連載コラム・日本の島できごと事典その58《世界5大猫スポット》渡辺幸重

相島の猫・コムギ(中日新聞ブログ「猫さんを探して」より

九州・福岡湾北方の玄界灘に浮かぶ相島(あいのしま)はいわゆる“猫の島”で、アメリカのニュース専門局・CNNが2013年に「世界5大猫スポット」の一つとして紹介して有名になりました。ところが「世界6大猫スポット」という説明も見られるので調べてみました。
CNNのWebサイトのタイトルは“5 places where cats outshine tourist attractions”(猫が観光名所を凌駕する5つの場所)で5ヶ所です。その2番目に“Japan’s cat islands”とあり、宮城県の田代島(たしろじま)と福岡県の相島の2島が挙げられています。「日本の猫島」の代表がこの2島ということかもしれません。ちなみに他の場所は「ローマのラルゴ・アルジェンティーナ広場」「トルコのリゾート地・カルカン」「台湾の侯?(ホウトン)」「米・フロリダ州のヘミングウェイ博物館」です。海外のWebサイトで同じ内容を“6 places where cats outshine tourist attractions”とするものがあるので、田代島と相島を独立させて「世界6大猫スポット」としても間違いではなさそうです。
相島が猫の島として世界的に有名になり、猫目当ての観光客が増えるとネットの書き込みに「猫が痩せていてかわいそう」「目ヤニが出たり病気になっている猫がいる」など猫の環境を問題にする声が増えました。実は、相島の猫は野性の猫として生きており、ケンカで傷だらけになったり、飢えてやせ細ったり、冬を越せなくて死んだりする現象は、自然の猫社会の生存競争の中では普通のことのようなので「かわいそう」という人間の感覚だけで言うのは微妙なところです。評判を気にした新宮町役場は公式ページで「相島の人と猫の共存について、それぞれにとって良い方法を検討しています」とし、「野生の猫」の表記を「飼い主のいない猫」に改めました(2019年7月)。猫の増加も原因の一つなので野良猫の無料不妊手術なども行っています。
さて、相島の猫がテレビ番組の主役になったことがあります。NHK「ダーウィンが来た!」に2016年11月にメスの白猫「ミュウ」、2017年11月にその子どもでオスの茶トラ猫「コムギ」、2019年7月にその姉の女王ネコ「コガネ」が主人公として出演し、ネコの野生動物としての生態が紹介されました。特にコムギは、子殺しさえするオス猫から我が子を守る行動を取り、オス猫は子育てに一切関わらないというそれまでの常識を覆しました。この発見は世界初ではないかと話題になりましたが、“野生猫の島”ならではの出来事と言えるでしょう。