Lapiz2023夏号

Lapiz2023夏号はこれで掲載を終わります。ご購読ありがとうございました。
次号は2023年9月1日から秋号を掲載予定です。
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連載コラム・日本の島できごと事典 その105《風の子学園事件》渡辺幸重

コンテナ解体を前に手を合わせる作業員(毎日新聞より)

広島県三原港の南東約4kmに浮かぶ小佐木島(こさぎしま)は周囲4kmほどの小さな島です。昭和30年代には人口140人を数えたものの最近はわずか5人(2020年国勢調査)と過疎化が進んでいます。1991(平成3)年7月末、この島にあった民間の情緒障害児更生施設「風の子学園」で14歳の少年と16歳の少女がコンテナに監禁されて“熱射病(現在は熱中症)”で死亡するという事件が起きました。事件から32年経った今年(2023年)6月、地権者と連絡が付かなかったためにとり残されていたコンテナが住民の要望によりやっと撤去されました。この報道に接した人は、いまでもときどき報じられる子供に対する虐待や放置の問題を考えさせられたのではないでしょうか。

風の子学園は、島外の人が学園長となって1989(昭和64)年に小佐木島に開設されました。不登校や問題行動をする児童・生徒の更生を目的とする宿泊型施設で、親元を離れ、自然に囲まれた環境のなかで座禅をしたり、馬などの動物を飼育する体験活動を行っていたということです。事件は、喫煙した少年少女が懲罰として手錠をかけられ、鉄製の貨物コンテナ内に監禁されて起きました。コンテナは窓もなく、内部は炎天下に40度以上の高温に達していたのです。少年少女はその中に44時間監禁され、脱水状態に陥って亡くなりました。事件後、学園は閉鎖されましたが、学園長の男性(当時67歳)は監禁致死罪で起訴され、懲役5年の有罪判決が下されました。
学園長は以前にも東能美島(旧・広島県佐伯郡大柿町)でカッター訓練などによって青少年を更生させる施設を経営したことがあり、そこでも暴力行為が行われていたと言われます。
被害者の少年は姫路市の中学3年生で、非行グループに属していたことから学校の生徒指導教諭や市教育委員会の指導主事が両親を説得して入園させたそうです。学園は少年に対して指導・教育を行うことはなく、脱走を図ったり、喫煙したりするので懲罰と脱走防止のために繰り返しコンテナや飼料小屋に監禁していました。少年の遺族は学園長と姫路市を相手に損害賠償を求める民事訴訟を起こしました。その結果、施設の実態を調べずに紹介した姫路市教育委員会にも法的責任があるとして姫路市にも損害賠償を命じる判決が確定しました。

風の子学園事件の前後には、戸塚ヨットスクール事件(1982年、愛知県)、不動塾事件(1987年、埼玉県)、恩寵園事件(1995年、千葉県)、丹波ナチュラルスクール暴力・虐待事件(2008年、京都府)、北九州児童養護施設虐待事件(2018年前後、福岡県)などの児童・青少年に対する虐待・暴行事件が起きています。

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#1~#10》文・画 いのしゅうじ

1)ここはアカダ川のていぼう。男の子が寝そべっています。
男の子はのん太、小学四年生。ほんとうの名前は則夫。
のん太は学校でいやなことがあると、通学路のアカダ川の橋からていぼうに下り、あおむけになってぼおっと空をながめます。そうしてると、学校でのことを忘れられるのです。
のん太を見て、だれかが「のんびりのん太」とからかいました。それからは、友だちだけでなく、お父さんまで「のん太」とあだ名で呼ぶようになりました。
その父さんのお気に入りはアカダ高校のタイコえんそう。「高校生ばなれのうで」といいます。
こどもの日、アカダ川では毎年「こいのぼりフェスタ」が開かれます。
フェスタの一番の呼びものはアカダ高校のタイコえんそう。
なので、お父さん、お母さん、妹の一家四人で、河原でお弁当を広げるのが、のん太の家のこども日のならわしです。
今年も、家族でフェスタに行きました。千びきのこいのぼりが、気もちよさそうに泳いでいます。 “連載童話《のん太とコイナ[天の川]#1~#10》文・画 いのしゅうじ” の続きを読む

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#10》文・画 いのしゅうじ

嵐は、夜明け前にはすっかりおさまりました。
かわって空一面に星がきらめいています。
「見てごらん、天の川だよ」
のん太がおばあさんの指さす方に目を向けると、白っぽい帯がくねりながら、天空をつらぬいています。
たなばたの日、織姫と彦星が天の川をはさんで会う、とのん太は聞いたことがあります。
「ぼく、ほんものを見るのはじめて」
「人間はバカだよ。電気であかあかと夜を照らして、天の川を見えなくしたんだから」
日がのぼると天の川は見えなくなります。
おばあさんは、
「のん太くんをつれて帰るのは今のうちだよ」
とコイナをうながしました。
コイナはのん太をおなかに乗せて、天の川をわたるようにすすんでいきます。
「わかった。コイナちゃんは川は川でも天の川を泳ぐんだ」
コイナはこっくりとうなずきました。(おしまい)

連載童話《のん太とコイナ[天の川]♯9》文・画 いのしゅうじ

 のん太が焼きイワナをかじっていると、おばあさんが、
「吹き流しがさわぎだした」

とつぶやきました。
小屋の裏に吹き流しがかけられています。のん太が外に出てみると、そのしっぽがゆらゆらしています。
「あんなのにのって見たいなあ」
とぽつんと言ったので、コイナがのせてくれました。
しばらくすると、吹き流しがはげしくゆれだしました。
コイナは小屋の屋根にあがって、板屋根がふきとばされないよう、カナヅチでたたいています。
おばあさんは尾ヒレを足のようにして歩いています。外にあったジャガイモを小屋の中にしまいこむため、まっすぐ立って、口の上にひともりのジャガイモをのせていました。
こいのぼりが歩くなんてビックリです。でものん太はふるえ上がって何も見ていません。
激しく雨がふってきたからです。嵐がやってくるきざしでした。

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#8》文・画 いのしゅうじ

雪をかぶった山々をこえると、コイナは、
「あそこよ」
と言って、ぐんぐん高度を下げました。
丸太で組んだ小屋の前で、だれかが手をふっています。
「おばあちゃんよ」
コイナが着陸。おばあさんは「よく来たね」と、のん太を小屋の中に招き入れてくれました。
電気はないらしく、窓からの光だけが明かりのようです。
部屋のまん中にいろりがあり、炭火が小さな炎をあげています。そのまわりにイワナがくし刺しされています。
「食べごろだよ」
おばあさんがおなかのヒレで焼き上がったイワナをきようにつかみ、のん太に「さあ、お食べ」とさしだしました。
おどろいたようにおなかのヒレを見つめるのん太。おばさんはわらいました。
「人間の手のように動かせるの。わたしたちは何千年もかけてくんれんしてきたんだよ」

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#7》文・画 いのしゅうじ

 ジェットコースターから転落しかかったのん太。コイナがおなかのヒレを使って助けたのはいうまでもありません。

コイナはおばあさんが待つ里の山にむかいます。

途中、高い山がそびえています。雪がたっぷり残っていて、若者たちが春スキーを楽しんでいます。

コイナはスキー場でのん太をおろしました。

のん太はスキーははじめてです。

「初心者コースに行かなきゃ」

とコイナが言ったのに、のん太が、

「せっかく雪山に来たんだ。山らしいところに行きたい」

というので、ベテランむけのコースにつれていきました。

のん太が雪の斜面に降りたったちょうどその時、頂上の近くでグワーッと大きな地響きがおこりました。

雪のかたまりが渦を巻き、雪けむりをあげて、猛スピードで真上からおそってきます。

コイナは万一にそなえていました。あわやというところで、のん太はなだれからのがれることができました。

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#6》文・画 いのしゅうじ

「一つ聞いていい?」
「答えられることなら。なんなの?」
「ヨットは風を受けてすすむんだよね。でもコイナちゃんは風がなくてもすすんでる。どうして」
「やだ、わたし泳いでるのよ、空を」
「ぼくには飛んでるとしか思えない、プロペラもないのに」
「うーん、どう説明したらいのかしら」
コイナが頭をかかえながらすすんでいくと、遊園地が見えてきました。ジェットコースターのゴーッという大きな音がひびいてきます。
「そうだ、あれよ」
ジェットコースターは高い位置まで引き上げられて、急坂を下るいきおいにのって走り、回転していきます。
「その原理と同じよ、たぶん」
「ぼくジェットコースターに乗ったことない」
コイナはのん太を、あいてる席にすわらせました。安全ベルトをしていません。コースターが宙がえりしました。
真っさかさまに落ちるのん太……。

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#5》文・画 いのしゅうじ

のん太が目をさますと、のどかな海が広がっています。
たくさんのヨットが、帆をふくらませて波を切っています。
「ヨットっていいなって思うの」
コイナがしんみりといいました。
「風をうけるってことでは、こいのぼりもいっしょ。でもロープにしばりつけられて、自由がないわ。海の上ならどこへでも行けるヨットとおおちがい」
「コイナちゃんこそ、どこへでも行けるじゃないか

「こいのぼりはね、みんなどこへでも行けたの。人間に支配されるまでは」
コイナがむずかしいことを言ったので、のん太は話をかえました。
「ぼく、ヨットに乗ってみたい」
コイナが一そうのヨットにおろしてくれました。たまたま強い風がふいてきて、ヨットが沈みそうなほど傾きました。
ギャー!
コイナがおなかのヒレでのん太を救いあげました。

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#4》文・画 いのしゅうじ

「コイナちゃん、どうして川を泳がないの」
「泳ぎたいのよ、ほんとうは。でも、ダムやらなにやらで、見えるのはコンクリートばかり。泳ぐ気がしないわ

「これからどうするの」
「里にもどるの。おばあちゃんが一人でいるんだもの

「空を泳ぐって気もちいいだろうなあ」
「いっしょに行ってみない」
「うん、行く」
のん太はまようことなく、コイナに乗ることにしました。
コイナは空を泳ぐため、おなかを上にむけます。だから、のん太はコイナのおなかにまたがりました。
コイナはけわしい山々が海にせまる、美しいリアス式海岸の上空をスイスイすすみます。
「すっごーい」「うそみたい」「夢だ」
はしゃぎすぎてつかれたのか、のん太はすーっとねむってしまいました。おなかのヒレで、ふとんのようにやさしくつつむコイナです。