夏の千夜一夜物語《幽霊の話》構成・片山通夫

知人に聞いた話ですが、彼の勤めている会社のビルは「出る」と言われているそうです。特定のフロアだけに出るのだそうですが、そこには知人が所属する部署も入っていて、そのため何度もそれらしいものに遭遇したことがあるようです。

しかし知人曰く、お化けといっても大人しいものなんだとか。
残業をしていると、パーテーションの向こうから足音がしたり、マウスをクリックしたり、書類をめくったりする音が聞こえるそうです。
まるでそこに誰かがいて、同じく仕事をしているような雰囲気なのだとか。

自分の仕事が終わってもまだ気配がするので、挨拶してから帰ろうと覗くと、誰もいないのだそうです。
フロアを出入りするドアは一つしかなく、開け閉めすると音がするので、人の出入りがあればすぐわかるはずだと言います。

一人ならまだ「勘違いでしょ?」で済むのですが、そのフロアにデスクのあるほとんどの人が、同様の体験をしているのだそうです。
時には給湯室の方で気配や物音がすることもあるそうで、何だか「死んでも仕事している人がいるのだろうか…」と考えて背筋が寒くなりました。
知人の話を聞く限り普通の会社で、たまに残業があるくらいでブラック企業でもないはずなのですが。

このようにごく大人しい幽霊?のようなので、そのフロアの人達は多少足音や物音がしても「またか」で済ませてしまっているそうです。
それよりも仕事が終わらない方が恐ろしいとか(笑)