連載童話《のん太とコイナ[天の川]#5》文・画 いのしゅうじ

のん太が目をさますと、のどかな海が広がっています。
たくさんのヨットが、帆をふくらませて波を切っています。
「ヨットっていいなって思うの」
コイナがしんみりといいました。
「風をうけるってことでは、こいのぼりもいっしょ。でもロープにしばりつけられて、自由がないわ。海の上ならどこへでも行けるヨットとおおちがい」
「コイナちゃんこそ、どこへでも行けるじゃないか

「こいのぼりはね、みんなどこへでも行けたの。人間に支配されるまでは」
コイナがむずかしいことを言ったので、のん太は話をかえました。
「ぼく、ヨットに乗ってみたい」
コイナが一そうのヨットにおろしてくれました。たまたま強い風がふいてきて、ヨットが沈みそうなほど傾きました。
ギャー!
コイナがおなかのヒレでのん太を救いあげました。

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#4》文・画 いのしゅうじ

「コイナちゃん、どうして川を泳がないの」
「泳ぎたいのよ、ほんとうは。でも、ダムやらなにやらで、見えるのはコンクリートばかり。泳ぐ気がしないわ

「これからどうするの」
「里にもどるの。おばあちゃんが一人でいるんだもの

「空を泳ぐって気もちいいだろうなあ」
「いっしょに行ってみない」
「うん、行く」
のん太はまようことなく、コイナに乗ることにしました。
コイナは空を泳ぐため、おなかを上にむけます。だから、のん太はコイナのおなかにまたがりました。
コイナはけわしい山々が海にせまる、美しいリアス式海岸の上空をスイスイすすみます。
「すっごーい」「うそみたい」「夢だ」
はしゃぎすぎてつかれたのか、のん太はすーっとねむってしまいました。おなかのヒレで、ふとんのようにやさしくつつむコイナです。

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#3》文・画 いのしゅうじ

つぎの日の明け方、のん太の部屋の窓がゴトゴトと音をたてています。
目をさましたのん太が窓に目を向けると、こいのぼりが顔をガラスにくっつけ、何かうったえています。
窓をあけると、男の子にいじめられたこいのぼりでした。
「きのうはありがとう」
こいのぼりが言葉をしゃべったので、のん太は目を丸くしました。
「空を泳いでるっていってくれたでしょ。うれしかったわ」
「じゃあ、ほんとうに空を泳いでたんだ」
「うん、川より空がいいの」
こいのぼりは「コイナ」という名の女の子。
山奥の村で暮らしています。町が見たくなりました。アカダ市の上空までやってきたとき、フェスタの係の人につかまり、ロープにつるされたのだそうです。
「フェスタが終わって解放されたので、お礼を言いたくて、まっさきにここにきたの」

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#2》文・画 いのしゅうじ

タイコえんそうがひと休みしたとき、男の子のさわぎ声が聞こえてきました。
「コイは川で泳ぐんだろ。お前はさかさじゃないか」
折り紙のかぶとをかぶった二人の男の子が、一ぴきのこいのぼおりを、ものほしおざおでつっついているのです。
たくさんのこいのぼりのうち、ピンクのはだのこいのぼりが、みんなとは反対に、おなかを空にむけています。男の子はひっくりかえそうとしているのです。
のん太はこいのぼりが泣いているように見えました。
いじめにあってる、かわいそう!
のん太は勇敢にも男の子たちの前にたちはだかりました。

「いじめるな」
「川で泳がせるんだ。何が悪い」
「この子は空を泳いでるんだ」
えっ! 男の子はのん太の気迫におされたのか、ものほしざおをほうりなげ、ていぼうのむこうに走っていきました。

連載童話《のん太とコイナ[天の川]#1》文・画 いのしゅうじ

 1)天の川
ここはアカダ川のていぼう。男の子が寝そべっています。
男の子はのん太、小学四年生。ほんとうの名前は則夫。
のん太は学校でいやなことがあると、通学路のアカダ川の橋からていぼうに下り、あおむけになってぼおっと空をながめます。そうしてると、学校でのことを忘れられるのです。
のん太を見て、だれかが「のんびりのん太」とからかいました。それからは、友だちだけでなく、お父さんまで「のん太」とあだ名で呼ぶようになりました。
その父さんのお気に入りはアカダ高校のタイコえんそう。「高校生ばなれのうで」といいます。
こどもの日、アカダ川では毎年「こいのぼりフェスタ」が開かれます。
フェスタの一番の呼びものはアカダ高校のタイコえんそう。
なので、お父さん、お母さん、妹の一家四人で、河原でお弁当を広げるのが、のん太の家のこども日のならわしです。
今年も、家族でフェスタに行きました。千びきのこいのぼりが、気もちよさそうに泳いでいます。

読切り連載 アカンタレ勘太12-3《夢の作文》文・画 いのしゅうじ

勘太は夢のつづきをかんがえている。
ぼくとテッちゃん、ユキちゃん、タミちゃんはこてきたい。
ふえふきどうじのいしょうを着ている。
ぼくはよこぶえ、ユキちゃんはタンバリン、タミちゃんはもっきん、
テッちゃんはたいこ。
飛行機からおりると、みどりの丘からカネの音がきこえてくる。
赤いやねの、とんがり帽子のとけい台のカネだ。
イッ子せんせいが「カネの音に合わせてえんそうしましょう」という。
みんなで丘の上にあがる。 “読切り連載 アカンタレ勘太12-3《夢の作文》文・画 いのしゅうじ” の続きを読む

読切り連載 アカンタレ勘太12-2《新しょこくチャンバラ》文・画 いのしゅうじ

ぼくら虹の子
      三ねん一くみ 井田かんた
 じょうきひこうきで虹までとんで行きました。
ひこうきに、テッちゃんとユキちゃんと
タミちゃんものりました。
おおさかじょうが
みえました。虹はまるかったです。
くもに虹
がうつりました。すみよしのはしみたいでした。
虹につくと、イッ子せんせいがむかえて
くれました。
せんせいがいるので、ぼくはう
れしかったです。 “読切り連載 アカンタレ勘太12-2《新しょこくチャンバラ》文・画 いのしゅうじ” の続きを読む

読切り連載 アカンタレ勘太12-1《さかさレインボー》文・画 いのしゅうじ

おぼん明けのとうこう日。
イッ子せんせいが勘太をよんだ。
「かけた?」
「……」
「やっぱりわすれてる」
勘太の頭をげんこつでこつんとたたく。
「虹の子で作文かいてくれるんでしょ」
とせんせいにいわれ、勘太は隆三の家で見た虹をおもいだした。
「ぼくら、虹の子や」
(なんであんなこと言うたんやろ)
「武史にかいてもろたらどうですか」
「勘太くんにかいてほしいの」
「ぼ、ぼくには……」
せんせいは「かけません」と言わせない。 “読切り連載 アカンタレ勘太12-1《さかさレインボー》文・画 いのしゅうじ” の続きを読む

Lapiz 22夏号Vol.42 読切連載《アカンタレ勘太11-2》文・画 いのしゅうじ

がんりゅう島のけっとう

勘太がふりかえると、勝也がうでぐみをしてにらんでいる。
1年生の冬、タイコ橋のらんかんをすべらされてから、勘太は1学年上の勝也とは目をあわせないようにしてきた。
その勝也が裕三と徹をつれている。徹はともかく、裕三まで手下になるやなんて。
大ショックの勘太。ヘラクレスオオカブトににらまれたテントウムシみたいに、ぶるぶるふるえている。
武史が勝也のほうに一歩ふみだした。
「カブトムシをとって、なぜいけないんですか」
「アカンにきまってる。神社のきょかがいるんや」
「勝也さんはきょかをもらってるのですか」
「あたりまえや。宮司さんにもろた」
「いつ」
「きのう」
「このお宮さん、きょねんから宮司さんいません」
「え!」
武史に一本とられ、いっしょにカブトムシとりをするのをみとめた勝也。こんどは、
「どっちがようけ取れるか、きょうそうや」
といいだした。
テッちゃんと勘太は、武史から「じゅえきがある木を見つけるんや」と教えられたとおり、カブトムシをさがす。
30分でカブトムシが5匹、クワガタムシが3匹とれた。
勝也たちは、めったやたら林のなかをうごきまわり、カブトムシがいそうにないサクラの木までゆすっている。
裕三が勝也にかくれて、くるくるパーのしぐをした。裕三もほんとうは勝也がきらいなのだ。
勝也組がとれたのはカブトムシ1匹とクワガタムシ3匹だけ。
「まけた」
とは勝也はいわない。
「オレのカブトムシとおまえらのカブトムシ。しょうぶや」
きりかぶの上でたたかわせることになった。おちたり、ひっくりかえったりした方がまけだ。
武史組の戦士はいうまでもなくムサシ。勝也のはツノが1本にみえる。武史が小さな声で「コジロウ」といった。
「ぼくらが勝ちます」
武史は自信たっぷりだ。
「なんでや」
「がんりゅうじまです」
勝也は「なんのことや?」と目をぽそぽそさせた。
「いや、別に……。けっとう、はじめましょう」
コジロウとよばれているとは知らない勝也のカブトムシは、きりかぶの上でのそのそしていて、おちつきがない。
武史はムサシを手のひらにのせ、コジロウのようすをうかがっている。
「武史、はよせえ」
勝也はいらいらして、しょうぶをせかす。
「ええ、すぐに」
武史は少しじらして、ムサシをきりかぶにおいた。
しょうぶはあっという間についた。
ムサシはツノでコジロウを体ごとすくいあげ、ぽーんとほうりなげた。コジロウは頭からまっさかさまに、きりかぶからおちていった。
勝也は、まさか!という顔だ。
「武史くん、きみはすごいなあ」
よびすてから「くん」がつき、おまえから「きみ」に変わっている。
みんなでカブトムシとクワガタムシを1匹ずつ分けることにした。
帰りみち、勘太は武史にきいた。
「宮司さんいないって、なんで知ったんや?」
「社務所のカギさびてた。使ってないしょうこや」
ひくい声だ。いいかたがどこか大人びている。
(武史は、ぼくとちがうせかいの子なんや)
勘太は二人におくれて、とぼとぼと歩きだした。(完)

Lapiz 22夏号Vol.42 読切連載《アカンタレ勘太11-1》文・画 いのしゅうじ

カブトムシのムサシ

夏休みになると、テッちゃんは毎日のように、勘太をセミとりにさそいにくる。
きょうのテッちゃんは、広いおでこがいつもよりテカテカしている。いいことがあるしるしだ。
「カブトムシいる林、にいちゃんに教えてもろたんや」
国鉄のせんろちかくのお宮さんの森だという。
「いまからカブトムシがりに行こ」
「あのお宮さん、よその地区のや。虫とりなんかしたらおこられへんか」
「神さんにおまいりしたらええねん。そしたら、なんぼでも持っていけっていうてくれはる」
(そんなけっこうな神さん、いはるやろか) “Lapiz 22夏号Vol.42 読切連載《アカンタレ勘太11-1》文・画 いのしゅうじ” の続きを読む