Lapiz 22夏号Vol.42 読切連載《アカンタレ勘太11-2》文・画 いのしゅうじ

がんりゅう島のけっとう

勘太がふりかえると、勝也がうでぐみをしてにらんでいる。
1年生の冬、タイコ橋のらんかんをすべらされてから、勘太は1学年上の勝也とは目をあわせないようにしてきた。
その勝也が裕三と徹をつれている。徹はともかく、裕三まで手下になるやなんて。
大ショックの勘太。ヘラクレスオオカブトににらまれたテントウムシみたいに、ぶるぶるふるえている。
武史が勝也のほうに一歩ふみだした。
「カブトムシをとって、なぜいけないんですか」
「アカンにきまってる。神社のきょかがいるんや」
「勝也さんはきょかをもらってるのですか」
「あたりまえや。宮司さんにもろた」
「いつ」
「きのう」
「このお宮さん、きょねんから宮司さんいません」
「え!」
武史に一本とられ、いっしょにカブトムシとりをするのをみとめた勝也。こんどは、
「どっちがようけ取れるか、きょうそうや」
といいだした。
テッちゃんと勘太は、武史から「じゅえきがある木を見つけるんや」と教えられたとおり、カブトムシをさがす。
30分でカブトムシが5匹、クワガタムシが3匹とれた。
勝也たちは、めったやたら林のなかをうごきまわり、カブトムシがいそうにないサクラの木までゆすっている。
裕三が勝也にかくれて、くるくるパーのしぐをした。裕三もほんとうは勝也がきらいなのだ。
勝也組がとれたのはカブトムシ1匹とクワガタムシ3匹だけ。
「まけた」
とは勝也はいわない。
「オレのカブトムシとおまえらのカブトムシ。しょうぶや」
きりかぶの上でたたかわせることになった。おちたり、ひっくりかえったりした方がまけだ。
武史組の戦士はいうまでもなくムサシ。勝也のはツノが1本にみえる。武史が小さな声で「コジロウ」といった。
「ぼくらが勝ちます」
武史は自信たっぷりだ。
「なんでや」
「がんりゅうじまです」
勝也は「なんのことや?」と目をぽそぽそさせた。
「いや、別に……。けっとう、はじめましょう」
コジロウとよばれているとは知らない勝也のカブトムシは、きりかぶの上でのそのそしていて、おちつきがない。
武史はムサシを手のひらにのせ、コジロウのようすをうかがっている。
「武史、はよせえ」
勝也はいらいらして、しょうぶをせかす。
「ええ、すぐに」
武史は少しじらして、ムサシをきりかぶにおいた。
しょうぶはあっという間についた。
ムサシはツノでコジロウを体ごとすくいあげ、ぽーんとほうりなげた。コジロウは頭からまっさかさまに、きりかぶからおちていった。
勝也は、まさか!という顔だ。
「武史くん、きみはすごいなあ」
よびすてから「くん」がつき、おまえから「きみ」に変わっている。
みんなでカブトムシとクワガタムシを1匹ずつ分けることにした。
帰りみち、勘太は武史にきいた。
「宮司さんいないって、なんで知ったんや?」
「社務所のカギさびてた。使ってないしょうこや」
ひくい声だ。いいかたがどこか大人びている。
(武史は、ぼくとちがうせかいの子なんや)
勘太は二人におくれて、とぼとぼと歩きだした。(完)