読切連載アカンタレ勘太10-2《ラインダンス》 文・画 いのしゅうじ

勝のいかりがおさまらない。
「勘太がかわいそうやないか」
「ぼく、気にしてへん」
勘太はいつものようにもぞもぞという。
「勝のタイガース好きにはびっくりや」
隆三は勝のきげんをとるように言った。 “読切連載アカンタレ勘太10-2《ラインダンス》 文・画 いのしゅうじ” の続きを読む

読切連載アカンタレ勘太10-1 《阪神巨人どうま戦》 文・画 いのしゅうじ

阪神巨人どうま戦

 テッちゃんと勝がけんかをしている。
3年生になって、新しい教室に入るなり、テッちゃんが、
「巨人の川上や」
と、けしょうまわしを机に広げたのがきっかけだ。 “読切連載アカンタレ勘太10-1 《阪神巨人どうま戦》 文・画 いのしゅうじ” の続きを読む

読切連載アカンタレ勘太 9-2《栃若すもう大会》文・挿画  いのしゅうじ

栃若すもう大会

イッ子せんせいが北島八百屋に顔をみせた。
「エイちゃん、七夕まつりをやったでしょ。おすもうはできないかしら」
栄三はけげんな顔だ。
「みんなでけしょうまわしを作ったそうよ」
きのう、ユキちゃんとタミちゃんがイッ子せんせいの下宿にやってきて、けしょうまわしを見せてくれた、とせんせいはいう。
「すもうの大会ですか?」
「うん、女の子もさんかできるといいわ」
栄三はその日のうちに「七夕まつり実行委員会」のメンバーをあつめた。
「おんな? そらあかん。すもうは男のせかいや」
栄三はねばった。
「おおずもうみたいに土をもりあげるのやない。じめんになわをうめこむだけ」
すったもんだしたが、
「男女平等の時代や」
女性のさんかをみとめ、お宮さんですもう大会をひらくことになった。
4月はじめ、「栃若桜花すもう大会」が開かれた。
広場にどひょうがつくられた。ゴザに50人くらいがすわっている。
その一番まえで正座しているのはイッ子せんせい。ちかくの着物すがたの男性が気になっている。ピリピリしたするどい目なのだ。
しゅつじょうする力士は子どもが30人。このなかに目の見えない登もいる。女の子はユキちゃん、タミちゃんら6人。ほかに中高校生や働いている若ものが10人。
みんな、しめこみ代わりにへこ帯をこしにまいている。
行司は栄三。剣道着にみをつつんでいる。
勘太はさいしょのとりくみに出ることになった。
相手は6年生の勝也。入学したときからいじわるしてきたあの勝也だ。勘太はヘビににらまれたカエル。立ちあう前からいすくめられている。
「ハッケヨーイ」
軍配がかえったしゅんかん、勘太はぐんとかつぎあげられ、どひょうの外にぼーんとほうりだされた。
つぎはユキちゃんの出番。相手はやはり6年生の女の子。がっこう一のおてんばだ。ユキちゃんの顔がひきつっている。立ち上がって1びょうもしないうちに、ユキちゃんはぱっとなげとばされた。
ユキちゃんは勘太のま上におちてきた。さけようとした勘太。顔が上下にひっくりかえっている。
「まるでろくろ首ね」
イッ子せんせいがあとでくすくすわらった。
よく日。
がっこうにこうぎの電話がかかった。
「女をどひょうに入れるとはけしからん」
校長室にイッ子せんせいが呼ばれた。
「校長としてあやまっておきました」
首をうなだれるイッ子せんせいだ。。
数年のち栃錦、若乃花が横綱になり、栃若時代をむかえる。やがて、女性のすもう大会もひらかれる。
とは、校長せんせいは思いもしなかった。
栃若すもう大会はこの一回でおわる。
(せんせい、悔しかったやろなあ)
イッ子せんせいの先見の明におどろく勘太。
(ひょっとしてクラタせんせいのアイデアかな?)
勘太の心の中で、クラタせんせいがチラチラしている。            (この回完)

読切連載アカンタレ勘太 9《けしょうまわし》文・挿画  いのしゅうじ

けしょうまわし

 三学期がもうすぐ終わる月曜日。
テッちゃんが教室にはいるなり、
「すもう見た」
と、みんなにじまんした。
おおずもうは今年(昭和28年)から大阪で三月場所がはじまった。その7日めの土曜日、テッちゃんはおとうさんにつれていってもらったのだ。
「栃錦と若乃花のすもうがすごかったんや」
テッちゃんは勘太をろうかにつれだした。
ぼくが栃錦をやる、勘太は若乃花や、とテッちゃんは勘太のおへそのあたりのベルトをつかんだ。
「ぼくがつりあげる。勘太はふんばるんや」
テッちゃんはつるのをとちゅうでやめ、頭を勘太の胸におしつけた。
「このとき、栃錦のまげがばらっとほどけた」
武史、隆三、裕三らが二人をかこんでいる。
隆三がからかった。
「テッちゃんは坊主頭や。まげないやん」
「やかましい」
勘太の体をはなした。
「水いりや。ちょっと向こうに行け」
「水?」
「行司がすもうを止めて、休ませるんや」
と、かいせつしたのはいうまでもなく武史。
ふたたび四つにくむ。テッちゃんは足をかけて勘太をどーんとたおした。
「栃錦のかち」
イッ子せんせいの声だ。いつのまにか、せんせいも見ていた。
「せんせい、栃錦のファンなの」
「若乃花もつよくなるわよ、きっと」
といって、みんなを教室にいれ、一時間目の国語のべんきょうをはじめる。
すもうがはやりだした。
朝、べんきょうのまえに運動場へ。棒で円をえがいてどひょうにし、とっくみあいをはじめる。
隆三が一番つよく、つぎが武史とテッちゃん。よわいのは裕三。相手のこしにしがみつくしか能がない。その裕三にも勘太はあっさり押し出される。
強いもの、弱いもの。はじめからみんなわかっている。三、四日であきてしまった。
「けしょうまわしをつけよう」
とテッちゃんがいいだした。
「なんや、それ」
「どひょういりのとき、つけるねん」
春休みにはいった日曜日、武史の家にみんながあつまった。ユキちゃん、タミちゃんもやってきた。
「女はどひょうに上がられへん」
「そんなんおかしい」
タミちゃんに目をむかれ、武史は、
「けしょうまわしを作るのはええやろ」
とおさめた。
「栃錦はどんなけしょうまわしやった」
「おぼえてへん」
「イッ子せんせいに見せよ、とおもたのに」
ぶつぶついっている勘太をしりめに、みんな思い思いにかきだしている。
テッちゃんは野球の雑誌をめくって、巨人軍の川上哲二。武史はチャップリン、隆三は大阪城、裕三はかぶと。タミちゃんはタカラヅカのスター、ユキちゃんは美空ひばり。
登が弓をひくアトムをかいているのを見て、勘太は夢でみたアトム号ロケットを思いだした。
(アトムがイッ子せんせいの里に行くから、クラタせんせいがでてくるんや)
勘太は富士山の上を飛ぶアトムをかいた。
みんなのけしょうまわしができたところで、どひょういり。いっせいにしこをふむ。
「ヨイショ」
ラジオは栃錦の優勝をつたえている。              (明日に続く)

 

読切連載アカンタレ勘太 8《アトムごっこ》文・挿画  いのしゅうじ

アカンタレ勘太 1-7

 

アトムの矢

アトムの矢

テッちゃんが自分のせきにつくなり、
「おもしろいんや」
と、カバンの中から一さつの本をとりだした。「少年」というまんがざっしだ。
ページをめくって、テッちゃんは「これや」と勘太に見せる。
『科学まんが 鉄腕アトム』という題で、ツノが二本でているようなかみ形の、たまごみたいな目をした男の子がえがかれている。
「てづかおさむ(手塚治虫)のまんがや」
テッちゃんはとくとくという。
「アトムはロボット。最初はアトム大使やった。ことしから鉄腕アトムになったんや」
武史がまんがをのぞきこんだ。アトムが月にむかってとんでいる。
「アトムごっこやろう」
とテッちゃんがいいだした。
「アトムをつくるんや」
「ロボットなんかつくれるわけないやろ」
といったやりとりがあって、
「弓をやろう。矢のさきにアトムの絵をつける」
と、ちえをだしたのは武史だ。
隆三のおとうさんに弓と矢の材料をたのむと、おとうさんは十人分そろえてくれた。
つぎの日曜日。武史の家で勘太とテッチャンが弓づくりにかかっていると、タミちゃんがユキちゃん、ヒロ子をともなってやってきた。 “読切連載アカンタレ勘太 8《アトムごっこ》文・挿画  いのしゅうじ” の続きを読む

読切連載 アカンタレ勘太 7《しらゆき雪ひめ》文・挿画 いの しゅうじ

しらゆき雪ひめ

 イッ子せんせいは、いつもの顔にもどっている。
「クラタせんせいはただのお友だちよ」
二人は若い教師でつくる「新しい教育を考える会」のメンバーだという。
がっこうがおわって、テッちゃんと勘太が帰ろうとすると、タミちゃんがかけよってきた。
「イッ子せんせいの言うこと、マにうけたんか」
タミちゃんは教室にのこっていたヒロ子をよんだ。
リブレバレイ教室にかよっているヒロ子は「あのことやね」と目くばせした。
「らいげつ、バレエきょうしつのはっぴょうかいがある。イッ子せんせいに招待券を二枚わたすねん」
タミちゃんはにやっとした。
「イッ子せんせいがクラタせんせいと見にきたら、友だちいじょうということがはっきりするやん」
つぎの日、
ヒロ子はイッ子せんせいにバレイの券を手わたした。券にかかれているプログラムは、
「しらゆき雪ひめ」
「まちがいじゃないの」
ヒロ子はフフフとわらった。
「見たらわかります。したしい人ときてください」
イッ子せんせいから「見に行く」の答えがかえってきたので、武史を中心にさくせんをねった。
一番前のまんなかの二つのせきを「予約席」にしてかくほ。そのりょうがわにユキちゃんとタミちゃん、男子はうしろのせきにじんどる。
「二人のようすがわかるはずや」
と武史。
はっぴょう会は市のホールでひらかれた。
「予約席」のはりがみをするのは勘太のやくめ。勘太はまっさきにホールにきて、せきに紙をおいた。
はりがみが何かのひょうしにおち、だれかが一つよこのせきにのせた。
とは勘太は知らない。
まくがあく少し前に、イッ子せんせいがやってきた。クラタせんせいといっしょだ。
イッ子せんせいはタミちゃんを見て、
「こんたん見え見え。だったらいっそのことと、クラタせんせいをさそったの」
二人が一番前のせきに行くと、二つの「予約席」がとなりあっていず、その間に一つのせきがある。
イッ子せんせいが「あら?」と小さくおどろいた。勘太が予約席のところにいくと、クラタせんせいが、
「勘太くんやね、たしか。ここにすわればいい」
と、間のせきに座らせた。
勘太がイッ子せんせいとクラタせんせいの間にわりこむかたちだ。
「こんなん、あきません」
と、せきを立としたとき、
「しらゆき雪ひめ」
がはじまった。
王女においだされて、森のなかで七人の小人とくらす白雪姫は、毒リンゴを食べてたおれる。そこに王子さまがとおりかかり、二人はむすばれる。
というおはなし。
リブレバレイきょうしつでは、白雪姫と王子さまは高校生くらいの子がえんじるのがならわし。ところが、ヒロ子がぐーんとじょうたつしたので、「小学生にも姫をやらせてみよう」ということになった。お姉さんは「白雪姫」、ヒロ子は「しらゆきひめ」だ。
一つのぶたいで「白雪姫」と「しらゆきひめ」が同時におどるのは、教室はじめって以来のこと。
(新しい時代になったんだわ)
イッ子せんせいの胸はきゅんとなっている。
ヒロ子のしらゆきひめがクルクルまいだした。
はなやかさでは、お姉さんの白雪姫にはとてもおよばないが、体いっぱいにつやつやとはねる。
いよいよ、おひめさんが王子さまとおどるクライマックス。というのに、テッちゃんは前にいる勘太の頭をこずいている。
「なんでせんせいの間にすわったんや」
イッ子せんせいはクスクスわらっている。

読切連載アカンタレ勘太 6《てつぼう先生》文・挿画 いの しゅうじ

てつぼう先生

テッちゃんは鉄棒に足をかけてぶらさがっている。
勘太から、鉄棒でクルクルまわるたいそう選手のことを聞いて、自分でもかいてんしてみようと思ったのだ。
隆三が「やめとけ」と鉄棒から引きずりおろした。
「教えてもらわんとムリや」
「教えてくれるとこあるんか」
「カブノしょうがっこうの子は、かいてんできるんやで」
カブノしょうがっこうは隆三の家から歩いて二十分くらいの山あいにある。
「もくげきしたんや」
隆三はむずかしい言葉をつかった。
さっそく、ていさつにむかった。隆三、テッちゃんに勘太、武史、裕三。いつものメンバーだ。
カブノしょうがっこうの鉄棒は、通りぞいにたっている。男のせんせいが見まわりにやってきた。ややまる顔、しゃきっとした青年きょうしというかんじ。
「あのう、鉄棒でぐるぐる回ると聞いたんですけど」
武史がせんせいにたずねると、
「きみたちはどこのがっこう?」
「オゼしょうがっこう、二年」
「宮井せんせいのクラス?」
「あ、そうです」
「イッ子せんせいってよんでるやろ」
「なんで知ってるんですか」
「まあな、ええ人やろ」
せんせいはこうていにのこっていた四人をよんだ。
「クラタてつぼうをやってくれ」
四人はさかあがりをして、鉄棒にはいあがる。オランウータンみたいに両手で棒をもつ。そして一番右の子から順に、後ろむきにくるっとまわる。頭をさげてさかさにぶらさがると、かいてんの勢いにのって前方にぴょーんととびはねる。
それは目もとまらぬ早わざだ。
勘太が目をラムネ玉みたいにして、ぼーっと見とれていると、
せんせいが、
「やってみる?」
と、ほほえみかける。
「さ、さかさになるの、ぼ、ぼくいやです」
もぞもぞした言い方がよほどおかしかったらしい。
「ひょっとして、きみが勘太くん?」
顔をのぞきこんで、
「あたり!」
ガハハとわらった。
せんせいは、みんながクラタてつぼうができるまで半年かかったという。
「小野せんしゅみたいなとくべつなせんしゅを育てるのもいいが、みんながやれることのほうがもっとだいじや」
勘太は、おねえさんが「小野せんしゅは金メダルがとれる」と言っていたのを思いだした。
カブノしょうがっこうからの帰り道。
「クラタせんせい、なんでぼくのなまえ知ってるんやろ」
勘太は首をかしげてもたもた歩く。
「イッ子せんせいと呼んでることも知ってはった」
と隆三。
「イッ子せんせいはええ人や、というてたなあ」
テッちゃんが夕やけ空を見あげた。目があかね色にそまっている。
よく日。
きゅうしょくがおわると、テッちゃんがイッ子せんせいのつくえの前にたった。
カブノしょうがっこうの鉄棒のことをはなし、
「クラタせんせいにあいました」
「え!」
「せんせいのこと、いい人と言うてました」
「……」
イッ子せんせいのほっぺが、いっしゅんぽっとあかくなった。

読切連載《アカンタレ勘太》5-2 作・画 いのしゅうじ

夏の思いで

夏の思い出

夏やすみもあと五日。
勘太はしゅくだいの「夏やすみのおもいで」の絵をまだいかいていない。あわてだした
画用紙とクレヨンをとりだし、頭にうかんだ順にまとまりもなくかきだした。
さいしょにながれ星。画用紙のいちばん上にかいた。その下にアラカンの白馬。保津峡でのキャンプをおもいだし、じょうき機関車をグレー色であらわす。川をえがこうとして、川なら天の川をにしようと考えなおす。いちばん白にカヤをかきいれた。
二学期がはじまり、みんながそれぞれの「夏やすみのおもいで」の絵をだした。海や山、花火、おばあちゃんの里。どれもこれも元気があふれている。 “読切連載《アカンタレ勘太》5-2 作・画 いのしゅうじ” の続きを読む