載コラム・日本の島できごと事典 その72《粟島航路》渡辺幸重

Webに掲載されたビデオ「感謝のメッセージ」

四方を海に囲まれた島にとって定期船は命綱のような存在です。多くの“離島航路”が赤字操業のため離島振興法などによって国や地方自治体の助成を受けながら運営されています。それが2019(平成31)年に始まった新型コロナウィルスの流行によって利用客が激減し、窮地に追い込まれています。日本海に浮かぶ粟島(新潟県)では、年間約2万人の観光客を迎えていましたが、新型コロナウィルス感染の影響を受けて、粟島浦村が観光客や帰省客に旅行の自粛を呼びかけざるを得ない状況になりました。これは、粟島が無医村で医療体制が充実していないことや高齢者が多いこと、交通が不便なことなどから集団感染を恐れ、村民、観光客、帰省客の健康・生命に十分な保証ができないと考えたからです。特に小さな島は人間関係が密なこともあって感染病に対してかなり脆弱な体質を持っているのです。
粟島は岩船港(新潟県村上市)との間に高速船55分、フェリー90分で結ぶ定期航路があり、粟島浦村長が代表を務める第三セクターの海運会社・粟島汽船株式会社が運営しています。粟島への観光客は夏場に集中し、海が荒れる冬は欠航が続くという課題を抱え、苦しい経営を続けてきましたが、新型コロナウィルスが追い打ちをかけ、利用客の8割以上を占めていた観光客など島外客の急激な落込みで経営が窮地に立たされました。村は財政調整基金から3,000万円を取り崩したものの必要な資金額には足りず、金融機関からの借り入れも困難な状態に陥ったのです。実は、岩船との間だけでなく県庁所在地の新潟市との間にも定期がありました。その航路を44年ぶりに復活させるべく、2018(平成30)年6月から期間限定で高速船を1日1往復させる3ヵ年の社会実験に取り組みましたが、最終年度の2020(令和2)年5月~8月に予定されていた運航はコロナ禍のためにすべて中止となりました。一筋の光明が消され、まさに“天国から地獄”に突き落とされたのです。
このとき、粟島浦村が活路を求めたのが「ふるさと納税制度」を利用したクラウドファンディングです。2020年12月18日から2021年2月19日までの64日間を募集期間に設定し、目標額を1,000万円とし、「ふるさと粟島を未来につなぐために、航路の存続を応援してください!」と島民一丸となって全国に訴えました。反響は大きく、返礼品がないにもかかわらず、全国から温かいメッセージとともに寄付金が集まり、わずか2週間で目標額に達したのです。最終的には520人から1,684万5,320円の寄付が集まりました。島民からの「感謝のメッセージ」はWebサイト(https://www.furusato-tax.jp/gcf/1163)でご覧ください。
人々の動きはだんだん元に戻りつつありますが、コロナ禍はおさまりそうにありません。“離島航路”の苦闘はいまも続いています。