Lapiz2019冬号《東海道・草津宿》井上脩身編集長

和宮の輿が華やかに~3万人の降嫁の列~

10月上旬、京都駅からJR琵琶湖線の電車に乗って彦根方面に向かった。草津あたりで左の窓から比叡山がくっきり見えた。草津から先に行くにしたがって比叡山が遠ざかり、比良山が車窓の景観を占める。ということは、草津はいわば京都の見納めの地ということだ。草津は江戸時代、東海道と中山道の分岐点の宿場として栄えた。京から江戸に下る旅人は、いずれの経路をとるにせよ、草津で比叡山を見つめて都での雅やかな日々を思いめぐらし、これからの長い旅路への不安に心がふさがれるおもいだっただろう。と考えていて、ふと和宮が頭に浮かんだ。第十四代将軍・徳川家茂の御台所になった和宮である。島崎藤村の『夜明け前』に、将軍家に降嫁する和宮一行が馬籠宿を通る様子がえがかれている。和宮は草津から中山道に進んだのだ。和宮は草津で比叡山を見て何を思ったのだろう。私は有吉佐和子の『和宮様御留』(講談社)のページを繰った。 “Lapiz2019冬号《東海道・草津宿》井上脩身編集長” の続きを読む