連載コラム・日本の島できごと事典 その101《鞘形褶曲》渡辺幸重

沼島の鞘形褶曲

瀬戸内海に浮かぶ淡路島には南岸すれすれに中央構造線が通っており、そこから約3km南に沼島(ぬしま)があります。沼島北端の黒崎付近の岩石にはフランスと日本だけという世界的にも珍しい鞘形褶曲(さやがたしゅうきょく)が見られます。1994(平成6)年に発見されたこの鞘形褶曲は約1億年前の“地球のシワ”とも言えるもので、中央構造線や日本列島の形成にも関係する地殻内部の動きを教えてくれます。

1億年前の東アジアでは太平洋側のイザナギプレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでいました。このとき日本列島の土台となる陸地はまだ大陸の一部で、約2500万年前から地殻変動によって大陸から離れ始め、その後太平洋側のプレートの沈み込みによってできた付加体を付けて日本列島が形成されていきました。また、イザナギプレートが沈み込む海溝と平行に、大陸だった日本列島の土台部分に大規模な左横ずれ運動が起きてできた断層が中央構造線です。なお、イザナギプレートは約5000万年前までに完全に大陸の下に潜り込んで姿を消し、その後は太平洋プレートが沈み込むようになりました。
沼島は全域が三波川(さんばがわ)帯の結晶片岩類からできています。これは約1億年前の中生代にプレートの沈み込み帯における地殻変動によって比較的高圧の条件で生じた変成岩です。Webを見ると多くが「太平洋プレ-トとユ-ラシアプレ-トがぶつかり合うところでできた岩石が隆起した」と書いてありますが、1億年前なら太平洋プレートではなく、「イザナギプレートとユーラシアプレート」ではないでしょうか。あるいは、岩石が隆起して沼島を作った時期は太平洋プレートの時代だったということを言っているのかもしれません。
平成の時代に入ってこの結晶片岩(泥質片岩)から同心円状になった鞘状褶曲の露頭が発見されました。この鞘状褶曲はプレートが沈み込む過程で強力な褶曲作用が発生したことを物語っています。沼島の鞘状褶曲は2009(平成 21 )年に「日本の地質百選」に選ばれました。

沼島には「おのころ神社」があり、『古事記』『日本書紀』にある国生み神話の有力な舞台と言われています。確かに「天の御柱」ともいわれる上立神(かみたてがみ)岩をはじめ、多くの奇岩、巨岩、岩礁は神話の世界を感じさせます。沼島は、日本遺産「国生みの島・淡路~古代国家を支えた海人の営み~」の構成文化財にも認定されています。