連載コラム・日本の島できごと事典 その89《オオコウモリの島》渡辺幸重

エラブオオコウモリ(鹿児島県教育委員会)

実家の裏山に防空壕跡があり、その洞穴の中には小さなコウモリが棲んでいました。コウモリは鳥かごから抜け出るくらいの大きさしかいないと思っていたらカラスと同じくらいの大きさのオオコウモリがいると聞き、無性に見たくなりました。世界のオオコウモリ類の生息北限地とされる口之永良部島に行きましたが、頭胴長が約25cmあるというエラブオオコウモリに遭遇することはありませんでした。小笠原諸島や沖縄島、石垣島でもオオコウモリの姿を見ることができず、私はいまでも“あこがれのオオコウモリ”を追い求めています。
オオコウモリは大きく分けると日本には琉球弧(南西諸島)に棲むクビワオオコウモリと小笠原諸島に棲むオガサワラオオコウモリの2種が存在します。そのうちクビワオオコウモリには口永良部島やトカラ列島(宝島、中之島、平島、悪石島)に棲むエラブオオコウモリ、北大東島・南大東島に棲むダイトウオオコウモリ、沖縄島とその周辺の島嶼に棲むオリイオオコウモリ、先島諸島(宮古列島、八重山列島)に棲むヤエヤマオオコウモリという亜種があります。エラブオオコウモリは屋久島で、オリイオオコウモリは阿嘉島、伊江島、伊計島、伊是名島、奥武島(名護市および南城市)、沖永良部島、久高島、古宇利島、瀬底島、瀬長島、津堅島、浜比嘉島、平安座島、宮城島、水納島、屋我地島、藪地島、与論島の19島(1994-2006年調査)での報告例がありますが、生息数が少ないことなどから口之永良部島や沖縄島から一時的に飛来した可能性も含まれます。また、オガサワラオオコウモリは小笠原諸島全体に200~300頭程度が生息していると考えられています。母島と硫黄島には数頭程度、北硫黄島には数十頭しかいないと推定され、これらの島での絶滅が心配されます。なお、オガサワラオオコウモリ、エラブオオコウモリ、ダイトウオオコウモリは国の天然記念物に指定されています。
ほかにも日本には絶滅したオオコウモリがいたといわれています。それは沖縄島に棲んでいたといわれるオキナワオオコウモリです。19世紀に沖縄島で3、4頭が採取されたのみとされ、大英自然史博物館に2頭の標本が所蔵されています。1987(昭和62)年にはワシントン条約附属書Ⅱに、1990(平成2)年にはワシントン条約附属書Ⅰに掲載されていますが、現在では沖縄県レッドリストなどで「絶滅」と判定されています。一方、オキナワオオコウモリは沖縄に生息していなかったという説もあります。イギリスにある標本は東南アジアに生息するマリアナオオコウモリではないか、というのです。
オキナワオオコウモリが実在したとすると、日本のオオコウモリはクビワオオコウモリ、オガサワラオオコウモリ、オキナワオオコウモリの3種となります。