨の続く梅雨時に七夕?」って疑問に思っていた。そして成長するにつれそんなことは忘れていた。しかし最近は「織姫と牽牛は年に一度のデートできるんだろうか」と考えるようになった。ご存じのように天帝の怒りに触れて織姫と牽牛夫婦は別居させられて、年に一度だけ逢瀬を許されることになった。天の川は二人の間に横たわって…。
子供心に雨だったら見えないなと心配もした。しかし今や宇宙へ人が行く時代。梅雨空の上の天の川は晴れ渡っていることも判明した。大丈夫。夫婦は逢瀬を楽しむことができる。

昔話では「カササギ」という鳥が雨で水嵩の増えた天の川で羽を広げて渡らせてくれたという話もある。そういえばカササギ橋という橋も存在する。また七夕に降る雨のことを「催涙雨(さいるいう)」と呼ぶ。一年ぶりに逢えた二人が流す嬉し涙だとか…。

いずれにせよ二人は無事に逢えるようでひと安心。

Lapiz2021夏号 Vol.38 すべての記事紹介

Lapiz Opinion《戦争をする国」へ突き進む日本政府になぜ国民は沈黙するのか-2》渡辺幸重 2021-07-02
Lapiz Opinion《戦争をする国」へ突き進む日本政府になぜ国民は沈黙するのか-1》渡辺幸重 2021-07-01
夏の千夜一夜物語《子午線の通る町・明石から淡路島航路》片山通夫 2021-06-30
夏の千夜一夜物語《子午線の通る町・明石》片山通夫 2021-06-29
夏の千夜一夜物語《七夕(たなばた)》片山通夫 2021-06-28
怒りを込めて振り返れ《一体何なのだ?この政府。》一之瀬 明 2021-06-27
書籍紹介《「消えたヤマと在日コリアン」を読んで》片山通夫 2021-06-26
小田真のドローンの世界《春 in 2021》小田真 2021-06-25

《breath of CITY 》北博文
昭和の引き出し《記憶と希望 京都国際高校 2》元民族新聞記者 鄭容順2021-06-15
宿場町シリーズ《有馬街道、小浜宿》文、写真 井上脩身2021-06-16
連載コラム・日本の島できごと事典 その28《要塞地帯法》渡辺幸重2021-06-17原発を考える《思考停止の国民が許す》山梨良平2021-06-18
三匹が撮る!《マスクのいらなかった時代のフォト・ストーリー》
Lee E-sik2021-06-19
三匹が撮る!《旧川上炭鉱のイメージ》Dyu Men Su2021-06-20
夏の千夜一夜物語《夏至》片山通夫2021-06-21
匹が撮る!《再開された北朝鮮帰還・1971年》片山通夫2021-06-22
読切連載アカンタレ勘太 9《けしょうまわし》文・挿画  いのしゅうじ2021-06-23
切連載アカンタレ勘太 9-2《栃若すもう大会》文・挿画  いのしゅうじ2021-06-24

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Lapiz Opinion《戦争をする国」へ突き進む日本政府になぜ国民は沈黙するのか-2》渡辺幸重

-「重要土地等調査規制法」成立にみる日本社会の病根-

◎国民の“知る権利”を奪い、思想・良心の自由や表現の自由を制約

独裁者・国家(軍国)主義者はあいまいな法律を恣意的に操ることで民衆の権利を奪い、弾圧する。今回の重要土地等調査規制法はその典型である。刑罰に直結する「注視区域」「重要施設」「監視の対象者」「調査される事項の範囲」「調査の主体」「阻害行為」などあらゆる法概念があいまいで、これらの内容は基本方針として閣議で決めるという。このままでは日本国憲法と国際人権規約に反して基本的人権を侵害する運用がなされ、自衛隊基地や米軍基地、原発などの実態がベールに覆われる事態になるだろう。
この法律の成立前から297の市民団体の反対声明をはじめ法曹界や野党、メディアなどから反対や疑問の声が挙がり、成立後は抗議と廃止を求める運動が続いている。東京弁護士会の「『重要土地等調査規制法』強行可決に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2021年06月24日)は次の①~④のような「重大な問題」を指摘している。
①「注視区域」「特別注視区域」「重要施設」の指定基準、「重要施設」及び国境離島等の「機能を阻害する行為」とその「明らかなおそれ」の判断基準が明確でなく、それが政府の裁量で決められるため、国民の権利自由が不当に制約されるおそれがある
②内閣総理大臣の権限によって、不明確な要件のもとで地方公共団体の長による調査・報告等がなされ、土地・建物利用者に報告義務や資料提供義務を課すことは、土地・建物利用者の思想・良心の自由(憲法第19条)、表現の自由(憲法第21条)、プライバシー権(憲法第13条)を侵害するおそれがあり、また、刑罰法規の明確性を欠く点において罪刑法定主義(憲法第31条)に反する疑いが強い
③内閣総理大臣が、不明確な要件のもとで注視区域内の土地・建物利用者が自らの土地・建物を「機能を阻害する行為」に供し又は供するおそれがあると認めるときに、刑罰の制裁の下、勧告及び命令を行い、当該土地・建物の利用を制限することは、土地・建物利用者の財産権(憲法第29条)を侵害するおそれがあり、罪刑法定主義違反の疑いもある
④以上のような規制の結果、例えば自衛隊や米軍の施設の周辺において、施設の拡充や施設利用の在り方について異議を表明したり抗議活動をしたりすることに対し、注視区域内の土地・建物利用者が不明確な要件のもとで利用制限や規制、刑罰を科せられることになりかねない。これは、思想・良心の自由や表現の自由を大きく制約し、ひいては民主主義の基盤をも危うくする
最後に声明は、「本法の強行可決に強く抗議し、本法の速やかな廃止を求めるとともに、恣意的な運用を阻止するために引き続き活動する決意である」と結んでいる。 “Lapiz Opinion《戦争をする国」へ突き進む日本政府になぜ国民は沈黙するのか-2》渡辺幸重” の続きを読む

Lapiz Opinion《戦争をする国」へ突き進む日本政府になぜ国民は沈黙するのか-1》渡辺幸重

-「重要土地等調査規制法」成立にみる日本社会の病根-

選挙ドットコムから

日本政府のコロナ対策への“無能無策”ぶりに日本国民は怒りを超えて諦めの境地に追いやられているなか、裏で憲法改正(改悪)や軍備増強が急ピッチで進んでいる。国会閉幕日の6月16日の未明には参議院で「重要土地等調査規制法案(重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案)」が強行採決された。これは特別秘密保護法や安保法制などと同じように日本憲法の平和理念を無視した戦争への道を進む法整備の一環である。なぜ、メディアはきちんと報道もせず、国民は無関心なのか。なぜ、日本社会は戦前と同じ道をたどろうとしているのか。このままでいいはずがない。 “Lapiz Opinion《戦争をする国」へ突き進む日本政府になぜ国民は沈黙するのか-1》渡辺幸重” の続きを読む