びえんと《五七五に託すハンセン病患者の叫び 下》Lapiz 編集長 井上脩身

民族差別との二重苦も

短歌、俳句、川柳を収録した『訴歌』の表紙

北條民雄は18歳の時に結婚したが、ハンセン病にかかったために離婚することになった。妻だった女性もハンセン病にかかって死亡したことを入院後に知る。北條のように夫婦共に感染して共に入院しているケースも少なくない。

【夫婦】

妻の肩借りて義足の試歩うれし

書く時の夫が字引になってくれ

冬支度指図するほど妻は癒え

病む妻を笑顔にさせた子の為替

亡妻の忌へ冬の苺の赤すぎる

立春の吹雪に妻の骨拾ふ

(妻に先立たれた夫はただただ切なく悲しい) “びえんと《五七五に託すハンセン病患者の叫び 下》Lapiz 編集長 井上脩身” の続きを読む

びえんと《五七五に託すハンセン病患者の叫び 上》Lapiz 編集長 井上脩身

~不条理な強制隔離政策のなかで~

北條民雄著『いのちの初夜』の表紙

11月末、映画『一人になる――医師小笠原登とハンセン病強制隔離政策』を見た。ハンセン病患者に対する強制隔離に反対しつづけた小笠原医師(1888~1970)の生涯を通して、らい予防法が引き起こした差別と偏見を訴える映画である。私はたまたまハンセン病患者たちの苦しみや怒りを詠んだ短歌、俳句、川柳を収録した『訴歌』に目を通していた。さらに偶然ながら、ハンセン病患者であった作家、北條民雄の代表作『いのちの初夜』を読み終えたばかりであった。この小説は、主人公がハンセン病療養所に隔離された最初の日を書き表した作品だ。2001年、熊本地裁は、ハンセン病歴者は国の隔離政策の被害者であると認定、さらに患者の家族についても同地裁は2016年、人格権が侵害されたと判示した。だが、病苦者への差別・偏見は今なお根強い。『訴歌』のなかの川柳を通して、ハンセン病患者の思いに迫りたい。 “びえんと《五七五に託すハンセン病患者の叫び 上》Lapiz 編集長 井上脩身” の続きを読む

2021冬号Vol.40《巻頭言》Lapiz編集長 井上脩身

Lapiz2021Vol.40

最近、知り合いの70代の女性から意外な身の上話を聞きました。彼女の長女が高校1年生のとき、叔父夫婦から「息子のいいなずけになってほしい」との申し入れがあったというのです。1970年代半ばのことです。戦後30年がたってもまだ「いいなずけ」という風習が根をはっていたのか、と驚きました。彼女は「娘にだって結婚相手を決める権利があると思う」と断りました。断るのは当然ですが、「娘にだって」の言葉に私は引っかかりました。そして気づきました。秋篠宮家の長女眞子さんと小室圭さんとの結婚に対する多くの国民の思いは「眞子さんにも相手を選ぶ権利がある」ではないか、と。意識するとしないにかかわらず、「眞子さん以外にも選ぶ権利がある」との考えがこもっているように思えるのです。 “2021冬号Vol.40《巻頭言》Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む

びえんと《夫婦別姓拒否論にみる戦前回帰主義》Lapiz編集長 井上脩身

びえんと①合憲 最高裁の合憲判断に抗議の声をあげる申立人(ウィキベテアより)

選択的夫婦別姓の制度化を求める声が高まるなか、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は6月23日、別姓を認めない民法の規定を合憲とする決定をした。この3カ月余り前、「同性同士の法律婚を認めないのは違憲」とした札幌地裁の画期歴な判断との余りのギャップに私は愕然とした。札幌地裁は憲法が規定する「法の下の平等」を直視したのに対し、最高裁は我が国に今なお根強い「男性優位の婚姻」という現状を重視したのである。憲法が公布されて75年になる今、法の番人である最高裁が憲法を軽んじる判断をしたという事実を深刻に受け止めねばならない。それは戦前の明治憲法体制への回帰を、最高裁が黙認したことになるからである。 “びえんと《夫婦別姓拒否論にみる戦前回帰主義》Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む

《Vol. 39 巻頭言》 Lapiz 編集長 井上脩身

冒頭から個人的なことで恐縮ですが、私はいま、源頼光(948~1021年)の「大江山の鬼退治」のことを調べています。渡辺綱ら頼光四天王を引き連れ、大江山で鬼を退治したという説話は、やさしい読み物として子どもたちに読みつがれてきました。山奥から都にでてきて、若い女性をさらうなどの悪事をはたらく鬼どもをやっつける武者たち。剣をふるっての縦横無尽の活躍に、子どものころの私は胸を躍らせました。 “《Vol. 39 巻頭言》 Lapiz 編集長 井上脩身” の続きを読む

びえんと《コロナ禍の医療崩壊》Lapiz編集長 井上脩身

~命の危機にさらされる国民~

本田宏著『日本の医療崩壊をくい止める』(泉町書房)の表紙

憲法記念日の5月3日、新聞に意見広告が掲載された。市民の意見30の会・東京による全面広告で「武力で暮らしは守れない!」の大見出しがつけられている。意見は4項目あり、そのうちの「生存権を脅かすな」のなかの「感染症病床が1998年9060床から2020年1869床へと激減」との記述に目が留まった。この意見広告が出たとき、我が国は新型コロナウイルス第4波の渦中にあり、東京都、大阪府、京都府、兵庫県で緊急事態宣言が発令中であった。なかでも大阪府では重症患者が重症病棟のある病院に収容されないという医療崩壊が始まっていた。兵庫県でも入院待ちの感染者が自宅で死亡するなど深刻な事態に陥り、東京都でも医療逼迫が差し迫っていた。欧米に比べ感染者が桁違いに少ない日本での医療後発国現象である。その原因が、意見広告がいうように感染所病床の減少であるならば、病床削減政策をとった政治責任は重大である。 “びえんと《コロナ禍の医療崩壊》Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む

Lapiz2021夏号 Vol.38《巻頭言》Lapiz編集長 井上脩身

浦島充佳著『新型コロナ データで迫るその姿』(化学同人)の表紙

感染症や疫学が専門の医師、浦島充佳さんの近著、『新型コロナ データで迫るその姿』(化学同人)を読んでいて、懐かしい言葉に出合いました。「ネアンデルタール人」。中学生のころ、旧人類の一つとして習ったように記憶しています。現在は旧人に分類されているそうです。そのネアンデルタール人のもつ遺伝子が新型コロナの重症化と強い相関があると浦島さんはいいます。ネアンデルタール人は3、4万年前に絶滅したとされています。ところがその遺伝子が21世紀の感染症と大いに関係ある、と語るのがほかならぬ浦島という名字の研究者ですから不思議な因縁をおぼえます。コロナ問題は人類が古代から抱えていたのかもしれません。 “Lapiz2021夏号 Vol.38《巻頭言》Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む

Lapiz 2021春号《巻頭言》井上脩身編集長

ジョン・ウェインもびっくりトランプ西部劇

大統領選の投票の際、銃で武装するトランプ支持者 (ウィキペディアより)

私が所属している川柳の同好会の昨年11月の句会に投句した拙作です。11月3日に行われたアメリカ大統領選の投票に際し、バイデン支持者を威嚇しようと、熱狂的トランプファンが投票所周辺で銃を構えていました。その様子を伝えるテレビを見て、「まるで西部劇」と19世紀的現実に目を丸くしました。川柳らしくするためにジョン・ウェインを引っ張り出したところ、先生は「おもしろい」と入選作にしてくれました。 “Lapiz 2021春号《巻頭言》井上脩身編集長” の続きを読む