連載コラム・日本の島できごと事典 その94《奄美島唄》渡辺幸重

沖縄三線の爪(上)と奄美三線のバチ (「大阪発中年親父の道楽ブログ」より)

NHK番組『新日本風土記』のバックには幽玄さが漂う歌声が流れます。私の好きな奄美島唄の第一人者、朝崎郁恵の歌声です。奄美島唄の唄者(歌手)では元(はじめ)ちとせや中(あたり)孝介らが有名ですが、ご存知でしょうか。

さて、「島唄」と聞けば皆さんは沖縄民謡を思い出すでしょう。しかし、「島唄」という言葉は鹿児島県の奄美地方が発祥の地と言われています。従って、「島唄」とは狭義には奄美群島の民謡を指します。それが沖縄の民謡を含むようになり、さらに沖縄・奄美地方で作られる新民謡やJーPOPを含む広い音楽ジャンルを指すようにもなりました。一方、「シマ」には集落という意味もあり、ある特定の集落の歌を意味する島唄を表して「シマ唄」と書くこともあります。
奄美島唄の特徴のひとつは発声法です。ヨーデルのように裏声を伴う独特な“こぶし”で歌うので、極度に緊張したときの演説のような“裏返った声”に聞こえるかもしれません。どうしてそう歌うのかについては諸説あり、民謡研究家の仲宗根幸市は以下の4仮説を上げています。
1.非日常的で神聖な行為と関連するため男性の声も女性の声に近づけた
2.薩摩の支配下で大っぴらに苦しみを表現できなかったため聞きにくくした
3.山合の急峻な地形での掛け合いで声が通りやすくした
4.音色変化と音域を補うという音楽的理由により生まれた
また、船大工でもあった唄者の坪山豊は「対岸にいる人の間や海上にいる漁師同志で届きやすい声になった」と3.に近い理由を挙げています。
楽器の三線は「サンシン」「サンシル」「サムセン」などと呼ばれますが、沖縄の三線より全体的にやや大きく、高めの音を出しやすい作りになっています。弦の太さも異なり、弦を弾く道具も沖縄では水牛の角などで作られた爪を使うのに対して奄美では竹や鼈甲などで作られた耳かき状のへら(バチ)を使い、ダウンストロークに弾くことが多い沖縄に対して奄美ではアップストロークの“返しバチ”や左手の指を使った“はじき”“うちゆび”などを多用します。ただし、奄美地方南部の沖永良部島、与論島は音楽の面では沖縄文化圏に属していると言え、楽器や奏法、歌詞などは沖縄に近い特徴を持っています。
日本の民謡界で奄美唄者の実力は高い評価を受けており、1979(昭和54)年には築地俊造(奄美大島)が第2回日本民謡大賞全国大会で優勝、フランス・カンヌ国際音楽祭出演など国際舞台でも活躍しました。その後、1989年に当原ミツヨ(奄美大島)、1990年に中野律紀(RIKKI)(奄美大島)が日本民謡大賞全国大会優勝、松山京子(徳之島)が1998年に民謡民舞全国大会優勝、翌年の日本民謡フェスティバルでグランプリを獲得し、同じように中村瑞希(奄美大島)も2005年民謡民舞全国大会優勝、翌年日本民謡フェスティバルグランプリ獲得を果たしました。2012年には川畑さおり(喜界島)が日本民謡ヤングフェスティバルで全国優勝し、“若手民謡歌手日本一”となっています。