原発を考える《坂本龍一の「脱原発」#3》文 井上脩身

『坂本龍一×東京新聞 脱原発とメディアを考える』の表紙
『坂本龍一×東京新聞 脱原発とメディアを考える』の表紙

「核のゴミ処分の国際ルールを」

東京新聞の記者たちとの討論では使用済み核燃料の処分についても話題にのぼった。わが国の原発の半数以上が、使用済み核燃料の貯蔵率について、法令で定められた量の8割を超えており、「トイレなきマンション」が現実問題になっている。六ケ所村の再処理工場建設は迷走をつづけ、プルサーマル計画は、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉で頓挫している。こうしたなか、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場の選定をめぐり、北海道の寿都、神恵内の2町が公募に応じた。

この討論は2町が手を挙げる前に行われたが、処分についての見通しがほとんどないことはその後も変わらない。

東京新聞の記者は「あくまでも使用済み核燃料を再処理し、高レベル放射性廃棄物を地層に埋めていく」という国の方針を説明したうえで「使用済み核燃料を再処理しないで、長期間、冷却した後に金属製のキャスク(容器)に入れて、地上の施設か浅い地下施設で保管する直接処分という考えもある」と述べ、坂本さんの意見を尋ねた。

坂本さんは「日本学術会議が『日本では使用済み核燃料の最終処分はできない』と、とっくに言っている。科学者の集まりが言ってるのだからダメでしょう」と、最終処分場選定について否定的だ。

最終処分場は300メートル以上の深い地下に、使用済み核燃料を溶かした廃液とガラスを混ぜた「ガラス化固体」を埋めて処分する施設。ガラス固体化は人が近づくと20秒で死亡する強い放射線を放ち、比較的安全な線量に減るまで10万年かかるといわれている(2020年10月9日、東京新聞電子版)。

処分場選定については、文献調査、概要調査、精密調査を経て決まることになっている。すでに述べたように北海道の2町が応募したが文献調査段階に過ぎず、しかも最大20億円とされる国からの交付金に釣られた形だ。調査が進むと地元住民の反対の声が高まるのは必至。坂本さんも、成田空港をめぐる三里塚闘争を例に「(成田の)再来になるでしょか。住民は反対するでしょう」という。

「再処理せず、保管した方がいいという考えか」ときかれたのに対し、坂本さんは「ドイツでは使用済み核燃料の処分の海外委託を禁じる法律があるらしい」とドイツの例をあげ「日本で出した核のゴミを他国にもっていくのは非倫理的」と指摘。その一方で「これだけ地震がある非常に不安定な国で、地下に埋めることが出来るのかは疑問。地殻変動で大気と海洋に漏れ出すことも考えられ、非常に危険が高い」と語る。

ではどうすればいいのか。坂本さんは「日本一国だけの問題ではない。国連とかを巻き込み、国際的なルールに基づいて各国が協議し、いい方法を考えては」と提言した。

自然エネルギー推進イベント

岸田政権は2月10日、原発依存度低減という従来の政府方針を変え、「最大限活用」することを閣議決定し、「GX(グリーン・トラスト・インフォメーション)実現に向けた基本方針」に盛り込んだ。GXは、産業革命以来の化石エネルギー中心の産業・社会構造を、温室効果ガスを排出しないクリーンエネルギーに変えることを指すが、「高濃度放射性廃棄物をもたらす原発は、真の意味でクリーンなエネルギーといえない」との見解がある。また「原発回帰は再生可能エネルギーの普及を停滞させるだけ」という指摘もある。

坂本さんは討議のなかで「僕が2000年ごろから、環境問題について発言するようになったら、『坂本は気が狂った』と散々言われた。実はそのころ、ひそかに自然エネルギーを推進する『アーティスト・パワー』っていうのを作った。ミュージシャンは環境問題にほぼ関心がなく、『悪い宗教に入ったんじゃないか』とも言われ、最初は2人だけ。今でこそ100人くらいになったけど」と明かした。

「アーティスト・パワー」は「ミュージシャンとしての活動を通して、自然エネルギーや環境問題を知ってもらおう」と坂本さんが呼びかけて結成。人気ロックグループ「GLAY」のTAKROさんが賛同。活動の手始めに北海道石狩市で 開かれた「GLAY EXPO」で、自然エネルギー機器の展示などを行った。このイベントを予告する毎日新聞(北海道版)では、坂本さんは「音楽活動で使う電気を僕たち自身で作れたらどんなに素晴らしいか」と語っている。

祭典「FUKUSHIMA!」で朗読した詩人、和合亮一さんは「音楽が心に届くから強いメッセージとなった」と語った(4月4日、毎日新聞)。坂本さんの再生可能エネルギーへの思いは、芸術センスがゼロの岸田文雄首相には届かなかったのであろうか。いや、首相は、はなから聞く耳を持たなかったにちがいない。(完)