連載コラム・日本の島できごと事典 その114《夢洲(ゆめしま)》渡辺幸重

夢洲全景(ウイキペディアより)

 大阪・関西万博は2025(令和7)年4月開幕予定ですが、「建設費が計画の1,850億円から2,300億円程度に増える」「海外パビリオンの建設が間に合わない」などの不安が広まっています。大前研一氏は『週刊ポスト』10月6・13日号で「大阪・関西万博は大失敗して税金の無駄遣いに終わる」とまで言い切っています。円安による資材高騰や人手不足、建設予定地の土壌汚染問題や軟弱地盤問題など課題は山積しており、東京オリンピックに続いて天井知らずの費用はどこまで増えるのでしょうか。

 大阪・関西万博の予定地は大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲です。ここはどんなところなのでしょうか。

東京湾や大阪湾には人工島が多く、そのほとんどがゴミの処分場だったところです。夢洲は北東側の舞洲(まいしま)、南東側の咲洲(さきしま)とともに1970年代から埋め立てられました。夢洲・舞洲・咲洲という名称は1991(平成3)年に一般公募によって決まった愛称です。

大阪市が1988(同元)年に策定した「テクノポート大阪」計画では、夢洲は6万人が居住する新都心になる予定でした。しかし、バブル崩壊によって計画は頓挫し、2008(同20)年には正式に計画が白紙撤回されました。1990年代に出てきたのが2008年夏季オリンピックを舞洲に誘致するという案で、夢洲には選手村を整備するはずでしたが2001(同13)年のIOC総会で大阪は北京に敗れ、夢と散りました。オリンピックに代わって2014(同26)年には「1970年大阪万博(日本万国博覧会)の夢よもう一度」と大阪市による国際博覧会誘致構想が浮上、2016(同28)年に会場候補地が夢洲に一本化され、2018(同30)年11月の博覧会国際事務局(BIE)総会で大阪開催が決まりました。

一方、2014(同26)年には当時の橋下徹大阪市長が夢洲を候補地としてカジノを含む統合型リゾート (IR) 誘致活動を推進すると発表しました。大阪IRの開業は新型コロナウイルスの流行や国の手続きの遅れなどから大幅に遅れ、当初計画の2025年から2020年代後半(目標)と伸びていますが、大阪市は2021(令和3)年9月にIR事業者選定を発表しています。夢洲では万博とカジノという2つの大型プロジェクトが併行して進んでおり、大阪市は夢洲を新たな国際観光拠点にするとしています。

夢洲の埋め立て途中にできた池や湿地、砂礫地には現在は多くの野鳥や昆虫が生息しています。野鳥では、ホシハジロやツクシガモ、セイタカシギ、コアジサシ、シロチドリなどが見られ、大阪府レッドデータリストで「絶滅」とされた水草のカワツルモが再発見されました。これらのことから夢洲は咲洲の南港野鳥園とともに「生物多様性ホットスポット(Aランク)」に選定されています。 人間の欲望や思惑に翻弄されている夢洲ですが、もっと大きな心で野生動物や地球環境の立場で開発を見直してもいいのではないでしょうか。大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。

連載コラム・日本の島できごと事典 その113《姥捨伝説・金鶏伝説》渡辺幸重

四十小島と鶏小島の位置

本州島と四国島は3つのルート(連絡橋)で結ばれており、最も西側には本州・尾道側と四国・今治側を島伝いに結ぶ「西瀬戸自動車道(しまなみ海道)」があります。しまなみ海道が通る伯方島とその南東の鵜島の間が海の難所と恐れられてきた船折瀬戸です。船も折れると言われるほどの潮流が川のように流れる瀬戸の北東側には赤い灯台(舟折岩灯標)が、南西側には白亜の灯台(鶏小島灯台)が建っています。赤い灯台があるのが四十小島(ししこじま)、白い灯台があるのが鶏小島(にわとりこじま)です。この2つの小さな無人島には灯台だけでなく対比される伝説が残っています。四十小島の姥捨(うばすて)伝説と鶏小島の金鶏伝説です。 “連載コラム・日本の島できごと事典 その113《姥捨伝説・金鶏伝説》渡辺幸重” の続きを読む

のん太とコイナ2《空中ブランコ009》いのしゅうじ

「自由になったんだ」
テントから出た三人はうれし涙をポロポロながしています。
「コイナのおかげだよ」
お父さんのコイゾウがコイナとはらビレでにぎりあうと、お母さん、弟もかけより、家族四人はしっかりとだきあいました。
チンパンジーのチンが一輪車ではしってきて、コイキチに声をかけました。
「君がさらわれてサーカスに来たって、知らなかったんだ」
ゾウさんも立ちあがって「よかった」といわいました。
男ピエロと女ピエロがとんできました。
「ムーチン団長が、つかまえろってわめいている。早くここから逃げださなきゃ」
お父さんはのん太を、お母さんはみどりを背にのせ、四人は飛び上がりました。
コイキチが上空から大きな声でいいました。
「みんないい人、いい動物だったよ。ムーチン団長いがいは」  (完)

のん太とコイナ2《空中ブランコ008》いのしゅうじ

演技をおえて、親子三人は舞台におりてきました。
このあとはアカダ高校タイコ部のえんそうです。のん太は花道でひかえていたタイコ部員からマイクを借り、舞台に上がりました。
「こいのぼりはお父さん、お母さん、そして男の子の家族です。ムーチン団長にかどわかされたのです」
観客から「ムーチン、ひどいぞ」と声があがりました。
ムーチン団長がオニの形相でムチをふりまわします。
コイナがムチに向けて、おなかの中から団旗の一つをプッと吹き出しました。ムチは団旗の針でプツッと切れました。
ムチが役に立たなくなったムーチン団長はおろおろしています。コイナは団長めがけて二つ目の団旗を吹きこみました。
「イタタター」
ムーチン団長はたおれこみました。
こいのぼりの親子四人は裏の出口に急ぎます。
アカダ高校のタイコ部員が、テントの出口を開けてくれていました。

(明日に続く)

のん太とコイナ2《空中ブランコ007》いのしゅうじ

コイナとのん太、みどりは裏口からテントにもぐりこみました。
花道のわきの、観客席の下に身をひそめます。
フワー、プワー、プワフワ・フワー
低いぶきみな音色がひびいてきました。
女ピエロがリコーダーと尺八のあいのこのようなたて笛をふいているのです。
空中ブランコが間もなく始まることを知らせる笛なのです。
コイキチを先頭に、お母さんのコイシ、お父さんのコイゾウが花道に入ってきました。
コイナに気づいたコイキチ。ピョンとびはねました。よほどうれしかったのでしょう。コイナにだきつこうとします。
コイシがおしとどめました。ムーチン団長に見つかったらただではすまないのです。
コイナはコイゾウにこいのぼり語で語りかけました
「助けるわよ、安心して」お父さんは「わかった」と目くばせしました。
フィナーレの空中ブランコには工夫がこらされていました。
ひとつは、ブランコとブランコの間に、目かくしの壁をぶら下げたこと。もうひとつはコイキチにタオルで目かくしをしたことです。
コイキチは目が見えないうえに、紙製の壁をつきやぶって空中を飛ばねばなりません。
コイキチは知らされていませんでしたが、へいっちゃら。これを最後に逃げだせるのだ、そう思うと勇気百倍です。
天井と舞台そでからスポットライトが当てられました。
コイキチが自分のブランコからお父さんのブランコにとぶと、お父さんがパシッと受けとめ、パッとはなします。コイキチはビューンと飛んで壁をつきやぶり、お母さんのはらビレとにぎりあいました。
スポットライトに照らされたコイキチ。拍手が鳴りやみません。
目をとろんとさせて大満足のムーチン団長。自分をゆだんさせるための熱演とは、ゆめにも思ってないようです。(明日に続く)

のん太とコイナ2《空中ブランコ006》いのしゅうじ

のん太、みどりを乗せて、コイナはニクマレサーカスのテント上空までやってきました。
テントの屋根の両はしに団の旗がはためいています。
ニクマレ団長の似顔絵がえがかれた品のない旗です。「これはオレのサーカスだ」と言いたいのでしょう。
旗の四方のふちいっぱいにトゲのような針がとぎれなくほどこされています。この旗じたいが凶器なのです。
「オレのいうことを聞かないやつは、この旗でやっつける」
ムーチン団長のおそろしい思いがこめられているのです。
団のマークも団長のこわい目をデザインしたものです。
「ニクマレサーカス」というより「キョウフサーカス」という方が正しいでしょう。
コイナが大きく息を吸いました。二つの旗を口から吸いこみ。おなかの中にかくしました。
ゾウさんが演技をするため、テントに入っていくのが見えました。
ゾウさんのあとが空中ブランコです。(明日に続く)

のん太とコイナ2《空中ブランコ005》いのしゅうじ

空中ブランコが終わり、親子三人のこいのぼりはテントから出ていきました。
テント裏で、逃げだせないよう囲われているのでしょう。
のん太はみどりの手をひいて、裏にまわりました。
サーカスのスタッフが暮らすためのテントやコンテナなどがズラッとならんでいます。その前に広場があり、チンパンジーのチンがキャキャキャと楽しそうな声をあげています。
チンは鉄のロープを、一輪車でわたる人気者。そのチンとコイキチはうまがあうらしく、一輪車を教えてもらっているところでした。
コイキチがヨロヨロと一輪車をこぐと、チンは「尾ヒレは足にもなるんだ」と感心しています。「ぼくも乗りたい」とらやましそうに見ているのはゾウさんです。
少し離れたところで、コイゾウとコイシがじいっと見まもっています。うれしそうにしているコイキチがかえってあわれでなりません。何て不幸な親子でしょう。見はり役がいません。助け出すチャンスはありそうです。
お父さん、お母さん、弟の消息がわかると、のん太の部屋の前のベランダにこいのぼりをあげる、と決めていました。
どのようにコイナに伝わったのでしょう。二カ月後、コイナがやってきました。その日はサーカス最終日でした。
のん太とみどりはコイナの背にのって、アカダ川公園に向かいました。
ドンドンドドーン ごうかいな音が聞こえてきます。
アカダ高校タイコ部が練習をしているのです。
アカ高タイコ部は夏休みにアメリカ遠征をし、ニューヨークで開いた演奏会が新聞記事になりました。
それでニクマレサーカスから「フィナーレをかざってほしい」とたのまれ、特別出演することになったのです。
のん太はタイコ部員に、空中ブランコの三人はムーチン団長にゆうかいされたと話しました。
「みんなを楽しませるサーカスが、ゆうかいしたとは」
リーダーは「許せん」といかりの声をはりあげ、三人を助けるために協力すると約束してくれました。(明日に続く)

のん太とコイナ2《空中ブランコ004》いのしゅうじ

天井から三つのブランコがつりさげられています。
空中ブランコというのに、まんいち落ちたときのためのネットがはられていません。
「命づなもつけていません」
と胸をはるムーチン団長。人命尊重なんて頭にないのです。
三人はハシゴを使って、ブランコまで上がっていきました。
中央のブランコはお父さん、のん太とみどりに近い方のブランコに弟、反対のブランコにお母さんがぶら下がりました。
三人は尾ヒレのつけねを曲げてブランコのバーにぶら下がれるよう、きたえられたのです。
コイキチがブランコをブランブランとゆすりはじめました。
エイとかけ声を上げて飛びました。
でも、イヤイヤやっているので、頭から落ちていきます。
アッ! 場内から悲鳴が上がりました。
コイキチは舞台に頭からぶつかる寸前、あわてて体をもち上げました。もともと飛べるのですから、難しいことではありません。お父さんと、はらビレどうし、にぎりあいました。(明日に続く)

のん太とコイナ2《空中ブランコ003》いのしゅうじ

ゾウさんは、へまをするとムチでたたかれるので、悲しそうな目をしています。
「ムーチン、もっとやさしくしろ」
のん太のうしろから声がしました。
どうやら団長は「ムーチン」と呼ばれているようです。
三角ギョロ目に四角い鼻。その下にこい口ひげ。海ぞくの親分という感じ。頭には紫色のカウボーイハット。
ゾウさんの演技が終わると、三人のこいのぼりが舞台にあがりました。
ピエロが口上をのべます。
「だれも見たことのない、こいのぼりの空中ブランコ。ニクマレサーカスがほこる究極の演技です。世界の有名サーカスからにくまれるほどの最高の技を、とくとごらんください

ムーチン団長がピューとムチをふりました。目にも止まらない早わざ。三人のこいのぼりは首をすくめました。
ムーチン団長は投げなわを、このようにたくみに使って、三人をつかまえたにちがいありません。(明日に続く)

のん太とコイナ2《空中ブランコ002》いのしゅうじ

 食卓に開いたまま置いてある新聞を、のん太がなにげなくのぞくと、思いがけない広告がのっていました。
「世界初、こいのぼりの空中ブランコ」
大きな活字がおどっています。ニクマレサーカスの宣伝です。一週間後、アカダ川公演でオープンとあります。
コイナのお父さん、お母さん、弟ではないのか。
三人の親子こいのぼりが里に帰らなくなって半年になります。空中ブランコのくんれんをさせられていたにちがいありません。そのおひろめなのでしょう。
公演初日、のん太は妹のみどりを連れて、サーカスを見に行きました。
ニクマレサーカスはできて間なしの一座です。動物をこわがらせて技をたたきこんでいる、と動物あいご団体からきびしく批判されているそうです。
のん太とみどりが大テントの会場にはいると、舞台ではゾウさんが大きなボールにのって曲芸をしていました。
ゾウさんのうしろで団長がムチをふりまわしています。(明日に続く)