夏の千夜一夜物語《ハユタラス》構成・片山通夫

砂浜を歩いていると色々な漂着物に出会う。特にそれが意外なモノほど私達の想像は大いに膨れあがる。一体どこから流れ着いたのだろうか、と。
江戸時代の有名な政治家・新井白石の『采覧異言』によれば、東北地方南部の海岸には、しばしば大変長い人骨が漂着したらしい。白石はその骨を、日本の東にある国・巴太温(ハユタラス)人のものだという。骨の長さからみて彼等は身長が高く、日本神話に登場する長髄彦(ナガスネヒコ)はこの地の出身だとか。他の書物にも「大身」という国が登場し、どうやら日本の東の海上には、巨人が住むと考えられていたようだ。
日本は常に西側の海へと関心を向けてきた。逆に東側も間近に陸地があるはずと考えたのか。近世の知識人にとって、太平洋は見知らぬ異界だったのかもしれない。
(日文研妖怪DB班・戸田靖久)

「夏の千夜一夜物語」完