連載コラム・日本の島できごと事典 その75《旧統一教会》渡辺幸重

雑誌『海洋真時代』に掲載された当初の「石巻田代島世界海洋村構想」

安倍元首相銃撃事件をきっかけに政治家と旧統一教会(旧・世界基督教統一神霊協会/現・世界平和統一家庭連合)の関係が問題になっています。旧統一教会は“宗教活動(カルト活動)”だけでなく、政治や経済、言論・報道、学術、ボランティアなどあらゆる分野で活動する団体・企業を作っており、その数は膨大です。教団の目的は、政治家を使って統一教会を日本の国教にしたり、世界各国の政治を動かすことだそうです。日本は霊感商法や高額献金、集団結婚式などで巨額の金を収奪する国とされていることもわかりました。2011年の東日本大震災のときには多くの旧統一教会ボランティアが被災地に入りました。統率がとれ、黙々と働くボランティア高く評価され、被災者の中には「津波で亡くなった夫の霊が霊界で苦しんでいる」と信じ込まされて高額献金を繰り返した人もいるそうです。福島第一原発事故の補償金を献金した被害例もありました。ここでは、旧統一教会関連の企業・団体によって宮城県石巻市の田代島(たしろじま)に復興プロジェクトとして持ち込まれた「海洋レジャー基地による地域起こし」の例を紹介します。

 東日本大震災後、田代島にNPO法人「石巻・田代島しまおこし隊」が結成され、カフェやレストラン、宿泊施設、研修施設などを建設し、海洋レジャーや自然体験学習プログラムなどを行う「海洋学習ヴィレッジ・WAQUA(ワクア)田代島プロジェクト」の取り組みが始まりました。20173月にはクラウドファンディングで2568,000円を集め、古民家カフェを建てています。この計画の元になる構想は、大震災時の米軍の救援活動「フレンドシップ作戦」を参考に災害支援艦&大型観光船を松島沖に浮かべ、水上ホテル・海中展望台・商業施設などを含む「海洋村(マリン基地)計画」および「菜園付きエコハウス住宅計画」を田代島に建設しようという大規模な開発計画で、それを紹介した雑誌『海洋真時代』には「世界の釣り人のメッカ」「東北震災復興のモデル地域」にすると書かれています。ところが、しまおこし隊の役員には旧統一教会関連企業である(株)海洋平和の佐藤健雄CEOと信者で石巻市在住のSさんが含まれていました。Sさんは自宅跡地を津波で流された被災者の一人で、自宅跡地を海洋平和の石巻ボート製造工場用地として提供しています。WAQUA田代島プロジェクトは、海洋平和の株主総会や関連イベントで紹介され、雑誌『海洋真時代』でも頻繁に取り上げられています。しまおこし隊と旧統一教会関連企業との繋がりは2017年4月、カルト教団の取材を続けるジャーナリスト・鈴木エイト氏が週刊朝日に掲載した記事『人口54人の猫島が大激震 旧統一教会関連団体の上陸と「ヒゲの隊長」佐藤正久参院議員』によって明らかになりました。そして、201712月に開かれた住民説明会では「島を乗っ取られる」という島民の危機感から「しまおこし隊の活動を一切認めない」という結論になったのです。鈴木氏の記事には、佐藤参議院議員が海洋平和の佐藤健雄CEOの甥であり、海洋平和の株主総会などで何回も講演を行ったことなど、旧統一教会と政治家の癒着があることも指摘しています。

しまおこし隊は説明会後も活動を続けているようですが、新型コロナウイルスの感染問題もあって取り組みは進んでいません。いずれにしても田代島がカルト的な宗教団体に乗っ取られることは回避されたようです。