Lapiz2019冬号《巻頭言》井上脩身編集長

 新聞の2段の記事に目が留まりました。見出しは「関電幹部らを告発へ」とあります。記事は、関西電力役員らの金品受領問題で、福井と関西の住民でつくる市民グループ「関電の原発マネー不正還流を告発する会」が、「金品の受け取りは会社法の収賄や特別背任に当たる」として、八木誠前会長ら20人を大阪地検に告発すると表明した(10月25日付毎日新聞)というものです。12月上旬にも告発状の提出を予定しているといいます。告発がなされた場合、検察が起訴に踏み切るかどうかが焦点になるでしょう。

この記事にいう「関電金品受領問題」というのは、9月27日付の同紙で、共同通信の取材として特報されたものです。同日、関電は大阪市の本社で緊急記者会見を開き、岩根茂社長が「関係者に多大の心配と迷惑をかけた」と頭を下げたうえで、高浜原発がある福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(今年3月死去)から役員ら20人が計3億2000万円相当を受け取っていたことを認めました。 “Lapiz2019冬号《巻頭言》井上脩身編集長” の続きを読む

書評《日本は個性ある文化と関連性を持つ島々の連なりである》渡辺幸重

-『日本ネシア論』を深読みする-

101人の筆者が480ページをかけて島嶼世界を書き上げた『日本ネシア論』(別冊環㉕、藤原書店、税別4.200円)が刊行された。本書では「ネシアは島の大きな集合体」とし、「日本ネシアは、国としての政治的一体性の内部に、多様性・異質性を抱えつつも、島アイデンティティを重要な一部として共有している集合体である」と説明している。私なりに言い換えると「“ネシア”とは、それぞれを対等な地域の連なりとして島々及び周辺地域を捉える概念」であり、「ポリネシアやミクロネシア、メラネシア、ニューギニア、ボルネオ、フィリピンから琉球列島を含む日本列島、千島列島という環太平洋の島の連なりおよび島と関連のある大陸地域を考えるとき、新しい文明観や価値観が提案される」と期待している。本書はそのための貴重な情報を与えてくれるだろう。

構成は、総論に続いて、日本の島々を先島ネシア・ウチナーネシア・小笠原ネシア・奄美ネシア・トカラネシア・黒潮太平洋ネシア・薩南ネシア・西九州ネシア・瀬戸内ネシア・日本海ネシア・北ネシアに分類し、歴史や文化、民俗、社会制度、宗教、交流、自然など多岐にわたる視点から島嶼社会を論じている(番外遍として「済州島海政学」の項がある)。
ここでは個別に取り上げる余裕はないので、総論および「おわりに」を読みながら島嶼社会の可能性と“危うさ”について考えてみたい。 “書評《日本は個性ある文化と関連性を持つ島々の連なりである》渡辺幸重” の続きを読む