編集長が行く 広島県竹原市・大久野島

毒ガスの島の廃虚尋ねる
~地図から消えた「もう一つの広島」~

文・写真 Lapiz編集長 井上脩身

小さな書店の片隅の壁に「大久野島の歴史展」の宣伝チラシが張られていた。「もうひとつの広島」の副題がついている。主催は「毒ガス島歴史研究所」。今年1月4日から7日まで旧日本銀行広島支店で開催とある。50年前、私が新聞社に入社して配属された支局に赴任したとき、いきなり支局長が語った言葉を思い出した。前任地の呉支局で「大久野島での毒ガス製造をスクープした」というのだ。私はたまたま今年初めに尾道に旅をする計画を立てていた。予定を変更して大久野島の「もうひとつの広島」を訪ねた。 “編集長が行く 広島県竹原市・大久野島” の続きを読む

奥の細道むすびの地「美濃路・大垣宿」井上脩身

~水運の町で芭蕉のあわれを思う~

 松尾芭蕉の不朽の名作『奥の細道』。そのスタートは芭蕉が庵をむすんだ江戸・深川であることは無学な私でも知っていた。奥州から日本海沿いに敦賀まで行ったことも知っていた。そしてその最後は大坂だと思い込んでいた。高校時代、大坂で「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」という最後の句を詠んだと習ったからだ。敦賀からなら琵琶湖沿いに京、大坂に行けるという地理感覚もあって、まことに恥ずかしい話だが、全く疑問をもたなかった。あるとき、JR大垣駅に止まった電車の車窓から「奥の細道むすびの地」の看板が目に留まった。大垣が『奥の細道』の最後の地というのだ。これはいったいどういうことだろう。調べてみると、大垣は江戸時代、美濃路の宿場だった。芭蕉は大垣宿で何をおもったのだろう。冬のある日、岐阜県大垣市を訪ねた。写真:大垣城 “奥の細道むすびの地「美濃路・大垣宿」井上脩身” の続きを読む

読切り連載「アカンタレ勘太<4>」いのしゅうじ

空飛ぶ円盤

勘太は二年生になった。

一学期の始業式のとき、イッ子せんせいが、
「あしたから完全給食がはじまります」
一年生の三学期に給食の日があったので、みんな給食のことはしっている。そのときはコッペパンとミルクだけ。おかずはなかった。
「おかずもつくのよ」
「おかずはうれしいけど、ミルクはいやや」
ユキちゃんは口もとをゆがめた。
イッ子せんせいは黒板に「脱脂粉乳」とかいて、
「だっしふんにゅう。今はしかたがないの」
と、しょぼんと言った。 “読切り連載「アカンタレ勘太<4>」いのしゅうじ” の続きを読む

Lapiz2019冬号《編集長が行く》井上脩身編集長

京アニ放火殺人事件現場で犯人像に思いをめぐらす

今年7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件の犯行の動機はいまなお定かでない。41歳の容疑者の男性は大きな火傷を負っていて警察の取り調べができていないからだ。だが、その人物像はうすぼんやりではあるが、浮き上がりつつある。京アニ事件が発生したころ、私は関西のある集合住宅で暮らしていた。隣室の40前後の男性が真夜中に物音をたてるので、いつも寝不足だった。近所迷惑なその行動は京アニ事件の容疑者とよく似ており、同事件は他人事と思えなくなった。隣家の男性は私に恨みをいだいていたフシがある。京アニ事件の容疑者は京アニへの恨みをはらそうとしたのだろうか。9月半ば、京都市の事件現場をたずねた。 “Lapiz2019冬号《編集長が行く》井上脩身編集長” の続きを読む

Lapiz2019冬号《巻頭言》井上脩身編集長

 新聞の2段の記事に目が留まりました。見出しは「関電幹部らを告発へ」とあります。記事は、関西電力役員らの金品受領問題で、福井と関西の住民でつくる市民グループ「関電の原発マネー不正還流を告発する会」が、「金品の受け取りは会社法の収賄や特別背任に当たる」として、八木誠前会長ら20人を大阪地検に告発すると表明した(10月25日付毎日新聞)というものです。12月上旬にも告発状の提出を予定しているといいます。告発がなされた場合、検察が起訴に踏み切るかどうかが焦点になるでしょう。

この記事にいう「関電金品受領問題」というのは、9月27日付の同紙で、共同通信の取材として特報されたものです。同日、関電は大阪市の本社で緊急記者会見を開き、岩根茂社長が「関係者に多大の心配と迷惑をかけた」と頭を下げたうえで、高浜原発がある福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(今年3月死去)から役員ら20人が計3億2000万円相当を受け取っていたことを認めました。 “Lapiz2019冬号《巻頭言》井上脩身編集長” の続きを読む