連載コラム・日本の島できごと事典 その38《海鳥の楽園》渡辺幸重

気象危機を伝える毎日新聞記事

 北海道北部の日本海側に浮かぶ天売島はオロロン鳥(ウミガラス)が日本で唯一営巣する島として知られています。ウトウやケイマフリ、ウミネコなども多数飛来する“海鳥の楽園”なのです。島の中西部の高さ150mを超える断崖絶壁には春になると100万羽の海鳥の大群が飛来するといいます。私が見た資料には、「繁殖期には約60万羽のウトウが舞い、世界最大ともいわれるコロニーが形成される」「ケイマフリは国内最大の繁殖地で、近年では300羽程度が飛来する」「ヒメウ数十のつがいが繁殖」「ウミネコは島を代表する海鳥」などと書いてありました。

 ただ、心配なことがあります。オロロン鳥は、昭和の初めには4万羽を数えたそうですが、2017年(平成29年)に確認された飛来数はわずか56羽で、国内希少野生動植物種に指定されているのです。最近、天売島に住んで海鳥の取材をしている写真家・寺沢孝毅さんのレポートが載った新聞記事(毎日新聞2021911日夕刊)を目にして驚きました。「ぬるむ水 海鳥受難 北海道・天売島」という見出しのその記事には次のような記述がありました。

・天売島を世界最大の繁殖地とする、40万ペアのウトウを苦難が襲い始めた。(中略)イカナゴが激減し、子育てがうまくいかなくなり始めたのだ

・巣立ちを迎える7月までに、ふ化した数十万のヒナの7割超が飢えで倒れた。同様のシーズンが、ここ10年で4回を数える

 危機の原因は“海温上昇”です。40年前にはイカナゴ漁の水揚げが1億円もあったのに近年はイカナゴが海に皆無ということもあると寺沢さんは言います。気象変動がもたらす危機は人間社会にも及んでいます。寺沢さんが移住した40年前に700人あった島の人口は3分の1近くに減りました。原因は漁業の不振で、夏の主要漁獲物だった最高級エゾバフンウニは暖かさに強いキタムラサキウニに取って代わられたそうです。

 島は気象危機を可視化し、警鐘を鳴らしています。日本は島国ですから気象危機は日本全体の問題です。たとえば海面上昇が続いたら日本列島はどうなるでしょうか。「鳥の赤ちゃんは食べるものがなくてかわいそうだね」ではすみません。