連載コラム・日本の島できごと事典その55《野良クジャク》渡辺幸重

放置され、野生化した猫や犬を「野良猫」「野良犬」と呼びますが、沖縄県の先島(さきしま)諸島には「野良クジャク」が棲んでいます。本来はインドやスリランカなどに生息するインドクジャクで、これまでに石垣島、小浜島、黒島、新城上地(あらぐすくかみじ)島、与那国島、宮古島、伊良部島で生息が確認されています。雑食性で植物やは虫類、昆虫類などを食べ、生態系への被害が懸念されることから環境省の「生態系被害防止外来種」に指定され、駆除活動が行われています。大根や芋、ほうれん草など農作物への被害も報告されています。
はじめは新城上地島に持ち込まれたといわれており、1979年(昭和54年)に小浜島のリゾートホテルができると沖縄県外から百羽ほどのクジャクが導入されました。これらのクジャクが他の島に観賞用として寄贈されて広まったようで、飼育されていたものが逃げだし、繁殖したと思われます。「多くは学校で飼育していたものが逃げ出し野生化したようだ」との指摘もあります。1997年には宮古島でも確認されています。小浜島では1980年代からリゾートホテルが野生化したクジャクの駆除を始めたようですが、本格的な駆除は新城島で2006年から2009年にかけて集中的に行われ、116羽が捕獲されました。2011年度には竹富町で、公民館・猟友会・地方自治体などで構成される「竹富町クジャク防除対策協議会」が結成され、以後3年間に環境省の補助事業を利用して箱わなと銃器を用いた駆除活動が実施されました。2013年には黒島で1,479羽、小浜島で160羽がそれぞれ駆除されています。3年間で合計2,479羽のインドクジャクが捕獲されましたが、これには“クジャク探索犬”の活躍もあったとのことです。小浜島や黒島ではほぼ根絶されたともいわれますが、まだそれぞれの島々では駆除活動が続いています。
野生化したクジャクは鹿児島県の硫黄島にもいます。ここも高度経済成長期にリゾート施設が作られた際に観賞用として持ち込まれ、リゾート開発会社が撤退したときに野に放たれて繁殖したそうです。南西諸島以外にも福島県・埼玉県・三重県・滋賀県でクジャクが見つかっているということですから、生態系被害防止外来種として指名手配を受けたインドクジャクもしたたかに勢力を広げているのかもしれません。