連載コラム・日本の島できごと事典 その73《ホープスポット》渡辺幸重

ホープスポット認定記念看板除幕式(撮影:東恩納琢磨さん)

 

参考:辺野古周辺の3次元海底地図

沖縄島北部の東岸・辺野古(へのこ)崎の東方約0.7kmに無人島の長島があり、その南西約0.3kmにやはり無人の平島(ぴらしま)が浮かんでいます。これらの島は大浦湾南部に位置し、辺野古崎から沖合に延びるリーフ内にあります。米NGO団体「ミッション・ブルー」は2019(平成31)年10月、長島・平島を含め辺野古・大浦湾を中心とした天仁屋から松田までの海域44.5?を貴重な動植物が生息する地域として日本初の「ホープスポット」(希望の海)に認定しました。辺野古・大浦湾では絶滅危惧種262種を含む5,334種の生物が確認され、2006(平成18)年からの10年間でエビやカニなどの新種26種が発見されています。2022(令和4)年8月には、日本自然保護協会が大浦湾北西部の瀬嵩ビーチ(名護市)前に「ホープスポット認定記念看板」を設置し、玉城デニー知事らが参加して除幕式が行われました。実は、長島・平島と辺野古崎の間の海域を含む辺野古崎周辺は日本政府が米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設予定地とし、2017(平成29)年4月から2,500mの滑走路を持つ新基地建設を進めていますが、沖縄県や県内団体などの激しい反対運動が起こり、長島・平島の周辺海域でも連日のように監視船やカヌーなどで抗議する反対派の活動が続いています。ホープスポット認定は、貴重な自然を破壊する新基地建設に反対する意思表示にもなっています。
長島・平島の東側に広がるイノー(礁原)は沖縄島でも有数の海草藻場として知られ、海草を餌とする絶滅危惧種・国指定天然記念物のジュゴンの食痕もみつかっています。沖縄島側の大浦川河口にはマングローブと干潟がみられ、大浦湾周辺ではウミガメ類が産卵のために上陸し、湾内には世界的に貴重なアオサンゴも群生しています。長島にはサンゴ礫が付着して成長する石筍を持つ鍾乳洞があり、日本自然保護協会は国内初の事例として2014(平成26)年に公表しました。同協会は、辺野古周辺地域の数万年から十数万年にわたる海面変動に関連した自然史を解明することが期待されるとして、長島・平島での上陸調査を求めていますが、辺野古新基地を建設しようとする国は国有地である両島を同年から立ち入り禁止にしています。
沖縄ではジュゴンの絶滅が心配されています。アオサンゴ群も石垣島・白保と並んで世界に誇る存在です。これらは恵まれた環境の中でさまざまな生物との共生の中で存在が可能なのですが、新基地建設はその環境を破壊しようとしています。沖縄の軍事負担の軽減と合わせて世界的にも豊かな生物多様性を誇る南島の自然を守る問題は日本国民全体の課題と言えます。