読切り連載 アカンタレ勘太12-1《さかさレインボー》文・画 いのしゅうじ

おぼん明けのとうこう日。
イッ子せんせいが勘太をよんだ。
「かけた?」
「……」
「やっぱりわすれてる」
勘太の頭をげんこつでこつんとたたく。
「虹の子で作文かいてくれるんでしょ」
とせんせいにいわれ、勘太は隆三の家で見た虹をおもいだした。
「ぼくら、虹の子や」
(なんであんなこと言うたんやろ)
「武史にかいてもろたらどうですか」
「勘太くんにかいてほしいの」
「ぼ、ぼくには……」
せんせいは「かけません」と言わせない。勘太の頭の中で「虹」ということばが、こしょうした扇風機みたいに、
カタカタとからまわりする。
家にかえると、わき目もふらず机の前にすわった。
机といってもヒバチの上に板をのせただけ。
作文ようしをひろげ、
「虹はまあるい」
とかいてみる。
あとがでてこない。
おかあさんが後ろからのぞいて、
「作文かいてるんか。えらいこっちゃ、雪ふるで~ぇ」
題が「ぼくら虹の子」ときいて、おかあさんがうたいだした。
♪われは虹の子大空に かかる大はし七色に 光かがやく大アーチ わがなつかしき夢の中
「我は海の子」のかえうただ。おかあさんはかえうたをはじめると、
ぱっとかしがうかび、「わてはかえうたの天才」とうぬぼれる。
しまつがわるい。
その夜。
勘太は夢をみた。
勘太が手作りのじょうき飛行機に乗ろうとしたとき、テッちゃんがやってきた。
「どこまで飛ぶんや」
「虹まで」
「ぼくも行く」
「一人のりや」
「もう一つ作ったらええ」
大きな木を切りぬいて飛行機づくりにかかっていると、
ユキちゃんとタミちゃんがやってきた。
「虹? 女の子の行くとこやんか」
もう二つ飛行機をつくる。
四つをつないで、いざしゅっぱつ。
飛行機はどんどんあがる。
大阪城、甲子園球場、清水寺も渡月橋もま下に見える。
勘太がまだ見たことがない、まいこさんも夫婦のまんざいコンビもいる。
夢ってふしぎだ。
くもをつきぬけた。
まっ青な大空に二つの虹がかかっている。
スイカを食べながら見たのとおなじ虹だ。
虹にちかづく。いろんな色のひかりをはなっている。
「赤、だいだい、黄色」とユキちゃん。タミちゃんは「あい色、紫」。
テッちゃんは細い目をまんまるにして、「緑と青もある」。
「ほんま、七色なんや」
ユキちゃんの目はキラキラしている。
「見て、見て」
タミちゃんがこうふんして指さした。
くもに、二つの虹がさかさにうつっている。
住吉大社のタイコ橋(反橋=そりばし)が、池にうつってるみたいに。
「さかさダブルレインボー」
テッちゃんは、したをかみそうな声をあげて、とびはねた。
「おちるがな」
パイロットの勘太。気が気でない。
飛行機が虹についた。
イッ子せんせいがえがおで迎えてくれた。
「ようきた」
うしろからのびのある低い声がきこえた。
(なんでクラタせんせいがいるんや)
勘太は目がさめた。