連載コラム・日本の島できごと事典 その105《風の子学園事件》渡辺幸重

コンテナ解体を前に手を合わせる作業員(毎日新聞より)

広島県三原港の南東約4kmに浮かぶ小佐木島(こさぎしま)は周囲4kmほどの小さな島です。昭和30年代には人口140人を数えたものの最近はわずか5人(2020年国勢調査)と過疎化が進んでいます。1991(平成3)年7月末、この島にあった民間の情緒障害児更生施設「風の子学園」で14歳の少年と16歳の少女がコンテナに監禁されて“熱射病(現在は熱中症)”で死亡するという事件が起きました。事件から32年経った今年(2023年)6月、地権者と連絡が付かなかったためにとり残されていたコンテナが住民の要望によりやっと撤去されました。この報道に接した人は、いまでもときどき報じられる子供に対する虐待や放置の問題を考えさせられたのではないでしょうか。

風の子学園は、島外の人が学園長となって1989(昭和64)年に小佐木島に開設されました。不登校や問題行動をする児童・生徒の更生を目的とする宿泊型施設で、親元を離れ、自然に囲まれた環境のなかで座禅をしたり、馬などの動物を飼育する体験活動を行っていたということです。事件は、喫煙した少年少女が懲罰として手錠をかけられ、鉄製の貨物コンテナ内に監禁されて起きました。コンテナは窓もなく、内部は炎天下に40度以上の高温に達していたのです。少年少女はその中に44時間監禁され、脱水状態に陥って亡くなりました。事件後、学園は閉鎖されましたが、学園長の男性(当時67歳)は監禁致死罪で起訴され、懲役5年の有罪判決が下されました。
学園長は以前にも東能美島(旧・広島県佐伯郡大柿町)でカッター訓練などによって青少年を更生させる施設を経営したことがあり、そこでも暴力行為が行われていたと言われます。
被害者の少年は姫路市の中学3年生で、非行グループに属していたことから学校の生徒指導教諭や市教育委員会の指導主事が両親を説得して入園させたそうです。学園は少年に対して指導・教育を行うことはなく、脱走を図ったり、喫煙したりするので懲罰と脱走防止のために繰り返しコンテナや飼料小屋に監禁していました。少年の遺族は学園長と姫路市を相手に損害賠償を求める民事訴訟を起こしました。その結果、施設の実態を調べずに紹介した姫路市教育委員会にも法的責任があるとして姫路市にも損害賠償を命じる判決が確定しました。

風の子学園事件の前後には、戸塚ヨットスクール事件(1982年、愛知県)、不動塾事件(1987年、埼玉県)、恩寵園事件(1995年、千葉県)、丹波ナチュラルスクール暴力・虐待事件(2008年、京都府)、北九州児童養護施設虐待事件(2018年前後、福岡県)などの児童・青少年に対する虐待・暴行事件が起きています。