連載コラム・日本の島できごと事典 その110《来訪神》渡辺幸重

甑島のトシドン
宮古島のパーントゥ

2018(平成30)年11月、「男鹿のナマハゲ(秋田県)」など日本の来訪神行事10件が「来訪神:仮面・仮装の神々」としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。このときテレビで来訪神が出現する各地の祭りの映像が流されましたが、私がもっとも驚いたのが沖縄県の「宮古島のパーントゥ」でした。蔓(かずら)を巻き付けた体の上にどっぷりと泥を塗りたくった仮面のパーントゥが出現し、住民のみならず観光客まで追い回し、泥を塗りたくるのです。人間だけでなく車などの物にも泥を塗りつけるということでした。パーントゥは人間社会に豊饒や幸福をもたらすために現れ、泥を塗ることは穢れを落とし、悪魔祓いをすることにつながります。日本列島に限らず世界各地の祭りで現れる異形の仮面・仮装の神々は現代アートにも見え、それぞれ独特の面白さがあります。

来訪神は新年や小正月、豊年祭、節祭など一年の区切りに人間の世界に現れ、家々や村々に豊穣や幸福をもたらす神です。民俗学者の折口信夫(しのぶ)は「まれびと」と呼びました。多くは仮面などで仮装した妖怪のような姿で、人々と交歓したあと何処ともなく去っていきます。
ナマハゲが「泣ぐ子(ご)は居ねがー」などと寄声を発しながら子供を戒める光景は有名ですが、「甑島のトシドン(鹿児島県)」も3~8歳の子供のいる家を訪問し、怖い声で子供たちがした悪戯などを指摘し、懲らしめます。そのあと子供のいいところを褒め、最後に年餅を与えて去りますが、この年餅はお年玉の起源ともいわれます。
「薩摩硫黄島のメンドン(鹿児島県)」は八朔踊の最中に乱入し、踊り手の邪魔をしたり、スッベン木とよばれる柴で観客を叩いて悪霊を祓います。
「悪石島のボゼ(鹿児島県)」は観客を追いまわしてマラという長い杖で赤い泥を塗りつけます。泥は邪気を祓い、特に女性は子宝に恵まれると伝えられます。

実は、来訪神行事のユネスコ無形文化遺産は2009(平成21)年の「甑島のトシドン」単独登録が最初で、2018年に改めて10件となって登録されました。前記以外の行事には「吉浜のスネカ(岩手県)」「米川の水かぶり(宮城県)」「遊佐の小正月行事(山形県)」「能登のアマメハギ(石川県)」「見島のカセドリ(佐賀県)」があります。いずれも重要無形民俗文化財に指定されています。

他にも来訪神行事は全国にたくさんあり、観光の対象になっているものもありますが、名前は知られていながら謎に包まれているのが沖縄県八重山諸島(石垣島・西表島・小浜島・上地島)の「アカマタ・クロマタ」です。旧暦六月の稲穂祭りに来訪神アカマタ・クロマタが出現しますが参加は村の関係者に限定され、写真撮影や録音などの記録が一切許されていないのです。だから何の文化財にも指定されていません。

甑島のトシドン(「ニッポンドットコム」サイトより)
https://www.nippon.com/ja/guide-to-japan/gu900074/
宮古島のパーントゥ(「宮古島BBcom」サイトより)

https://miyakojima-bb.com/2022/10/06/blog-20221006/