連載コラム・日本の島できごと事典 その86《夫婦岩》渡辺幸重

伊勢二見ヶ浦の夫婦岩 https://www.iseshima-kanko.jp/spot/1316 「伊勢志摩観光ナビ」

 日本各地には対の岩礁からなる「夫婦岩(めおといわ/みょうといわ)」がありますが、その間から太陽や月が上がったり沈んだりするところでは岩の間に注連縄を張り、手を合わせて拝む姿が見られます。 もっとも有名なのは三重県・志摩半島北東部の二見浦の沖合にある夫婦岩です。大岩は男岩、小岩は女岩とも呼ばれ、大岩の上には小さな鳥居があります。対岸にある二見興玉(おきたま)神社の御門岩とされ、夫婦岩の東北の海中にあって猿田彦大神の霊とされる興玉石を拝するところとして長さ35mの大注連縄が架けられています。興玉石は霊石とされ、かつては海上に姿を現していましたが、宝暦年間(17511764年)の津波で海中に沈み、暗礁となりました。1960(昭和35)年のチリ地震による津波で水が引いた際に一時的に姿を現したといわれます。 この夫婦岩は歌川広重の浮世絵「富士三十六景」の伊勢二見ヶ浦にも描かれており、5月から7月の間には岩の間から昇る朝日が見られ、11月から1月の間には満月を見ることもできます。天気がよければ夫婦岩の真ん中に富士山を見ることもあるそうです。夫婦岩は国指定名勝「二見浦」の中心で、縁結び・夫婦円満のご利益があるとして人気があります。
伊勢の「朝日の二見ヶ浦」に対して「夕陽の二見ヶ浦」として知られるのが福岡県糸島市の夫婦岩です。筑前二見ヶ浦(桜井二見ヶ浦)海岸の北西約150mに位置する岩礁群で、男岩・女岩・子岩があり、九州島の東側に当たるため、日の入りを見ることができ、日本の夕陽百選にも選ばれています。こちらは桜井神社の宇良宮(裏宮)として伊弉諾尊(いざなぎのみこと)・伊弉冉尊(いざなみのみこと)が祀られ、男岩と女岩は長さ約30m・重さ約1トンの大注連縄で結ばれています。毎年4月下旬~5月上旬の大潮の時期に行われる桜井神社の神事・大注連縄掛祭では勇壮な法被姿の氏子らが注連縄を掛け替えます。
 大分県の豊後二見ヶ浦は初日の出の名所として有名で、3月と10月には夫婦岩の間から日が昇ります。九州では「朝日の豊後二見ヶ浦」と「夕陽の筑前二見ヶ浦」が対比されます。豊後の夫婦岩は全長約65m・最大直径約75cm・重さ約2トンという日本一長い注連縄が架けられ、1994(平成6)年にはギネスブックに掲戴されました。毎年12月の中旬に地元有志約350人が新年に備えて注連縄を架け替えます。 このほか、三重県尾鷲市の弁財島(べざいじま)、広島県呉市の荷島(になえじま)、佐賀県唐津市の高島、徳島県鳴門市の鍋島などに夫婦岩があります。住んでいる近くにも崇拝の対象になっている岩や小島がないか調べてみたらいかがでしょうか。