読切り連載「アカンタレ勘太<4>」いのしゅうじ

空飛ぶ円盤

勘太は二年生になった。

一学期の始業式のとき、イッ子せんせいが、
「あしたから完全給食がはじまります」
一年生の三学期に給食の日があったので、みんな給食のことはしっている。そのときはコッペパンとミルクだけ。おかずはなかった。
「おかずもつくのよ」
「おかずはうれしいけど、ミルクはいやや」
ユキちゃんは口もとをゆがめた。
イッ子せんせいは黒板に「脱脂粉乳」とかいて、
「だっしふんにゅう。今はしかたがないの」
と、しょぼんと言った。 “読切り連載「アカンタレ勘太<4>」いのしゅうじ” の続きを読む

昭和の引き出し 私の半生 元民族新聞記者 鄭容順

2016 年 12 月 11 日、奈良県内で活動する奈良県女性センターの「奈良女性史研究会」の聞き取り会に招待された。私が生きてきた人生をお聞きしたいという。
聞き取りはテープ起こしをして他の聞き取り者も含めて冊子に編集されるという。仕事しているときは多忙で慌ただしく現場をかけまわつて記事にしていた。現職時は楽しかったが終わってみると、なんとハードな仕事だったのか。生き方というよりも現場で取材した体験だけの記憶になっているという私のわびしいちっぽけな人生と気が付いた。
奈良女性史研究会は、県職員の川合紀子さんが、奈良県女性センターの所長のとき、奈良県の女性史を編纂したいと、編集者を集めて何年間、編集委員は奈良県内の女性に関係するあらゆる分野を調査、取材して「花ひらくー奈良女性生活史」を編纂、著書を1995年に発刊した。のちの 1996 年 1 月にこのグルーブたちが「奈良女性史研究会」を立ち上げて現在も活動を続けている。 “昭和の引き出し 私の半生 元民族新聞記者 鄭容順” の続きを読む

原発を考える「飯館村を漆特産の古里に」井上脩身

福島県飯舘村の村議会議員、佐藤健太氏(写真)が2019年12月15日、大阪で開かれた「チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西」の集会で講演した。演題は「全村避難を強いられた村――飯舘村の8年とこれから」。佐藤村議は自然が豊かな美しい村の人たちが、福島第一原発の事故によって避難を余儀なくされた実態や除染状況、原発に頼らない再生エネルギーの現状などを説明したあと、復興事業の一つとして自ら先頭に立って取り組んでいる漆生産について報告した。福島原発事故からまる9年がたったが、村内居住者は事故前の20%に過ぎない。8割の人が古里に戻らない理由の一つに畜産業以外にこれといった産業がないことがある。その畜産では放射能汚染の不安を拭い去ることができず、いまだに見通しがたたないのが実態だ。そうしたなか、漆を新たな特産物にしようというのである。まだ夢の域を脱していないが、「脱原発」の村づくりへの挑戦が注目されている。 “原発を考える「飯館村を漆特産の古里に」井上脩身” の続きを読む

Lapiz 2020春号 びえんと Lapiz編集長 井上脩身

「憲法9条と世界の記憶」

もし九条すべての国にあったなら
今年1月1日付毎日新聞の川柳欄「仲畑流万能川柳」(仲畑貴志選)の秀逸句としてが選ばれた句であれる。「憲法9条を世界の9条に」との投句者(福岡の「名誉教授」)の思いに、仲畑さんが強く共感したのであろう。相前後して自民党の重鎮、古賀誠さん(79)が昨年上梓した『憲法九条は世界遺産』が同紙の書籍広告欄に掲載された。自民党の幹事長も務めた古賀氏には憲法9条への強い思いがあるようにうかがわれ、さっそく同書を購入。こうした書籍がほかにあるかを調べてみて、お笑い芸人・爆笑問題の太田光さんの共著に『憲法九条を世界遺産に』があることを知った。古賀さんと太田さんの主張に耳を傾けつつ、憲法9条が世界遺産になり得るかを考えてみた。 “Lapiz 2020春号 びえんと Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む

Lapiz 2020春号 巻頭言 Lapiz編集長 井上脩身

今年は60年安保からまる60年になります。安保条約改定を図り、その批准のために強行採決をした岸信介首相(当時)の孫、安倍晋三首相は「この60年、日米関係は強固になった」と岸元首相を賛美しています。おそらく安倍首相は、国会の前だけでなく、日本中で「岸を倒せ」のデモが渦巻いた熱狂的なエネルギーを、イメージとしてとらえることができないのでしょう。あるいは単純に「おじいさんが間違っているはずがない」と思っているのかもしれません。

写真:1960年6月18日の国会をうめたデモの渦の上空写真を前面に出した『60年安保闘争の時代』の表紙 “Lapiz 2020春号 巻頭言 Lapiz編集長 井上脩身” の続きを読む

Lapiz2020春号は3月1日発行予定です!

Lapiz (ラピス )はスペイン語で鉛筆の意味。  地球上には、一本の鉛筆すら手にすることができ ない子どもが大勢いる。 貧困、紛争や戦乱、迫害などによって学ぶ機会 を奪われた子どもたち。鉛筆を持てば、宝物のよ うに大事にし、字を覚え、絵をかくだろう。
世界中の子ど たちに笑顔を。

Lapizにはそんな思いが込められている。

写真:ベイルート郊外の村で

渡来人たちの宴《安曇族の謎》 片山通夫

 前回、海族・安曇族のことをチラッと書いた。白村江の戦いで都合4万人もの兵士を長朝鮮半島に送り込んだと思われる安曇族は忽然と歴史の上から消えた。

ただ倭国各地に散らばってその名を地名に残したと思われる。滋賀県には安曇川がある。また信州という海のないところに安曇野という地名が残っている。 “渡来人たちの宴《安曇族の謎》 片山通夫” の続きを読む