とりとめのない話《雲雀東風(ひばりこち)》中川眞須良

ぴーち??、ぴーち??、ぴーち?? 久々に聞く雲雀の声だ
見上げても姿は見えない。鳴き声だけが上空から衝きささってくる。
雑木の根っこにしゃがみ もう一度じっくり目を凝らして見上げてみる。
ようやく見えた。   高い!遠い!小さい!

縄張り宣言の行動 と聞くが本当だろうか。しばらくすると声のトーンが少し下がった。姿がはっきりとしてきた。さらに低くなり鳴き声が変わる。
地上20メールほどか。
数秒間 いわゆるホバリング状態だ、着地が近い。
翼をたたんで素早い着地である。
落下と言った方が当たっているかも・・・。
しかも私から約30メール程の距離だ。
人(私)の存在を知っての着地であろうが珍しく近い。大胆な奴(鳥)だ。
おそらく巣が近くにあるのだろう。

その日の午後、もう一度同じ場所へ出かけ同じ木にもたれ掛かり、空を見上げしばらく過ごしたが雲雀の気配は全く無く、ただ感じられたのは 時々やや強い東風が運んでくる枯れ草の匂いだけである。

先程 雲雀が舞い降りたはあの辺りだ、探せば巣が見つかるかもしれない。
しかし Γその舞い降りたすぐ近くには巣はないよ」と昔 老人から聞いたことがある。外敵から巣を守る本能なのだろう。ここで がさがさと むやみに探し回れば雲雀に迷惑だ 嫌われる。しかし見たい。

以前、偶然に一度巣を見つけたことがある。
枯れ草を幾重かに敷き詰めた扇子大の質素な造りである。
うずらより色の黒い卵が4~5個並んでいたのを覚えている。ならばここで巣のありそうな場所を予測し うまく見つけ出すことができるか試してみることにした。もちろんその場になければすぐあきらめよう。それも一度だけ。言わば巣探しの一度だけの小さな賭けである。
そんな偶然に見つかるだろうか。

その予測した場所は
1、方向  私と雲雀が着地した二点の延長線上
1、距離  30m+5m(安全地帯の半径)+α 計約35メートル

はたしてどうだろう、もし見つけても 親鳥が留守であることを願いながら、少し遠回りしてゆっくりその場所に接近。
しかし付近に巣は見当たらず予測は大きく?外れ。
すぐ退散。甘かったと反省しながらも、一方で見つからなかったほうが良かった、雲雀に嫌われずに済んだ、とする別の安堵感のような気持も交錯していたのかもしれない。

午前よりも少し風が強くなった。

機会があれば来年の雲雀東風の吹く頃、もう一度ここに来て見たいと思う自分がいる。 懲りない。

雲雀笛 子がひとり吹く 野に来たり      竹中 古村 

雲雀東風(ひばりこち):春に吹く吹く東の風。