アカンタレ勘太12-2《すべり台の滝》文・画  いのしゅうじ

あしたから夏休み。
イッ子せんせいがちゅういする。
「あぶない水あそび、しちゃだめよ」
隆三が教室を出るとき、テッちゃんをつかまえた。
「滝ならええのとちがうか」
ぼくの家の裏山のおくや。人がひとり通るのがやっとの道を行くと、地元の人が「滑滝(なめたき)」とよんでる滝がある。
と隆三はいう。
「すべり台になりそうな滝なんや」
テッちゃんは勘太に声をかけた。
「おもしろそうや。あしたいっしょに行こ」
通りかかったユキちゃんが勘太をにらむ。
「やめとき。またえらい目にあうやんか」
「すべるだけや」
とテッちゃん。心はすべり台の滝にとんでいる。
タミちゃんも「行く」といいだした。
武史もくわわって、よく日の昼すぎ、隆三の家に集合。
隆三のおとうさんは、滑滝ですべるときいて、ぎょうてんした。
「せんせい、知ってるんか」
みんなが首を小さく横にふる。
おとうさんは、浩二にイッ子せんせいを呼びにはしらせ、健一に「ついてこい」と命じた。浩二は隆三の下のお兄さん。上のおにいさんの健一は農協につとめている。
水着にきがえ、細い谷道を一列になってすすむ。三十分ほど歩くと岩がごろごろしている。
「あそこや」
健一が指をさした。大きな岩のうえで水がきらきらしているのが見える。
みんな急ぎ足になった。
岩は長さ10メートル、はば3メートル。巨大なカマボコの一方のはしがもちあげられたような形だ。
岩の上流がわのはしから下流がわのはしまで高低差2メートル。おすもうさんの頭のてっぺんくらいの高さのすべり台といった感じ。
表面のほぼまんなかが凹形にくぼんでいる。そのくぼんだところに水があつまり、ドーンとしぶきをあげている。
「スリルまんてんや」
テッちゃんはすっかりこうふんしている。
「スリルではすまん」
滝の10メートル先は深みだ。隆三のおとうさんは子どもたちがそこまで流されるのをおそれている。
「すべりおわったらすぐ立ちあがれ」
谷の両側の山の上まで聞こえるくらいに声をはりあげた。
健一が岩の上に、おとうさんが岩の下に立つ。
「じゅんびよし。さあ、すべってこい」
テッちゃんがとうぜんのように一番だ。
あっけないほど一気にすべりおりた。
隆三のおとうさんが勘太をしめいした。
勘太はこわごわ岩の上に立つ。谷がずっと先までつづいている。
「日本の秘境」にのっていた瀞峡のイカダが頭にうかんだ。足もとの岩はぬるぬるしている。
板イカダみたいや。とおもうと勘太の体がかたかたふるえ出した。
「ワァー」
勘太は頭からすべりおりる。
ゴボゴボ!
コップ3ばいくらいの水が、がばっと口にはいってくる。
ゴボゴボ!
せきこんだとき、隆三のおとうさんの足にふれた。勘太の手はイソギンチャクみたいに足にすいついている。(明日に続く)