夏の千夜一夜物語《幽霊の願い》構成・片山通夫片山通夫

むかし、越後の国、今の新潟県に源右ヱ門さまという侍がおったそうな。
度胸はあるし、情けもあるしで、まことの豪傑といわれたお人であったと。

あるときのこと、幽霊が墓場に出るという噂が源右ヱ門さまに聞こえた。「とにかく幽霊が出るとみんな騒いでおるが、幽霊なんざあ、この世に何かうらみがある者とか、くやしいとか、願いのある者がなるもんだ。あたり前の人は死んで仏(ほとけ)になるもんだから、おれが行ってその幽霊を助けてやろう」
というて、真夜中の丑満時に鉦(かね)を叩いて南無阿弥陀仏と唱えながら墓場へ行ったと。

そしたら、ボオーと白い衣装着た婆(ば)さまが出て来たと。そして、
「源右ヱ門殿、源右ヱ門殿」
と呼ばったと。

「なんだ」というたら、
「おれも死んではや四、五十年にもなる。人は死ぬとき、みんな末期の水を貰って死ぬども、おれは水も何もなく、ただ棺桶の中さ入れられてしもた。その水を飲ませてもらわなかったから、今、焦熱地獄に置かれて、のどが渇いてのどが渇いて仕様がないごんだ」
というたと。源右ヱ門さまは、
「そういう事なれば」
というて、沢までどっどと降りて行って、叩いていた鉦を裏返しにして、そいつに十杯水を汲んで持って来てやったと。
「ほれ、こいつを飲め」
と差し出したら、幽霊の婆さまは、さもうまそうに飲んだと。

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夏の千夜一夜物語《絵から抜け出した子ども》構成・片山通夫片山通夫

むかしむかし、あるところに、子どものいない夫婦がいました。
「子どもが欲しい、子どもが欲しい」
と、思い続けて毎日仏さまに願ったところ、ようやく玉のような男の子を授かったのですが、病気になってしまい、五歳になる前に死んでしまったのです。
夫婦はとても悲しんで、毎日毎日、泣き暮らしていました。
でも、ある日の事。
「いつまで泣いとっても、きりがない」
「そうね、あの子の絵をかきましょう」
夫婦は子どもの姿を絵にかいて、残す事にしたのです。
それからというもの、父親は座敷に閉じこもって絵筆を持つと、食べる事も寝る事も忘れて一心に絵をかきつづけました。
やがて出来上がった絵は、子どもが遊ぶ姿をかいた、それは見事な出来映えでした。
二人はその絵をふすま絵にして、我が子と思って朝に晩にごはんをあげたり、話しかけたりしました。 “夏の千夜一夜物語《絵から抜け出した子ども》構成・片山通夫片山通夫” の続きを読む

夏の千夜一夜物語《百物語の幽霊》構成・片山通夫片山通夫

むかしむかし、ある村で、お葬式がありました。
昼間に大勢集まった、おとむらいの人たちも夕方には少なくなって、七、八人の若者が残っただけになりました。
「せっかく集まったんだ。寺のお堂を借りて、『百物語(ひゃくものがたり)』をやってみねえか?」
一人が言い出すと、
「いや、おとむらいの後で『百物語』をすると、本当のお化けが出るって言うぞ。やめておこう」
と、一人が尻込みしました。
この『百物語』と言うのは、夜遅くにみんなで集まって百本のローソクに火をつけ、お化けの話しをする事です。
話しが終わるたびに、ひとつ、またひとつと、ローソクの火を消していき、最後のローソクが消えると本当のお化けが出るという事ですが、若者たちは、まだ試した事がありません。 “夏の千夜一夜物語《百物語の幽霊》構成・片山通夫片山通夫” の続きを読む

夏の千夜一夜物語《置いてけ堀 別バージョン》片山通夫

むかしむかし、あるところに、大きな池がありました。
水草がしげっていて、コイやフナがたくさんいます。
でもどういうわけか、その池で釣りをする人は一人もいません。
それと言うのも、ある時ここでたくさんフナを釣った親子がいたのですが、重たいビク(→魚を入れるカゴ)を持って帰ろうとすると、突然、池にガバガバガバと波がたって、
「置いとけえー!」
と、世にも恐ろしい声がわいて出たのです。
「置いとけえー!」
おどろいた親子は、さおもビクも放り出して逃げ帰り、長い間、寝込んでしまったのです。
それからというもの、恐ろしくて、だれも釣りには行かないというのです。 “夏の千夜一夜物語《置いてけ堀 別バージョン》片山通夫” の続きを読む

夏の千夜一夜物語《置いてけ堀》構成・片山通夫片山通夫

釣り人が魚を持って帰ろうとすると、「おいてけ~」という不気味な声が聞こえることから「おいてけ堀」と名づけられた掘りがありました。
その声のあまりの怖さに、みんな釣った魚を放り投げて帰ってしまうのです。それを聞きつけた魚屋。嫁が止めるのも聞かずに、魚天秤とねじり鉢巻姿でお堀へ向かいます。

さんざん釣って帰ろうとすると、やはりお堀から「おいてけ~」の声が……。魚屋は言うことを聞かず、啖呵を切って一目散に走ります。柳の下までくると、カランコロンと下駄の音。
「魚を売ってください」という女に、みんなに見せるまではダメだと断ると、「これでもかえ?」と、女の顔がのっぺらぼうに……。
魚を放り出し慌てて逃げる魚屋。途中見つけたそば屋で水をもらおうと、店主の顔を見れば、またもやのっぺらぼう。腰の抜けた魚屋、どうにか家までたどり着き、嫁に一部始終を話すのですが……。

夏の千夜一夜物語《船幽霊》構成・片山通夫片山通夫

海で死んだ人たちの霊が、生きている人たちを向こうの世界へ引きずり込むものとされ、昔から漁師たちに恐れられていました。お盆には、浜辺で迎え火を焚いて、海で亡くなった人をお迎えし、お盆の間は決して漁に出てはいけないとされていたのです。
ところが、威勢のいい漁師のお頭が村の老人たちの止めるのも聞かず、子分を引き連れお盆の夜の海に繰り出してしまいました。ほかに漁をする船はいませんから、網を入れるとおもしろいほど魚が取れます。しかし、気がつくと黒い雲に覆われ、船幽霊が現れたのです。

丸い光の亡霊たちは、漁師の舟を取り囲み「ひしゃくをくれ」と口々にいいます。船幽霊にひしゃくを渡すと、海の水を船に注ぎ入れ、沈めてしまうと恐れられていました。
するとその時、浜で焚いていた迎え火が一斉に消え、空に浮かぶと沖に向かって飛び始めました。迎え火は船幽霊を取り囲むと「わしらも同じ海で死んだ者。悪さをするな」と諭し始めたのです。

これによって船幽霊は消え、漁師たちは助かりましたが、親方は「ひしゃくがほしい…」とブツブツいいつづけ、おかしくなってしまったそうです。

夏の千夜一夜物語《子育て幽霊》構成・片山通夫片山通夫

六道の辻で

死んだはずの女が、自分の墓の前に捨てられていた赤ん坊を育てるというお話。
ある夏の夜、村のアメ屋に女がアメを買いにやってきます。入れ物に入った水アメを受け取ると、女は消えるように帰っていきました。 来る日も来る日も女はアメを買いにやってきます。雨の夜、隣村のアメ屋が訪ねてきたとき、ちょうどその女がアメを買いにきました。隣村のアメ屋は「1か月前に死んだ松吉の女房だ」といい、2人は真相を探るべく、女の後をつけていきます。女の向かった先は隣村の墓場。そこで、すーっと音もなく消えてしまったのです。

恐ろしくなった2人は、近くの寺に駆け込み、和尚さんと一緒に墓を見に行くことにしました。
すると、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。赤ん坊 は松吉の女房の墓の前に捨てられていたのでした。
添えられた手紙から、赤子が数日前に捨てられたことがわかり、泣いている赤子を見かねた松吉の女房が、アメを買って育てていたのでした。

夏の千夜一夜物語《太助とお化け》構成・片山通夫片山通夫

 夏です。夏定番の怖い話をご紹介。すでにご存じの方も多いと思いますが‥‥。
最初は

お化けが出るお寺に悩んでいた村人に、薬売りの太助が度胸と知恵で立ち向かうというお話。
村人の悩みを見かねた太助が古ぼけたお寺で構えていると、はたして、一つ目の大きな化け物が。「お前の怖いものは?」という問いに、「銭が怖い」と答えると、化け物は「オラはナス汁が怖い」というではありませんか。翌日、太助は鍋いっぱいにナス汁を作ってお化けを待ちます。現れたお化けは、逃げる太助に向かって小判を投げつけます。

一方の太助は、ナス汁を化け物にふりかけ、追い詰めました。悲鳴を上げる化け物に鍋ごとナス汁をかけると、化け物は大きなキノコに、小判は小さなキノコに変わってしまいました。
このことから、キノコ汁にナスを入れると中毒にならないと言われるようになったそうです。

夏の千夜一夜物語《梅雨さなか、それでも今日は七夕》片山通夫

インターネットから拝借

子供の頃から「雨の続く梅雨時に七夕?」って疑問に思っていた。そして成長するにつれそんなことは忘れていた。しかし最近は「織姫と牽牛は年に一度のデートできるんだろうか」と考えるようになった。ご存じのように天帝の怒りに触れて織姫と牽牛夫婦は別居させられて、年に一度だけ逢瀬を許されることになった。天の川は二人の間に横たわって…。
子供心に雨だったら見えないなと心配もした。しかし今や宇宙へ人が行く時代。梅雨空の上の天の川は晴れ渡っていることも判明した。大丈夫。夫婦は逢瀬を楽しむことができる。

昔話では「カササギ」という鳥が雨で水嵩の増えた天の川で羽を広げて渡らせてくれたという話もある。そういえばカササギ橋という橋も存在する。また七夕に降る雨のことを「催涙雨(さいるいう)」と呼ぶ。一年ぶりに逢えた二人が流す嬉し涙だとか…。

いずれにせよ二人は無事に逢えるようでひと安心。