連載コラム・日本の島できごと事典その56《散骨島》渡辺幸重

カズラ島(「自然散骨カズラ島」

60過ぎたら死を考えろ」という言葉を何かで見た記憶があり、歳を取ると「墓はどうしようか」「葬式は」などと考えるようになりますが、遺書に残すとしても「さてその内容は」となるとなかなか決められません。私は海が好きなので海に散骨する海洋葬がいいと思いましたが、家族に手間をかけそうです。森を守る運動をやってきたので樹木葬もいいし、合同墓はもっとも簡単かもしれません。そういうとき、島根県の隠岐諸島に日本で唯一の「散骨島」があることを知りました。

 カズラ島は島前・中ノ島の北部海岸に近く、島前湾の東入口に浮かぶ無人島です。面積約1.4㏊の小さな島ですが、大山(だいせん)隠岐国立公園内にあり、一切の建築物・構築物が認められない第一種特別地域に指定されています。2008(平成20)、首都圏の葬儀会社などが出資する民間葬祭業者が島を買い取り、島内に自然散骨所を設けました。対岸に献花・献酒・献水などのお別れの儀や命日の法要などを執り行う慰霊施設を整備し、5月と9月の年2回、渡島して散骨・慰霊式を行っています。自然環境を心配する声に対して、業者は「遺灰は無害なリン酸カルシウムが主成分なので比較的早く分解されて土に還るので、環境にはまったく問題ない」と答えています。それでも環境保全や風評に配慮する形で散骨粒形や量の自主規制を行い、島を10のブロックに分けて毎年散骨場所を変えるそうです。国立公園内なので開発される心配もなく、死者は豊かな自然の中で永遠の平安を得るということなのでしょう。

 実は、日本では各地に「お墓の島」があります。沖縄島の羽地内海(はねじないかい)に浮かぶ奥武(おう)島は対岸の沖縄島の3地区の墓の島で、亀甲墓や横穴式の墓など新旧入れ混じったさまざまな墓地がみられます。死者のための島として墓参に訪れる以外は渡島が禁じられています。同じ羽地内海にはヤガンナ島やジャルマ島という墓の島もあります。北九州市の筑前諸島では貝島に6世紀に造られた13基の古墳があり、干潮時につながる藍島の墓場だったとみられています。九州・大村湾の南西部に浮かぶ前島も古代人の集団墓地と考えられる“古墳の島”です。また、かつて炭鉱の島だった長崎市の中ノ島は1893年(明治26年)に閉山したあと軍艦島として有名な端島の火葬場・墓地として利用されました。そう考えると散骨島としてのカズラ島は現代風の「お墓の島」かもしれません。