夏の千夜一夜物語《幻影電車》構成・片山通夫

 線路わきを歩いていると、不幸な事故の犠牲になった動物をみかけることがある。人間と動物の生活領域が重なったとき、譲歩を迫られるのは動物の側だ。動物たちは、自分勝手な人間たちをどう思っているのだろうか。
明治43年、開通して間もない鉄道で、運転手たちは奇妙な出来事に遭遇するようになった。雨の夜、同じ線路上を猛スピードで向かってくる電車があり、あわててブレーキをかけるが、降りてみると影も形も無い。あるとき、一人の運転手がかまわず突進したところ、電車は消え去ったが、翌朝、線路沿いに一匹の大きな狸(たぬき)が死んでいるのが発見された。
幻の電車を生んだのは鉄道の開通で住処(すみか)を奪われた狸の恨みなのだろうか。それとも当時の人々が動物たちに対して抱いていた罪の意識なのだろうか。
(日文研妖怪DB班・畑中小百合)