連載 のん太とコイナ《3 滝のぼり》いのしゅうじ 


 春めいてきたある朝、コイナがのん太をたずねてきました。
「滝のぼり祭りがあるの。行ってみない」
コイナの里の春をつげる行事だというのです。
「冬の間にこおった滝がとけるでしょ。はげしく流れおちる水にさからい、競いあってのぼるの

「それがなんで祭りなんだ?

「一番になった選手を中心に、みんなでおどるの。滝おどりっていうのよ。盆おどりみたいなものね」
「おもしろそうだ。行く。みどりもさそわなきゃ」
みどりはコイナが来ていると知って、パッと飛び起きました。
のん太とみどりは、去年の盆おどりのときにお母さんがぬってくれたゆかたをまとい、コイナの背にまたがりました。
山の急な斜面にポツンポツンと家々がたっているコイナの里。その手前に滝が見えました。
コイナは上空をゆっくりすすみます。のん太が見たこともない、おどろくほど大きな滝です。


 滝の上空でコイナが滝のぼりの伝説を語りました。
四百数十年前、戦国時代といわれていたころ。烏弱??(からす・やわきち)という武将が兵をあげました。兵隊たちは火縄銃を手に、こいのぼりの里に押しよせてきました。
そのとき、コイナの何代も前のこいのぼり夫婦・コイモトとコイカが滝の下でおよいでいました。
烏弱??が「こいのぼりを撃て」と兵隊に命じました。
火縄銃からタマがビュンビュンとんできます。川を下ろうとすると、そこにもタマがおちてきます。滝をのぼるしかありません。
まだ春さき。水は切るような冷たさ。コイモトとコイカはひっしに滝をのぼりました。少し上がっても、猛スピードでおちてくる水にまけ、ずるずると滑りおちます。
こんなことをくり返し、ついに滝の上にあがりきり、逃げることができました。
「それから、滝のぼり祭りをするようになったの」
コイナはそう言って、胸をはりました。


「四百年以上の歴史があるなんて、すごいことじゃないか」
のん太は二年前に京都で見た祇園祭を思いだしていました。
「山ぼこはあるの?」
「山ぼこ? あ、祇園祭のことね。そんな立派なのはなにもないけど、わたしたちには誇りがあるわ

「さっき、一番になった者を中心におどるって言ったね。一番になるのは大変な名誉なんだ」
「そおよ。コイキチが滝のぼり競争に出るの」
コイキチは、「出る」と宣言したのはいいけど、実はカナヅチ。川で泳がせてみると、ブクブクとしずみます。お父さんは「滝のぼりなんてムリ」と頭をかかえました。
「魚のコイは滝のぼりができるのだから、コイキチだってきるはず。そう考えて、弟をコイの町に連れて行ったの」
コイの町のコイたちは、手本を示しながら、ていねいにコイキチを指導してくれました。
コイキチはけんめいにがんばりました。二週間ほどすると、滝にのぼれるようになりました。(明日に続く)