連載コラム・日本の島できごと事典 その47《椿の島》渡辺幸重

東京都立大島公園 椿園(大島ナビHPより)

島と島はいろいろな形でつながっています。伊豆諸島の大島(伊豆大島)と宮城県気仙沼市の大島(気仙沼大島)はいずれも“椿の島”と呼ばれていますが、椿が縁となって被災時に助け合い、深い交流が続いています。2011年3月の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)のときには伊豆大島から気仙沼大島に椿油を作る搾油機が送られ、2013年10月に台風26号が伊豆大島を襲い、土砂災害が発生したときには気仙沼大島から椿の苗と義援金が届きました。
東日本大震災で気仙沼大島は甚大な被害を受けましたが、島に住む小野寺栄喜さんは椿油工場をすべて流されてしまいました。小野寺さんは伊豆大島の日原行隆さんから椿の苗を仕入れていました。被災後の大変なときに小野寺さんから苗の代金が振り込まれたのを知った日原さんは「約束はどんな状況でも守る」という小野寺さんの姿勢に感激して気仙沼大島を訪れ、「工場を再開したい」という小野寺さんに搾油機を送り、工場で生産再開の手伝いをしたといいます。
2年後、今度は伊豆大島で台風による土砂崩れが起き、36人の住民が犠牲になりました。椿農園も土砂に飲み込まれ、荒れ地になりました。気仙沼大島の小野寺さんは伊豆大島に入り、自分の椿の苗を日原さんに贈りました。両島とも生産者の高齢化や人手不足などの問題があり、困難はまだ続いていますが、二人ともお互いの励みが大きな力になったと言います。
伊豆大島の南西約20kmに浮かぶ利島(としま)も“椿の島”です。実は、利島は椿油生産量日本一で、全国の6割近いシェアを持っているのです。皆さんが観光の島・伊豆大島で買う椿油は利島産かもしれません。島を訪れるときには島々のつながりにも注目してみてください。伊豆大島の影に隠れがちな利島ですが、春先には島の80%を覆う椿が満開の花で島を飾り、「赤い島」になります。