夏の千夜一夜物語《船幽霊》構成・片山通夫片山通夫

海で死んだ人たちの霊が、生きている人たちを向こうの世界へ引きずり込むものとされ、昔から漁師たちに恐れられていました。お盆には、浜辺で迎え火を焚いて、海で亡くなった人をお迎えし、お盆の間は決して漁に出てはいけないとされていたのです。
ところが、威勢のいい漁師のお頭が村の老人たちの止めるのも聞かず、子分を引き連れお盆の夜の海に繰り出してしまいました。ほかに漁をする船はいませんから、網を入れるとおもしろいほど魚が取れます。しかし、気がつくと黒い雲に覆われ、船幽霊が現れたのです。

丸い光の亡霊たちは、漁師の舟を取り囲み「ひしゃくをくれ」と口々にいいます。船幽霊にひしゃくを渡すと、海の水を船に注ぎ入れ、沈めてしまうと恐れられていました。
するとその時、浜で焚いていた迎え火が一斉に消え、空に浮かぶと沖に向かって飛び始めました。迎え火は船幽霊を取り囲むと「わしらも同じ海で死んだ者。悪さをするな」と諭し始めたのです。

これによって船幽霊は消え、漁師たちは助かりましたが、親方は「ひしゃくがほしい…」とブツブツいいつづけ、おかしくなってしまったそうです。