3・11特集 原発を考える《脱原発への5アンペア暮らし#2》文 井上脩身

エアコンを使わない生活に

箒で掃除をする斎藤氏(ウィキペデアより)

2012年7月、斎藤さんの5アンペア暮らしが始まった。それまで40アンペアで生活していた斎藤さんにとって、いきなりの電気8分の1ライフである。その気持ちを、バットの振り方も知らない者がプロ野球の打席に立って試合に臨むようなもの、と斎藤さんはたとえる。

5アンペアで一度に使えるのは500ワットまでだ。洗濯機や冷蔵庫を使ってもブレーカーは落ちないか、などとそのつど不安にかられる暗中模索の新生活であった。福島では線量計を持ち歩いて被ばく量を測っていた。そのときの「数字見える化」を応用すればいいと考え、消費電力測定器を購入した。家電のプラグを測定器に差し込むだけで何アンペアの電流がながれているかが分かる計器だ。

まず扇風機を測った。風量「弱」では0・3アンペア、強風で0・6アンペア。エアコンの15分の1から30分の1しか電気を消費しないことがわかった。ついで全自動洗濯機。「洗い」「すすぎ」「脱水」という一連の流れのなかでアンペアは0・8→1・6→0・0→1・2→0・6→1・8と目まぐるしく変動した。冷蔵庫は測定器をセットした段階では0・8アンペア。とびらを開けると1・6アンペアと2倍に。「冷蔵庫の開閉は短時間に」との省エネ教科書記載通りの結果だった。

こうした見える化によって、冷蔵庫を開閉しなければ、洗濯機を4アンペア使ったうえ、さらに照明も可能であることが判明。扇風機を「強」の0・6アンペアで動かしても、2・6アンペアのテレビを見ることができる。しかしテレビをつけたまま洗濯機を動かすと7アンペアを超えるので、同時には使えないこともわかった。

こうしてアンペアデータを得たことによって、10アンペアになるエアコンの使用をやめた。電子レンジ(10アンペア)、トースター(同)、5合炊き炊飯器(13アンペア)、ドライヤー(10アンペア)、たこ焼き器(8アンペア)、掃除機(強10アンペア、弱5アンペア)なども使うのをやめた。条件付きで使うことにしたのは42型液晶テレビ(2・6アンペア)、320リットル冷蔵庫(0・8~2アンペア)。今まで通り使うのは乾燥機能のない洗濯機(0・8~4アンペア)、蛍光灯(0・5アンペア)、ノートパソコン(0・2~1アンペア)。

これまで使ってきた家電を使わないとなると、暮らしの在りかたを変えねばならない。夏、浴室でシャワーを浴びた後、体をあまり拭かずに扇風機にあたると、水滴が蒸発して体温を奪い、心地よい涼しさを感じることができた。「エアコンで得られない至福の時間がもたらされた」と斎藤さん。掃除機に代えたのが箒。舞いあがるホコリを防ぐために、濡らした新聞紙を小さく切って部屋にばらまいてから掃くという、昔ながらのやり方をはじめた。電子レンジに代えて金属製の蒸し器を使用。電気炊飯器に代えて鍋で炊くと、炊飯器よりもおいしく炊けた。

こうした5アンペア暮らしによって、7月18日から30日間の使用量は59キロワット時、電気料金1208円。福島にいた前年の同じ月は133キロワット時なので56%減少した。冷蔵庫を使わなかった11月の使用量は11キロワット時、電気料金は285円。1年前に比べ86%も減った。

太陽光発電でテレビ見る

斎藤氏宅の太陽光発電装置(ウィキペデアより)

5アンペア暮らしが軌道にのった2013年9月、今度は名古屋に転勤になった。南にバルコニーとベランダがある2階建ての一軒家を借りた。同年12月の電気使用量が2キロワット時にまで減少したのを機に、斎藤さんは太陽光発電所の建設に着手した。

現在普及している太陽光発電は、電力会社の電線とつないで、発電した分を電力会社が買い取る方式だが、斎藤さんが目指したのは独立型太陽光発電。自分がつくる電気を自分で使う自産自消電力だ。5アンペア暮らしなのだからソーラーパネルは1枚でまかなえると考え、ネットショップで約3万3000円の50ワットセットを注文。自分で組み立てて室内に設置した。太陽にパネルを向けると発電ランプが点灯し、独立太陽光発電所が稼働をはじめた。斎藤さんは「健康第一電力」と命名。後にベランダにパネルを取り付けた。(写真上)

斎藤さんの計算では、1日に3時間太陽が当たるとすれば、発電量は150キロワット時。50ワットのテレビなら1日に3時間は見ることができる。1カ月のうち20日間発電できれば、3キロワット時になり、斎藤家の使用電力をほぼまかなえるという。

考えてみれば、テレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫の三種の神器が登場する以前の昭和30年代初めまで、ほとんどの日本の家庭では、電気製品といえば電灯と扇風機、アイロンしかなかった。5アンペア暮らしは当たり前だったのである。

高度経済成長期以前の暮らしに戻ることは現実には不可能であろう。大半の人にとって5アンペア生活はムリだとしても、斎藤さんの試みは、電気浪費時代の今、大いに注目されてしかるべきだ。私の極めて大雑把な提案だが、一人の基準を10アンペアとし、家族が一人増えるごとに5アンペア分プラスできることにしてはどうか。夫婦二人なら15アンペア、4人暮らしなら25アンペアになる。これならそうムリせずに暮らせるはずだ。強制すべきでないことは言うまでもないが、国民すべてがそうした気持ちをもてば、「原発は要らない」が国民世論になるにちがいない。(完)