巻頭言 Lapiz編集長 井上脩身

 森友問題
佐川理財局長(パワハラ官僚)の強硬な国会対応がこれほど
社会問題を招き、それに指示NO、を誰れもいわない理財局の体質はコンプライアンスなど全くないこれが財務官僚王国最後は下部がしっぽを切られる。世の中だ、手がふるえる、恐い命 大切な命 終止府

森友事件にからむ公文書改ざん事件の渦中となった財務省近畿財務局の職員で、2018年3月に命を絶った赤木俊夫氏が、死の直前に走り書きしたメモ(原文のまま)です。

故赤木俊夫氏の手記(「週刊文春」3月26日号より)

「週刊文春」の3月26日号に衝撃的な記事が掲載されました。赤木氏が遺書として残した「手記」の全文が掲載されたのです。この手記を赤木氏の妻から託された大阪日日新聞記者(元NHK大阪放送局報道部記者)の相澤冬樹氏が、経過説明や感想を交えて、報告しました。
その冒頭に掲げられているのが、上記のメモです。私は「最後は下部がしっぽを切られる」の一言に、松本清張の初期の代表作『点と線』を思い出しました。
物語は××省の課長補佐佐山憲一が福岡市の海岸で女性と心中のような形で死んでいるのが見つかったことから始まる。××省は今、汚職問題で新聞をにぎわしており、佐山が所属する課はその渦中にあった。すでに同僚の課長補佐が警視庁捜査2課に逮捕されている。 佐山はその課の優秀な実務者。汚職事件の鍵であった。その佐山の死は自殺でなく、××省出入り業者の安田による殺人の疑いが強まる。安田のアリバイ工作に佐山の上司の石田部長が加担していることが判明。安田は捜査の手が迫ったことを知り、自殺する。
というのが粗筋です。石田部長は汚職の中心人物。佐山は、自分の供述で石田に迷惑がかかることを恐れ、「休暇をとって博多に逃避せよ」との命令に従います。その博多で、ウィスキーに毒をもられたのでした。「(佐山の死は)部長を安泰ならしめました。ひとり石田部長のみでなく、安堵の胸を撫でおろした佐山の上役はずいぶん多いでしょう」と、清張は、捜査2課刑事の手紙の形で、保身の塊である幹部官僚の残酷さを告発したのです。
石田部長は、汚職問題で他部に異動。その新しい部は前よりポストがよく、局長、次官の可能性が浮上。清張は小説のしめくくりで、「かわいそうなのは、その(石田部長)下で忠勤にはげんで踏台にされた下僚ども」と、命令のもと、汚職に手を染めさせられた下端役人に深い同情の念を表しています。
『点と線』は1957年2月から58年1月まで雑誌『旅』に連載された、推理小説としては清張の処女長編。後に単行本として刊行されました。高校1年のとき、先生が「とかげのしっぽ切りの物語」というので読んでみました。ストーリーはほとんど覚えていなかったのですが、先生の「しっぽ切り」の言葉が強く記憶に残っていたので、今回の文春の記事をみて、読み返しました。

話を文春の記事そのものに戻します。
大阪府豊中市に小学校建設予定の森友学園に国有地を払い下げるに当たって、財務省近畿財務局が8億円も不当に値引いたことが大きな問題になりました。財務省の佐川宣寿理財局長の指示で、近畿財務局の職員が森友学園との交渉記録などの公文書を改ざんしたことが報道などで明るみになり、その改ざんに手を染めさせられた赤木さんが自殺をしたのです。
自殺にみせかけた殺人だったことを除くと、公文書改ざん事件の基本構造は、『点と線』の汚職事件とうりふたつです。赤木さんは佐山課長補佐、佐川局長は安田部長に当たります。不正行為を命じた佐川局長は国税庁長官(その後辞任)に栄転しました。安田部長は「証拠がない」として逃げおおせたように、佐川局長について大阪地検が不起訴とし、刑事責任が問われなくなりました。
相澤氏の報告によると、赤木さんは2017年4月に会計検査院の特別検査が行われたころから元気をなくし、7月から病気で休暇。12月に検事から電話で事情聴取されたのをきっかけに病状が悪化。「ぼくが何をいっても無理や。本省の指示なのに最終的に自分のせいにされる。ぼくは犯罪者や」と妻に訴えるようになりました。
赤木氏の深い悩みの元が佐川局長の指示であることは言うまでもありません。思い余っての自殺ですが、実態は「殺された」のです。夫の死後、「財務省で働きませんか」と持ちかけられた赤木さんの妻は、「佐川さんの秘書にしてくれるなら、いいですよ。お茶に毒を盛りますから」と答えたそうです。『点と線』で佐山課長補佐が毒を盛られた場面を思い起こし、怨念がこもったジョークに胸がつまりました。
清張は『点と線』の中で、刑事に「役所というものはふしぎなところ」と言わせています。すでに触れたように、この小説を私が読んだ1960年は、池田勇人首相が「所得倍増計画」を掲げ、高度経済成長期路線を突っ走るスタートの年でした。それから60年、安倍晋三首相は「アベノミクス」という実態のない言葉で、経済成長の夢をふりまいています。その安倍政権下の公文書改ざん事件です。清張がいう「ふしぎなやくしょ」である官僚機構は、今や、いかなる不正もやりたい放題の安倍首相のための「魑魅魍魎世界」になり下がっているように思えます。
本号では、「編集長が行く」シリーズの一環として、赤木氏の手記を取り上げ、森友事件の本質にも迫ってみました。

井上脩身 (いのうえ おさみ)1944 年、大阪府生まれ。70 年、毎日新聞社入社、鳥取支局、奈良支局、大阪本社社会部。徳島支局長、文化事業部長を経て、財団法人毎日書道会関西支部長。2010年、同会退職。現LAPIZ編集長