連載コラム・日本の島できごと事典 その39《海洋無酸素事変》渡辺幸重

(写真)網代島の地層(津久見市観光協会HPより)

私たちは酸素がないと生きていけません。海で赤潮が発生すると魚が浮くのも富栄養化による酸素欠乏状態が起きるからです。鹿児島県の上甑島・貝池は水深5m付近までは淡水ですがそれより深いところは古い海水のままで、酸素があまりありません。そのため酸素がなくても生きられる生物だけがいる世界でも珍しい場所になっています。淡水と海水の境界部には嫌気性光合成細菌、それより深いところには硫酸還元細菌などがいるということです。
さて、地球全体が酸素欠乏状態になったらどうなるでしょうか。実はこれまで地球上では数回、そのような“事変”が起き、生物の大量絶滅が起きたといわれます。海水中の酸素が無酸素または貧酸素状態になることから「海洋無酸素事変(または海洋低酸素事変)」と呼ばれています。
大分県津久見市の網代島では2億年以上前の三畳紀末に起きた海洋無酸素事変の跡を見ることができます。海洋無酸素事変では黒色頁岩(けつがん)と呼ばれる有機物に富んだ堆積物が海洋の広範囲にわたってできますが、網代島には約2億5,100万年前の海洋無酸素事変直後にできた痕跡の黒色頁岩が露出しています。地球の歴史の中でもっとも大きな生物大量絶滅があったといわれるのはこのときのことです。島の岩石は黒色から緑色、紫色、赤色へと変化していますが、これは、溶存酸素の割合によって色が変わったもので、酸素量が回復に向けて増えていった約2億5,000年前~2億年前の過程を反映しています。地球史の上で非常に貴重な地層を目にすることができるのです。
網代島では2011年(平成23年)5月に2億4,000万年前の堆積層から流れ星のかけら(宇宙塵)も大量に発見されました。発見当時は世界でもっとも古い宇宙塵とされ、太陽系で起きた惑星衝突などが解明されると期待されます。
海洋無酸素事変の詳細についてはまだ解明されていないことが多いようですが、「地球深部から地球表層環境までを貫くきわめてダイナミックな地球の営みによる究極の産物」といわれます。私にもよく理解できていませんが、当時はかなり気温が高い地球温暖化の時代だったということを聞くと、現在進んでいる気象変動の行方が気になります。