とりとめのない話《45秒のパフォーマンス》中川眞須良

大阪市内を南北に貫く幹線道路 御堂筋。
その中間当たり 本町付近の交差点の横断歩道上で 時々(月に1~2度)不思議な光景が見られる、と言う噂を耳にしてから半年程が経つ。そしてさらに知人から偶然飛び込んだ新しい情報は、
「私 見たわけではないんでが・・・・」と前置きしながら「モデル撮影のようなことをしているとか、、、、そんなのに興味あります? Nさん(私のこと)なら あるかも・・・」。 心の中で’「おおいにあります」と叫んでから さらにまた月日が流れた。

そしてさらなる情報のもと「これだ!」と思われる 現場 場面とは

1、 場所 博労町3交差点 御堂筋を東西に渡る北側の横断歩道
1、 日時 3月中旬日曜日 19時30分頃西側歩道上に横断を待つ人数人、歩行者信号が青になると足早に渡り始めたが二人の女性はワンテンポ遅れてゆっくりとあるき出した。うち一人は大きめのカメラを手にしている。(これこそ!)
写されている人(モデル?)はなぜか横断歩道の北の端をやや歩幅を広く前方を直視したままゆっくり渡り続ける。もう一人のカメラを持つ女性(カメラマン) 2メートール前後の間隔を保ち殆んど真横の位置からモデルに向かいシャッターを切リ続けている(連写している)ようだ。歩道中間辺りで指示があったのか さらにモデルの歩速度が落ち、歩幅が広いのでその姿 どことなく不自然でぎこちなく不思議な光景が繰り広げられていた。
渡り切ると同時に青信号の点滅が始まった。約45秒間の世界であったが この二人にとってこの場所は自然に設置された無料の寸劇の舞台と言えるかもしれない。さらにこの舞台、赤信号で停車中の南走車両のドライバー、 ヘッドライトに浮かぶこの光景をカメラとは逆の方向から二人の女性のパフォーマンスを同時に間近の特等席?(運転席)で見ているのである。
そしてこの舞台 また数分後にほぼ同じことが繰り返されている。
先との相違点は 横断方向が逆(東から西)、 横断歩道の南端を歩く(モデルが停車中の車のライトに浮かび上がる)、モデルがコートを着用している(カメラマンは同じ) 等であるが。

大阪南船場の店舗 「NO&NO」(ヘアサロン)

1999年開業のいわゆる知る人ぞ知る有名店である。と言うのも美容専門学校を卒業した美容師の卵達が 必修の「実習」を希望する営業店として常時 上位にランクされているからだ。その理由は卒業、修了そして独立後の各人(各オーナー)の店舗の営業成績のデータが抜群であることに他ならない。さらにもう一つは ユニークな営業方針の徹底とその経営哲学だ。

「NO&NO」におけるその哲学とは
1、作品の創造である
1、作品とはヘアメイクだけではなくお客様の
服装その他 嗜みまでのすべての要素をも含む
をモットーとした少数精鋭主義だ。
お客一人の在店時間はヘアメイク、服装 アクセサリー等とのコーディネート、写真撮影などを含めると最長3時間以上。
店主の主な仕事は 櫛、ハサミなどの道具類は持たず主に来客との短い会話に心掛けることであるが 時々担当従業員(弟子、研修生)の仕事の手元に向けられる鋭い視線と最後の仕上げの数分間 全従業員をその場に集め、担当者への数点のアドバイス、指示の時間帯は店内に独特の緊張感が走る。
ヘアメイクが終わるとお客様(モデル)は更衣室で 準備された服装に着換え、カメラマン(店オーナー、チーフ美容師を兼ねる)と二人で近くの横断歩道(博労町3)へと急ぐ。 この撮影終了時点まで「客」と「店」とのつながりは続く。
撮影された写真は2枚 Aー4サイズにプリントされ1枚はお客様の手元に、1枚は店内に半年間モデル名入りで ギャラリー作品として展示される。

「NO&NO」開業以来、この企画キャンペーンは評判が評判を呼び 東は岐阜大垣、西は岡山笠岡までその常連客の生活圏は広きにわたる。